貴方を愛しています
※コメントについてお知らせありますので、後書きと活動報告をチェックしてみて下さいませ。
「くっ!?」
咄嗟に上体を捻り、刃の軌道を逸らして急所を避ける事が出来たが、そのまま脇腹を貫かれてしまう。
「ぐ……はっ!!」
オリヴァーの口から吐き出された血と呻き声を、シリルは恍惚とした表情を浮かべながら見つめた。
「ああ……。流石に一撃で仕留める事は出来なかったか。だが、まあその方が長く楽しめるな」
嗤い声と共に勢いよく刃を引き抜かれ、鮮血が噴き出し服を赤く染める。オリヴァーは咄嗟に傷口を強く押さえながら、シリルから距離を取った。
「ほら、お前の『番』も、共に逝きたいと荒ぶっているよ?」
シリルの言葉に振り向くと、煉獄の矢に貫かれ灰になった筈のレナーニャが、焼け爛れ炭化した姿で再生されていた。
おそらくは『狂人化』によるものであろう。もはや原型すらとどめていない、化け物然とした醜悪極まる姿になりながらも、何かを探すように緩慢な動きで周囲を窺っている。
そうして、その赤黒い瞳孔がオリヴァーを捕らえると、しわがれた声が口から漏れ出る。
【オ……リヴァー……クロ……ともに……!!】
「くっ!!」
九つの尾が縦横無尽に襲い掛かってくるのを、オリヴァーは刀を振るいかわす。だが、脇腹に手を当てながらの攻防ゆえに、思うように力が振るえない。
「ほらほら、オリヴァー・クロス!!脇が甘いよ!?」
「――ッ!!」
その合間を縫って、まるで猫が獲物を嬲るかのように、シリルの白刃がオリヴァーの身体を執拗に切り裂いていく。また、シリルに傷付けられた隙を突き、間髪入れずにレナーニャの尾がオリヴァーを刺し貫かんと、矢継ぎ早に攻撃を加えていく。
「オリヴァー様!!」
「こんの、クソ野郎がー!!」
イーサンとティルがオリヴァーの危機に気が付き、駆け付けようとした直後。目にも留まらぬ早さで、ロジェがティルに抱き着き、そのまま羽交い絞めにする。
「――ッ!?猫女!なにを……」
「ティル!!」
その行動の意図を察し、血相を変えたイーサンが、ティルに張り付いたロジェの全身を『闇』の触手で貫き、引き剥がそうとしたその時だった。
【グルァァァー!!】
凄まじい咆哮と共に、巨大化したジェンダが渾身の力でもってイーサンを地面に叩きつける。
「ぐ……ッ!!」
「イーサン様っ!!」
直後、ロジェとジェンダの身体が凄まじい勢いで膨張すると、まるで膨れ切った風船が破裂するように次々と爆散した。
「――なっ!?イーサン!!ティルー!!」
凄まじい爆風から顔面を両腕で守りながら、オリヴァーがイーサン達の名を叫んだその時だった。舞った土埃の幕を突き破り、シリルが目の前に現れる。
「残念だけど、そろそろ終わりにしなければね。とても楽しい時間を有難う。そして、さよなら。オリヴァー・クロス!!」
「!!」
心臓を狙い、再び白刃が突き立てられた。その時だった。
ギィン!!
「――ッ!?なにっ!?」
オリヴァーの胸を、今度こそ貫かんとしたシリルの剣は、硬質な音と共に弾かれる。
咄嗟に距離を取り、目の前に現れた人物を見たシリルと、その人物に庇われるような形となったオリヴァーの目が驚愕に見開かれた。
「あ……。エレ……ノアッ!?」
オリヴァーをその背に庇うように刀を構えているのは、自身の命よりも大切で、この世で最も愛しい存在だった。
「オリヴァー兄様!!今、助けます!!」
「な……!?えっ!?」
違和感に気が付き、胸元に目をやると、そこにはいつの間にか、先程スコップを片手に頑張っていた小さなエレノアが真剣な顔で自分に張り付いていた。
そして、驚きに一瞬唖然としている間に金色の蔓が地面を突き破り、瞬く間にオリヴァーの周囲に結界を張っていく。
「こ……れは……!?」
見慣れた淡い金色の結界。しかも驚いた事に、結界の内部には、イーサンとティルまでもが横たわっているのが見えた。
先程の『狂人化』による生命力の爆発に巻き込まれたのであろう。彼らは身体の所々が焼け焦げ、服も至る所がズタズタになっていた。……が、自分同様。それぞれの身体に小さなエレノアが張り付き、次々とその身体にペンポポスミレを生やしていっているのが見えた。
チラリと自分の身体に視線を落として見てみれば、重傷を負った脇腹を中心に、野花が咲き始めていた。
『…………』
その、得も言われぬ温かい心地よさに、もはや限界寸前であった心身が蕩け、思考が強制的に霞がかかっていく。
だがオリヴァーはそれに抗うと、自分の目の前でシリルと一触即発状態になっているエレノアに向かって叫んだ。
「エレノア、頼む!!僕達の事は放置していい!!だから今すぐ、自分自身に結界を張るんだ!!」
「……嫌です!!」
「我儘を言うな!!……それに、『浄化』はもう少しで……!!」
シリルに嬲られながらも、この一帯の変化には気が付いていた。
あれほど荒ぶっていた『彼女達』が、再び鎮まりかけていた事を。だからこそ、自分はこれ程の重傷を負っていても、ここまで戦い続けていられたのだ。
――『浄化』は、成功しなくてはならない……!!
