『大地』の聖女は頑張っている
この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻及び、ジュニア文庫2巻も発売中です。よろしくお願い致します!
通販その他の情報は、活動報告をご覧になってくださいませ。
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――……あれからどれぐらい時間が過ぎたんだろうか?
「十五分も経っていないよ」
そうですか、有難う御座います。……じゃなくて!!
オリヴァー兄様!こんな時でもサラリと私の心を読まないでください!!
「ああ、ほらエレノア。集中しなくちゃ駄目だよ?」
くっ!ご忠告、痛み入ります!
ところで私、色々な場所でやってきて今更なんですが……。実は未だに『聖女の浄化』ってどうやるのか、そもそもその仕組み自体が、いまいちよく分かっていないんですよ。
いやだって言い訳になっちゃうけど、『浄化』というか、『聖女の力』を使う時って、いつも突発的に緊急事態が起こって、今回みたくぶっつけ本番になるじゃないですか!?
で、その度力業で何とかなった……ってのを繰り返しているから、未だに『こうやるんだ』って決定的な方法が分かんないんですよ。
いわば、基本すっ飛ばして応用ばっかりやっているみたいな感じですかね?
ともかく「これではいかん!」と、ある時、大聖女であるアリアさんにアドバイスを求めた事があったんだけど、「大丈夫よエレノアちゃん!私の『癒し』や『浄化』も叩き上げだから!まずは場数を踏む事!それと気合よ!」と、全く参考にならない回答を頂きました。……ようは、アリアさんもよく分かっていないらしい。
そういえば全くそうは見えないけど、アリアさんって実は脳筋寄りだったんだよね。
という訳で今現在。いつも通り目を瞑り、ひたすら女神様へと祈りを捧げているのであります。
――でも、今回『浄化』するのは、傷付きボロボロにされた女性達の魂。
筆舌に尽くしがたい屈辱と悲しみを味わい、恨みに凝り固まった彼女達に対し、『どうか安らかに』とか『光あふれる世界が待っていますよ』とか祈ったところで聞く耳持ってくれない訳です。というか、私という存在自体がスルーされているっぽい。
しかも『大地』の魔力って、文字通り大地の力……すなわち『土』の魔素を借りて使うものなんだよね。
だから怨念が瘴気となって、大気や土まで汚染されているこの場所では、その魔素が極端に少なく、『満開になぁれ!』と祈ってペンポポスミレを咲かせても、瘴気によって次々と消滅していってしまうのである。当然というか、困った時に出てくる例の『金色の蔓』も出せない。
それに、足りない魔力の補填は当然のごとく私の魔力が充てられてしまうので、このままいけば間違いなく、私の魔力は尽きてしまうに違いない。まさに万事休す。
――だが!こちらにも譲れないものがある!!
この場で彷徨う女性達の、魂の安寧の為。そして、私の大切な人達の命を守る為。私は全力で足掻く!!
それに弱いとはいえ、魔素は存在しているのだ。だったら、汚染されていない地中深くまでいけば、高濃度の魔素が得られるに違いない!
『こうなったら……!魔法はイメージーーッッ!!!』
私は心の中でそう叫ぶと、脳内に前世の工事現場における、電動コンクリート破砕機のイメージを描き出した。更にそれを(脳内で)手に取ると、気合一発!地面にぶっ刺しスイッチオン!汚染された土壌を(脳内イメージで)破砕しながら、大地の奥深くへと掘り進んでいく。
……なにやら背後で、兄様とティルがドン引きしているような気配を感じる。あれ?脳内イメージまで読み取っちゃったとか……?
まあ、そんな事はどうだっていい!今こそ唸れ!私の採掘魂!!
