過去からの刺客
この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻及び、ジュニア文庫2巻も発売中です。よろしくお願い致します!
通販その他の情報は、活動報告をご覧になってくださいませ。
※書籍9巻の特典です※
◆書籍書き下ろしSS:『その雑草ホーリーにつき』
◆電子書籍書き下ろしSS:『クロス伯爵家の家令は見守りたい』
◆TOブックスオンラインストア特典SS:『いつか貴女に騎士の誓いを』
◆応援書店特典SS:『アンテナショップは「ぷるっちょ」と共に』
「アシュル殿下!!北側の結界の一部が崩壊しました!!」
「南側もです!!」
「ダリウス様が急遽、破損個所の修復に向かわれましたが、今現在、複数個所で『影』が侵入者と応戦しております!!」
次々と上がってくる報告に、アシュルは険しい表情で眉根を寄せた。
自分達がいるこの大聖堂でも、そこかしこから建物が軋む嫌な音が聞こえてくる。『邪神』の魔力が今にも壁をぶち破り、襲い掛かってくるかのようだ。
「――ッ……!何故急にここまで……!?つい先程まではむしろ、『邪神』の攻撃は弱まってさえいたというのに。……一体、あちら側で何があった!?」
ベネディクト経由で大精霊から得た情報によれば、イーサンの『負』の感情で時間稼ぎをしている間に、『邪神』に供給されていた『負』の感情を断つべく、エレノアが『怨霊』と化した異世界人達の魂の『浄化』を試みているとの事であった。
幸いと言うべきか、計画通り『邪神』の力は徐々に弱まってきていた。
その事実はなによりも雄弁にエレノアの『浄化』が成功している事をこちら側に伝え、皆に勇気と希望を与えてくれていたのだ。
――だが、状況は一変した。
「アシュル!『邪神』のこの荒ぶりよう……。まさか、エレノアの身になにか……」
「クライヴ。それは僕にも分からない。……だが、少なくとも良い兆候とは言えないだろうな」
自分を守るべく、傍に立っていたクライヴが、いざという時の為に自身の愛刀に魔力を纏わせながら、固い表情で問いただしてくる。それに対し、アシュルは周囲の者達がこれ以上動揺しないよう、努めて穏やかな表情と口調で荒れる心中を覆い隠した。
見ればクライヴ同様、炎を纏った刀身を構えるディランや、一箇所に固まっている下級生達を守る為、同じく魔力を纏わせた刀を構えているセドリックやリアム、そしてマテオも、硬い表情を浮かべながらこちらを見つめている。
「……大丈夫。エレノアの傍にはオリヴァーがいる。彼なら何があっても、きっとエレノアを守り抜いてくれる筈だ。それにエレノアだって、ただ守られているだけの子じゃない。なにせ彼女は、我らが誇る『姫騎士』なのだからね」
その言葉に、皆の硬い表情が僅かではあるものの緩んだ。
「……そうだよな。エレノアはいつだって、どんな状況でもなんとかしちまう不思議な奴だからな」
「ええ。なんといっても、エレノアは『女神様の愛し子』ですからね」
「『俺らの愛し子』でもあるぜ?……大丈夫。エルは強い女だ。絶対に、無事でいてくれる!」
「エレノアが「やる」と言った事って、実際やり遂げちまうんだもんな!俺達もあいつに恥じぬよう、ここで踏ん張ってみせる!!」
クライヴ、セドリック、ディラン、リアムが口々にそう言い合う中、フィンレーも同意とばかりに頷いた。
「うん。それに、もしあの万年番狂いがエレノアを守り切れずに無念の死を遂げたりなんてしたら、イーサン共々『怨霊』の仲間入りをしちゃうだろうからね。そうならない為にも、きっと死ぬ気で頑張るさ!」
フィンレーのとんでも爆弾発言に、折角ほぐれたその場の空気が瞬間冷却されてしまい、すかさずアシュルが鉄拳制裁を下す。
「ちょっと!痛いじゃないかアシュル兄上!暴力反対!!」
