ゼン・ラジェディ
皆様、長らくお待ち頂き有難う御座いました!
本日より、更新再開です!
気温の上がり下がりがえぐいですので、皆様くれぐれもお体ご自愛下さいませ。
突然現れた黒い鎧を纏った大柄な騎士は、ゆっくりした足取りで私達の前に立つと、手にした大剣を床に突き刺し柄の上に両手を置く。
帝国貴族の証である、漆黒の髪と瞳。全身に鎧を纏っている状態でも分かる、均整の取れた体躯。そして、アシュル様方や兄様達と張る程に美しい容姿。……だがその麗しい顔には、遠目からでも分かる程深くえぐれたような傷跡がいくつも刻まれていた。
「――……ッ!!」
その威風堂々とした立ち姿。そして、彼の全身から立ち上る覇気が、陽炎のように揺らめいている。そしてなによりも、底知れぬ闇のような深淵の瞳を目にした瞬間、心臓が鷲掴みにされたかのような恐怖が湧き上がり、全身に震えが走ってしまう。
「……エレノア。大丈夫かい?」
「は……はい。オリヴァー兄様……」
「君が混乱するのも分かる。……これは……あの男、ブランシュ・ボスワースに近い……。いや、それ以上か……」
震えが止まらない身体を両手で掻き抱きながら、オリヴァー兄様を見上げる。すると兄様は、全身から魔力を噴き上げ、厳しい表情を浮かべながら目の前の騎士を睨み付けていた。
それはクライヴ兄様達も同様で、目の前の騎士に鋭い視線を向けつつ、全身から魔力を噴き上げている。その皮膚がビリビリするような緊張感の中、私はゴクリと喉を鳴らした。
『確かに……似ている。姿形が……というのではなく、全体的な雰囲気があの人に……!!』
先程オリヴァー兄様の口から出た名前……。ブランシュ・ボスワース元辺境伯。
実戦により磨き上げた実力と、元々備わっていたのであろう戦いのセンスが合わさった彼の剣技は凄まじいの一言で、アシュル様の『光』の魔力で『魔眼』の力を相殺されていたにもかかわらず、クライヴ兄様とアシュル様の二人がかりでもってしても、完全に倒す事が出来なかった。
『魔眼』を持って生まれた彼は幼い頃、偶発的にその『魔眼』を発動してしまったのだそうだ。
その結果、多くの部下達を殺す事になってしまった彼は、罪を償うかのように己を律し、魔獣と他国の侵略者達から領地を守る為、ひたすらに戦い続けていたという。
でも最終的に彼は……。私に懸想した事により『魔眼』の力に呑まれ、非業の死を迎える事となってしまった。
そんな彼の戦いを目の当たりにした事のあるオリヴァー兄様が、目の前の騎士の実力はボスワース元辺境伯と同等かそれ以上……と断じたのだ。それだけであの騎士が、どれ程の力を秘めているのかが分かる。
今だって、彼の身体から噴き上がる魔力と、一分の隙も無い立ち姿に腹の奥が冷えていくような恐怖を覚え身体が震えてしまうのだから。
「……お初にお目にかかる。我が名はゼン・ラジェディ。『魔王』陛下セオドア様の近衛にして、『黒騎士』の称号を得る者なり」
低いバリトンの声が、不自然な程に静まり返った謁見の場に響き渡った。
「『黒騎士』だと……!?」
ザワリ……と、オリヴァー兄様達が、眼前に立つ黒い騎士を凝視する。
「え?ひょっとして、「黒騎士」って凄い名称なの!?」
私の言葉に、オリヴァー兄様が頷いた。
「……『黒騎士』とは、帝国における『剣聖』の称号だよ」
「『剣聖』!?」
「ああ。誰がその名を拝したのか、長らく不明だったのだが……。まさか、第三皇子の近衛だったとは……!」
――『剣聖』の称号。
それって、グラント父様と同クラスという事なの!?あ、グラント父様は「んなかったるい名前なんて要らねえから!」って、称号もらうの辞退しちゃっているから、正式には『剣聖』ではないんだけど。
で、でも確かボスワース元辺境伯って、不意打ちだったとはいえ、あのグラント父様に膝を突かせた事があったんだよね。
『……え!?ち、ちょっと待って!!』
……という事は、この目の前の騎士。ひょっとしなくても、グラント父様と同レベルの実力を持っている……って事!?
「いや。そこまでは分からない。グラント様の全力を知る人は限られているしね。……だが間違いなく、彼は強い。正直、何故これ程までに強い騎士が全く世に出る事なく、名ばかりの皇子と言われていた第三皇子の近衛騎士をやっていたのかが理解出来ない」
そ、そうだよね。ここまで実力ありそうな上に『黒騎士』の称号を持つ人だったのなら、第三皇子ではなく、皇帝の近衛騎士になっていてもおかしくない筈。なのに何故……。
「――ッ!!」
咄嗟にオリヴァー兄様が防御結界を張ったその直後、宰相ネイハムによる『溶解』の魔力が、雨あられと降り注いだ。
「くっ……!!」
「兄様っ!!」
オリヴァー兄様の、あのえげつない防御結界がどんどん溶かされ薄くなっていく。しかも、その薄くなったタイミングを狙ったかのように、上から物凄い『圧』がかかり、結界がボコボコにへこんでいってしまう。
「……チッ!重力を操る『魔眼』持ちがいるな!!」
「――ッ!」
元辺境伯やアリステア……いや、デヴィンと同じ力を……!?