『――ッ!よしっ!!』
イメージによる採掘作業により、大地の深部から大量の『土』の魔素が、まるで泉のごとく噴き上がったのを肌で感じ、すかさず『満開になぁれ!』と祈りを捧げた。
◇◇◇◇
――……エレノアが『土』の魔素の採掘作業に成功する数分前。
「……ティル」
「はい、オリヴァー様」
「なんか……エレノアの傍にいる『アレ』、僕だけに見えている幻影かな?」
「……いえ。俺にも『アレ』見えるんで、気の所為じゃないっすね」
二人が見つめる先。それは懸命に祈っているエレノア……ではなく、そのエレノアの横に突然ピョッコリと出没した『小人サイズのエレノア』であった。
見た目は、目の前にいるエレノアを寸分たがわぬ状態でミニチュア化している。……ハッキリ言って滅茶苦茶、暴力的に可愛らしい。こんな状況でなければ、人目もはばからず激しく身悶えていた事であろう。
そんな小人エレノアはというと、驚いた事に、何やら見た事のない形状の工具を地面に突きたて、土を掘り始めたのである。
「「…………」」
理解が及ばず、無言でその光景を眺めていた二人だったが、その僅か数分後。小人エレノアが掘削(?)したところから、キラキラとした黄金色の光(魔素?)が噴き上がり、エレノアの野花が一気に咲きまくり始めたのである。
「……凄いっすね、お嬢様」
「……ああ。流石はエレノアだ」
先程まで瘴気に押され、中々増やす事が出来ずにいたペンポポスミレが一斉に芽吹いていく。
それを目の当たりにしたティルの呟きに、横にいたオリヴァーもそれに同意した。
そんな中でも、小人エレノアの働きは止まらない。
短い脚を踏ん張り、可愛い顔を精一杯キリッとさせながら、なおも謎の機械をフル稼働させ、魔素を噴き出させ続けている。
「……あの『ミニお嬢様』、すげぇ頑張ってますね。ってか、そもそも何なんすかね?アレ」
「……多分だけど、アレ……。エレノアの『大地』の魔力が具現化したものじゃないかな?」
「マジっすか!?んじゃあ、初代姫騎士も、ああいう感じに魔力使ってたんですかね!?」
興奮気味なティルに対し、オリヴァーは首を横に振った。そんな愉快な伝説、ある訳がない。
「多分、エレノアだからあんな感じになっているんじゃないかな?」
「……そうっすよね。お嬢様っすからね」
「……ああ。エレノアだからね」
二人は早々に、思考を放棄した。というか最近、「エレノアだから」で何でも通じるようになってしまっているのだが、果たしてそれで良いのだろうか?
「それよりも、あっちは大丈夫かな?」
「そうっすよね。もしイーサン様が、ミニお嬢様を見てしまったら……」
二人揃って、イーサンの方を振り返る。すると、白いカメがヒレでイーサンの両目を覆っている姿が見えた。
……どうやら、イーサンがあの奇跡(?)の光景を見て心を乱さぬよう、目隠しをしているらしい。流石はあんなナリでも大精霊。エレノア廃の扱いをよく心得ている。
オリヴァーとティルは、一心不乱に祈りを捧げるエレノアと、なんだかとっても頑張っている『大地の魔力』に再び視線を戻した。
「……それにしても。こんなに緊迫した場面なのに、なんでこうエレノアが係わると緊張感がなくなるんだろうか……」
「お嬢様っすからね!あ、そういえばオリヴァー様、一番最初にエレノアお嬢様が浄化した魂。あれって多分、性質の悪いただの悪霊っすよ」
「質の悪い悪霊……?」
「ほら!自然発生的にこっちの世界にやって来る『転移者』や『転生者』って、女神様が選んだ『善良な魂』なんっすよね?」
「ああ。そう言われているよね」
『転生者』や『転移者』自体が希少な存在ゆえに断言する事は出来ないが、エレノアや大聖女アリア、そしてヘイスティングなどを見れば、彼らが特別な魂を持っている事が分かる。
「でも、帝国がやっていた『異世界人召喚』って、とにかく見境なく手当たり次第に女をこっちに連れてくるって感じだったみたいっすから、そんな中には当然、性格悪い奴らもいるらしいんっすわ」