「やかましい!!お前という奴は、こんな時でも通常仕様かっ!!オリヴァーの闇堕ち予想なんてしてどうする!!他の連中みたく、もっと明るい話題にしろ!!」
「……だって、容易く想像出来ちゃうんだもん」
『……確かに……』と、その場の全員が思わず納得しかけたその時。ベネディクトが腕の中の白いカメを抱いたまま、兄達を引き連れアシュル達の元へと駆け寄ってきた。
「アシュル殿下!母から入った情報についてご報告いたします!!現在、あちら側では、帝国の第四皇子率いる襲撃部隊が来襲。そのまま戦闘状態に入ったようです!!」
「――ッ!!」
「第四皇子だと!?」
アシュルやクライヴ達が息を呑んだ。
「まさか……あいつが!?」
「『互換』でアルバ王国に送られたのではなかったのか!!」
「しかも、あちらにはエレノアがいるんだぞ!?」
その場の全員が動揺する中、クライヴが床に拳を叩きつけた。
「――ッ!くそっ!!あいつにとって、エレノアは都合のいい道具であり、オリヴァーは不俱戴天の仇!!よりによってそんな奴とあいつらが、この帝国で対峙するだなんて!!」
「クライヴ兄上!!」
「クライヴ……!」
エレノアとオリヴァーの身を案じ、怒りに震えるクライヴを見つめながら、アシュルはギリ……と、奥歯を噛み締めた。
バッシュ公爵家の『影』が得た情報を、アイザック経由で聞いた話によれば、第四皇子シリルはバッシュ公爵家襲撃の際、そのことごとくを邪魔した挙句、自分の右目を焼き潰したオリヴァーに対し、深い恨みを抱いているとの事であった。
オリヴァーの傍には、フィンレーと同じ希少属性『闇』の魔力を持つ最強の『影』イーサンと、同じく希少属性である『雷』の魔力を持つティルがいる。
だが、そうであったとしても地の利は圧倒的にあちら側が有利。ましてやここは帝国。一人一人の力は弱くとも、厄介極まる『魔眼』持ちが腐るほど存在するのだ。
クライヴがエレノアとオリヴァーの身を案じ、荒ぶるのも当然の事であった。
『……それにしても……!』
いずれはバレると覚悟をしていた作戦ではあったが、こんなにも早く『元凶』を特定した挙句、オリヴァーにとって最も最悪な人物を対峙させるとは。
「第三皇子セオドア……いや、今現在は皇帝か。奴一人の策で、我々がここまでかき乱されるとは……!」
道化の皮を被り、様々な場面で暗躍しながら不穏の種をばら撒き続け、最終的には実父すらも葬り去る事により、『邪神』を復活させるに至った。
更には『邪神』の眷属として底上げされた己の能力を使い、『互換』によって、自分の政敵をまとめて死地へと送り、その対価として、敵国であるアルバ王国の次代を担う若者達や王族をこちら側へと招き寄せた。
――……何故オリヴァー一人があちらに飛ばされたのか、今なら分かる。
それは多分……いや間違いなく、オリヴァーを嬲り殺す事を条件に、シリルがセオドアの軍門に下ったからだ。だからこそ、シリルはアルバ王国に送られず、オリヴァーだけが『嘆きの霊園』へと飛ばされた。
使える駒を己が手足とし、邪魔者と排除すべき敵を効率よく潰していく。そのどこまでも残酷で冷徹な手腕。
このまま自分達を潰し終えた後、奴は間違いなく『邪神』と共にアルバ王国に侵攻し、全てを焦土と化すだろう。
この世界を再び『邪神と魔族が支配する世界』へと変える足掛かりとして。
――だが、奴が一つだけ予測不可能だった事がある。それが『エレノア』という存在だ。
思えばリンチャウ国の人身売買しかり、バッシュ公爵家及びヴァンドーム公爵家への攻撃及び、スワルチ王国の偽聖女による王宮襲撃しかり。
セオドアが誘導、もしくは裏で糸を引いていたであろうそれら全てが、エレノアが介入した事によって潰されているのだ。
今回も、我々をすぐに嬲り殺せると踏んでいたであろうに、こうしてエレノアが付与した『大地の魔力』によって阻まれている。