この国に召喚されてしまったクライヴやアシュル達。アルバ王国に残った肉親やそれに準ずる人達。王族の片腕として、自分が将来守り導く一端となる多くの者達、そして愛する故郷。それら全てを救う為に。
エレノアの『力』は、自分達が絶対に失ってはいけない最後の砦。それらとエレノアをこの身一つで守れる事が出来るのであれば、命など惜しくはない。
「『邪神』が復活した以上、『君』という存在がどれ程重要なのか分からないのか!?君は全ての人類の希望だ!!だから、僕の命なんか捨て置くんだ!!」
「――ッ!!だったら、私はもう祈らない!!」
「エレノア!?」
シリルを睨み付け、金色に輝く刀身を向けながらエレノアは言葉を続けた。
「……私だって、みんなを守りたい!!だから、歯を食いしばって祈り続けた!!……でもその結果、オリヴァー兄様が……イーサンとティルが死ぬっていうんなら……私はもう、祈れない。希望とか人類の為だとか、そんなもの全部、どうだっていいんです!!」
「エレ……」
「私……私は、オリヴァー兄様を愛しているんです!!」
「――ッ!!」
「兄様がいない世界で、私は生きていきたくない!!だから兄様は、私を生かす為に、生きなくちゃいけないんですっ!!」
『エレノア……!』
死と怨嗟が充満するこの絶望的な状況下で、初めてエレノアから告げられた愛の言葉。
自分が生き続ける為に、生きてほしい。心の底から叫ぶその姿に、ふと頬に熱いものを感じ、手を当てる。
「……あ……」
そこで初めて、オリヴァーは自分が泣いている事を知った。
「……最後の別れだろうからと、慈悲をもって聞いていれば……。ああ、まったくもってどうしようもない」
エレノアに刀を向けられながらも、そのまま黙って立っていたシリルが、ここにきて初めて剣を構える。
穏やかな表情。だが、金色に光る瞳には昏い憎悪に塗れていた。
「僕の『こぼれ種』は、本当になっていない。これから共に生き、仕えていく相手の前で他の男に色目を使うとは……。これは、きつい躾を施さなくてはならないようだね」
その言葉を聞いたエレノアの表情が怒りに染まる。
「ふざけるな!!誰があんたなんかと一生を共になんてするか!!それに、私は『こぼれ種』なんて名前じゃない!!あんたらが勝手に決めた気色悪い名称なんかで呼ぶな!!虫唾が走る!!」
怒号を飛ばすエレノアを冷ややかに見つめながら、シリルは溜息をつきながら肩をすくめる。
「やれやれ、口も悪いときたか。流石はアルバ王国の女だ。甘やかされているんだねぇ。だが、ここではそういった態度でいると痛い目見るよ?……こんな風に、ね!!」
「――ッ!!」
言葉の終りと同時に、一瞬で間合いを詰められる。
ギィン!と、硬質なもの同士がぶつかり合う音が響き渡ったのを皮切りに、斬撃がエレノアへと容赦なく繰り出されていく。
「はははっ!どうした!?『姫騎士』様とやらの実力って、この程度なのかなぁ!?」
「っ!……くっ!!」
余裕なシリルに対し、エレノアは必死に自身に襲い掛かって来る剣を受け続ける。そんな中、死角から忍び寄ったレナーニャの尾が、エレノアに向けて一斉に襲い掛かった。
「エレノア!!」
「――!?」
オリヴァーの叫び声により、エレノアがレナーニャの攻撃に気が付いたその直後。
「全く。……邪魔だ、失せろ」
その言葉と同時に、レナーニャの身体が一瞬で砕け散った。それと同時に、シリルの剣がエレノアの刀を叩き落とす。
「あっ!!……ぐ、はっ!!」
体勢を整える前に、シリルの容赦のない蹴りがエレノアに直撃し、後方へと吹き飛ばされる。
「エレノアー!!」
地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がるエレノアを助けようと、オリヴァーは必死の形相で立ち上がろうとする。だがその身体は、結界内から生えた野花に絡めとられ、小指一本まともに動かす事が出来ない。