ティルの話によれば、魔力が高いがゆえに、王侯貴族に迎えられた女性達のうちの一定数が、権力をかさにきて横暴に振舞ったり、他人を傷つける事をなんとも思わなかったりする者達だったのだそうだ。
「そういう人間は、そもそも悪霊化しやすいっすから。だからお嬢様が『浄化』の祈りに入った瞬間、真っ先に『浄化』させられちまったんでしょうね」
「つまり、自分の身に起こった理不尽に嘆き悲しむ魂の中に、好き放題した挙句悪霊化した魂も混じっていたという事か……。でもそういう魂って、エレノアが『浄化』したとしても、女神様の元には行けなそうだね」
「ま、取り敢えず地獄行きっしょ?自業自得っすよ!」
吐き捨てるように言い放ったティルを、オリヴァーは複雑な感情を込めて見つめた。
彼の母親もまた、己の快楽や贅沢な生活を手放さない為に、『魔眼』を持たぬ息子を夫と一緒に「役立たず」と罵り、打ち捨てたのだという。その心的外傷はきっと、自分などには到底推し量る事は出来ないのだろう。
「あ、安心してください!俺、お嬢様と出会えて、今すげぇ幸せっすから!」
まるでこちらの気持ちが分かっているかのように、タイミングよく言い放たれた言葉にオリヴァーは苦笑した。
「それは重畳。……だが、そういった魂はやはり極一部で、大多数の魂は未だ『浄化』されずに苦しんでいるようだね」
だからこそ、エレノアと『大地の魔力』が野花達を咲かせる為に、あんなに頑張っているんだろう。
「――ッ!?」
野花が広がっていくのに合わせ、曇天のように宙に渦巻く瘴気が次々と人の形へと姿を変えていく。そして、その内の何割かが、光の粒子となって消えていくのが見えた。
「……どうやら、『浄化』が進んでいるようだな」
だが現状、未だに多くの怨霊が残っている。しかも『彼女達』は、先刻までその存在すら気が付いていなかった『エレノア』を認識し、明確な敵意を持って襲い掛かりそうな様子を見せているのだ。
「――ッ!!」
思わず、エレノアの元に駆け付けたくなる衝動を抑えるように、オリヴァーは深呼吸を繰り返した。
『駄目だ!僕はエレノアを信じるって決めたんだから。今僕が出来る事は、こうして見守る事だけだ!……それに、こうなったからには、遅かれ早かれあちらに気が付かれてしまうだろう』
怨霊と化した犠牲者達が、ジワジワと『浄化』されていく様子を見つめながら、オリヴァーはティルと共に、いずれやって来るであろう刺客を迎え撃つべく、意識を集中させた。
◇◇◇◇
一方のエレノアだが、荒ぶる気配が徐々に鎮まっていくのを肌で感じつつ、ひたすら心の中で祈りをささげ続けていた。
『ありがとう……』
『凄く疲れていたの。……やっと、眠れるわ……』
そんな言葉を残し、『浄化』されていくのは、この世界で『こぼれ種』として拉致されてた『転生者』や、魔力が多いがゆえに連れてこられた女性達のようで、それぞれがお礼を言いながら女神様の元へと旅立っていく。
そんな中。
【私達を浄化するだと!?何様のつもりだ!?】
【こんな世界に無理矢理連れてこられた、私達の気持ちがお前に分かるか!?】
【この世界が滅びるまで、私達は成仏などしない!!】
【帰りたい、還りたい、カエリタイ……!!】
【こんな世界で生まれ変わりたくなどない!!浄化されるぐらいなら、いっそ消滅させて!!】
『異世界人召喚』で、こちらに強制的に連れてこられた『転移者』であろう人達の怨嗟の言葉が、慟哭のように繰り返し頭の中に響いてくる。私は深呼吸をした後、『彼女達』に語り掛けた。
『確かに……。私は貴方達の気持ちを全部理解する事は出来ません。でも、貴女達をこのままにはしておけない!』
その瞬間。怒りの感情が刃のように、私へと一斉に向けられた。
脳内イメージを読み取ったのではなく、しっかり可視化されてしまっただけでした。
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