『エレノアという存在は、いわば奴らにとって、理屈もなにもかも通じない予測不可能な災害のようなものなのだろう』
そのエレノアがこの帝国にいる。しかもオリヴァーの傍に。これこそが、女神様の采配であったとすれば……。
「――ッ!!母上からです!!第四皇子が告げた『異世界人召喚』の真実により、『転移者』達の魂が暴走!!エレノア嬢の『浄化』が失敗しました!!」
「なっ!!?」
その直後。より強い衝撃が大聖堂を襲い、天井や壁の至る所が砕け落ちていった。
◇◇◇◇
「――ッ!!」
『彼女達』の感情が爆発したと同時に、その衝撃で小人の自分と一緒に金の蔓ごと吹き飛ばされ、強かに地面へと叩きつけられてしまう。
「エレノアッ!!」
そんな私に駆け寄ろうとしたオリヴァー兄様の行く手を阻むように、シリルの後方から、彼の『影』であろうローブを纏った男達が次々と飛び出てくる。
「チッ!邪魔だ、どけっ!!」
そう叫ぶなり、オリヴァー兄様が目にも止まらぬ速さで刀を振るい、一瞬で男達を灰燼と化した。
「エレノア!無事か!?」
「は、はいっ!オリヴァー兄様!」
倒れたままだった私を助け起こし、どこにも傷が無い事を確認したオリヴァー兄様がホッと息をついた。
「……御免なさい、兄様。私、ちゃんと『浄化』する事が出来なかった……!」
初めて見た時のように。……いや、その時よりも理性を無くし、泣き叫ぶように呪詛と瘴気を撒き散らす『彼女達』の姿はとても痛々しく、見ているだけで胸が張り裂けそうになってくる。
「やれやれ。やはり強いな。あちらのオマケ達も……ね。どうやら普通の『魔眼』持ちでは話にならないようだ」
そんな私達の耳に、不快な声が届く。
キッと睨みつけたその先には、諸悪の根源であるシリルが、呆れたような様子でこちらを見つめていた。
こんな状況であるというのに、その表情も態度も不自然な程に穏やかそのもので、思わず背筋がうすら寒くなってしまう。
「ならば仕方がない。こいつらを出すのは、もう少し後にしたかったんだけどね」
そう言った直後、シリルの背後から音もなく、ボロボロの薄汚れたフード付きのローブを纏った三人組が現れた。見れば全員素足で、その足首には黒い枷がはめられている。
「――!!」
三人組から向けられた独特の覇気と殺気に、オリヴァー兄様が私を背に庇い、刀を向ける。
『ッ……!ま……さか……!?』
私の方はと言うと、オリヴァー兄様の背に庇われながらも震えが止まらずにいた。
だって……。この気配を私は知っている。
「セオドア兄上がアルバ王国を探っていた時、たまたま彼女達の事を知ってね。密かに手に入れ、戯れに飼っていたんだそうだよ。オリヴァー・クロス。聞けばその内の一人と君は、浅からぬ因縁があるんだってね。だから感動の再会を果たさせてあげようと、わざわざこうして連れて来てあげたんだよ」
ドクン、ドクンと脈打つ鼓動の音が耳元で聞こえる。目の前の背中越しからも、兄様の緊張が伝わってくるようだ。
「勿論、それだけではつまらないだろうから、彼女達には『狂人化』をプレゼントしてあげたんだ。さあ、ゆっくり再会の喜びに浸ってくれよ!!」
三人がゆっくりと被っていたフードを取り去る。
瞳孔を赤く染め上げた、無機質とも言うべき表情。全体的に薄汚れ、奴隷が着るような粗末な服を身に纏ったその姿は、嘗ての華やかさをすっかり失っている。
だが、華やかさを失ってもなお美しいその容姿と肢体。獣人の特徴である獣耳と尻尾を有するその姿はまぎれもなく、元獣人王国の王女だった、レナーニャ、ジェンダ、ロジェであった。
ストレス継続注意報。
アウェイの洗礼、めたくそ受けております。_(:3 」∠)_
観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!
評価して頂けるとモチベに繋がります!
次回更新も頑張ります!