「に、兄様!私も戦います!!」
「エレノア!?」
「結界に……満開に咲き……」
「駄目だエレノア!!結界に咲きまくったら、周囲が見えなくなる!!」
ああっ!そ、そうですよね!!ごめんなさいっ!!
な、ならば改めて!……あの宰相の身体に満開に咲き誇れ!!
「――!?」
途端、宰相の身体にペンポポスミレが芽吹き始めた。……けれども開花する前に、彼の『魔眼』の力により溶かされ消滅してしまった。
「エレノア、ここはいわば敵の本拠地だ。しかも強力な『魔眼』持ちが多数いる。不意打ちじゃない限り、君の力を最大限に発揮させるのは厳しいだろう」
た、確かに。しかもあの宰相の力と私の力って、相性最悪なんてもんじゃない!!
「エレノア!!オリヴァー!!」
「えっ!?」
アシュル様の叫び声と同時に、あの黒騎士が私達に剣を振り下ろす姿がスローモーションのように目に映った。い、何時の間に……!?
「術式展開。焔よ……踊れ!!」
黒騎士……ゼンの剣が結界ごと私達を両断しようと刀が触れた瞬間。それが合図だったかのように、青白い焔がゼンの全身に巻き付き弾けた。
「――!!」
壮絶な程に美しく高温な焔。普通であれば、一瞬で骨まで消滅する程の火力だった。が、ゼンは大剣を一振りし、その全身から噴き上がる焔を一瞬で振り払った。
「オリヴァー!!」
「下がれ!クロス伯爵令息!!」
その一瞬の隙を突き、後方に下がった私とオリヴァー兄様を庇うように、クライヴ兄様、アーウィン様、ジルベスタ様が黒騎士へと同時に切り掛かる。が、振り下ろした剣や刀の先に黒騎士の姿は無い。
『え!?ど、どこに……!?』
「グ……ハッ!!」
「――!!?」
肉を断つような音とくぐもった声が鼓膜に届き、振り返る。その先には……。
「学院長様ッ!!」
私達の戦闘の隙を突き、先程の大魔法を展開しようとしていたのであろう学院長様が、黒騎士により袈裟切りにされ、崩れ落ちる姿が見えた。
「大叔父上ッ!!」
「ダリウス様!!」
だけど、それで終わりではなかった。
ゼンは振り下ろいた剣を構え直すと、止めとばかりに自分の足元に蹲る学院長様を串刺しにしようとする。
「止めてー!!」
「大叔父上ー!!」
まるでスローモーションのように迫る惨劇に、私とアシュル様の喉から悲鳴混じりの叫び声が上がった。
ガキィ……ン!!
『――ッ!!』
……って、あれ?
「こっ、小人な私!?」
「ミニエレノア!!」
なんと、学院長様を串刺しにせんとした大剣を、小人な私が小さな日本刀を構え、はっしと受け止めていたのだった。なんというタイミングの良さ!!というか、どこから出て来たんだあんたは!?
「…………『大地』の聖女の力……か」
黒騎士はそう呟いた後、自身の剣を受け止め踏ん張っている小人な私を、無表情のまま思い切り足で蹴り上げた。
「ああっ!!ミニエレノア!!」
「エレノア嬢!!」
「エレノア―!!」
小人な私は、一瞬で星になって消えた。……うん。ディフェンスは見事だったけど、ああいった直接攻撃には弱いんだね。
その時。あちらこちらから、ブチブチッと、何かが切れるような音が聞こえた……ような気がした。
「……『邪神』に会うまでは……と、全力で己を律していたが……もう限界だ!!貴様らはここで叩き潰す!!」
「右に同じく!!エレノアと、エレノアの分身、そして大叔父上を甚振ってくれたその罪の代償、この場で味わわせてやる!!」
そう宣言した瞬間、ドン!!と、アシュル様とフィン様の身体から、白と黒の魔力が一気に噴き上がった。
咄嗟にゼンが学院長様から距離を取った次の瞬間。複数人の『魔眼』により、魔力汚染に近い状態になっていた空気が清浄なものへと変わっていき、学院長様の傷が一瞬で癒える(凄い!!)。
そ、それにしても二人の表情。いつもの穏やかかつ冷静なものから一変し、悪鬼に近いものへと変わっている!!ヤバい!完全にブチ切れている!!
『いやいやいや!帝国中からの『負』の感情が『邪神』の元に終結するまで、なんとかしなくてはならないのに、ここで全力出しちゃったら不味いですよね!?』
「オ、オリヴァー兄様、お二人を止めて!!『アレ』は私の魔力であって、私じゃないですから!!」
そう必死に訴えかけるも……ダメだ―!!兄様方も他の皆様方も、アシュル様方に負けず劣らずブチ切れている!!
「――ッ!なんと……!!」
「これが『光』と『闇』の魔力……!なんという凄まじき力か!!」
突如として、自身の『魔眼』の力が封じられた事により、ネイハムを含めた帝国側が激しく動揺する。そんな中、ゼンだけは全く揺らぎを見せる事無く、自身の大剣を再び構えた。
「に、兄様!!あのっ!!」
「……皆様方。何をこのような場所で寄り道なさっておいでなのです。全く……。エレノアお嬢様が困っておられるでしょう?」
――えっ!?
なんとか冷静になってもらおうとした瞬間、呆れ果てたような口調の、非常に聞き慣れた声がその場に響き渡ったのだった。
ミニノアにまったく動じないゼンさん。
観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!
評価して頂けるとモチベに繋がります!
次回更新も頑張ります!