「……っ……うぅっ……」
痛みに呻き声を上げながらも、立ち上がろうとしたエレノアだったが、その動きを阻止するように、シリルに背中を踏み付けられてしまう。
「うぐっ!!」
「痛い?まあ、ちょっと可哀想だけど、男に生意気な口を利いた罰だから、甘んじて受けないとね?」
苦痛に顔を歪めるエレノアを見下ろしながら、シリルが愉悦の表情を浮かべる。
「……そうだな。今後は僕に、誠心誠意愛し尽くすと誓うのならば、君をこれ以上痛めつけたりしないし、この場に居る君の仲間達も、命だけは助けてあげるよ?」
「……たい……ない……」
「ん?」
「……絶対に……。口が裂けても、誓わ……ないっ!!」
「――ッ!」
途端、シリルはガラリと表情を一変させると、エレノアを踏み付けていた足に力を加える。
「う……ぁっ!!」
ミシミシと、骨が軋むような圧をかけられ、エレノアの口からくぐもった悲鳴が上がった。
「エレノア!エレノアー!!っ、くそっ!!貴様っ!!その汚い足をエレノアからどけろ!!」
野花に全身絡めとられ、成す術もなくその光景を見ていたオリヴァーが、シリルに嬲られ続けるエレノアの名を半狂乱になりながら叫び続ける。シリルはそんなオリヴァーを見ながら口角を上げ、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「そういえば、味方がこんな状況になっているっていうのに、あの大精霊はどうしたの?ひょっとして逃げたのかな?肝心な時に役に立たないねぇ?」
シリルの言葉に、エレノアの肩が揺れた。
「……奥方様は……役立たずなんかじゃない!!」
「はぁ?――ッ!なっ……!?」
その時。シリルの足元から金色の蔓が生えると、エレノアを踏み付けていた方の足に絡み付いた。
突然の事に動揺し、バランスを崩したシリルの隙を突いて抜け出すと、エレノアは痛みに顔を顰めながら立ち上がった。
「奥方様は……残るって、私達を守るって言ってくれていた!……私が、あっちに戻ってくれって言ったの!私と……奥方様の大切な人達を、守ってもらう為に!!」
「……ふっ。成る程。もう勝ち目がないと覚悟を決めて、せめてもと大精霊を逃がしたって訳か。だが、たかが精霊の一匹があちらに戻ったところで、『魔神』様に皆殺しにされるのが数分遅れるだけ。無駄な足掻きだよ」
自分の足に絡み付いた蔓を『魔眼』で消滅させながら嘲笑うシリルを、エレノアは真っすぐに見つめる。
土埃に全身塗れ、ボロボロになった姿とは対照的に、生命力に満ちた輝石のような黄褐色の瞳が煌めく。
『――ッ!?な……んだ!?』
その吸い込まれそうな程に美しい輝きに圧倒され、シリルの足が一歩、後方に下がった。
「……下郎。無駄な足掻きかどうか、その目でとくと見るがいい!!」
そう言い放った後。エレノアは両手を合わせ、パン!パン!と二回打ち鳴らした。
まさに、絶体絶命の時。エレノアの取った行動は……。
※皆様、感想有難う御座います。いつも有難く読ませて頂いております。
ですが活動報告にも書かせて頂きましたが、時間的に余裕がなく、更新作業にも影響が出てきてしまいました為、たいへん心苦しいのですが、一時返信を止めさせて頂きます。
皆様の感想が心の支えであり、励みであるのには変わりありません。落ち着きましたら、少しずつ返信させて頂こうと思っております。
それと本当に申し訳ありませんが、連続感想は避けて頂けたらと思います。こちらに関しましては、個別に返信する事が出来かねますので、まとめてのご返信になる可能性があります。どうぞ、ご理解よろしくお願い致します。
更新はこれからも楽しんで頂けるよう、頑張ります!




