仄暗き復讐心
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「ああ、よく来たねシリル」
帝国の富を象徴するかのごとき、贅沢の粋を極めた豪華絢爛な謁見の間。
皇帝のみが座る事を許された高御座に座り微笑んでいるのは、つい先ほど実父である皇帝を惨殺し、皇帝にまで上り詰めた第三皇子セオドアである。
高御座へと続く赤い絨毯の左右には、宰相であるネイハムを筆頭に、前皇帝の治世を支えてきた重鎮達が整列している。そして、セオドアの傍には唯一の側近であり、帝国屈指の剣士と謳われる近衛騎士ゼン・ラジェディが控えていた。
シリルは詰めていた息を吐き出すと、高御座の前で跪き、深く頭を垂れた。
「皇帝陛下。お呼びと聞き参上つかまつりました。……いえ。それとも『魔王様』とお呼びした方がよろしゅう御座いましょうか?」
その瞬間。威圧を込めた視線が、まるで剣のようにシリルの四方八方から突き刺さってくる。
『――ッ……!』
鋭く冷たい視線の集中砲火に冷や汗が頬を伝い落ち、知らず喉が上下する。
『……成る程。「至高の存在に対し、みだりに話しかけるな」という牽制か……』
そう。あの男は帝国の守護神たる『魔神』の完全復活を成した功績により、直属の眷属たる『魔王』を名乗る事を許されたのである。
その結果、彼は女神の使徒が『聖女』と呼ばれ、敬われているように、我々帝国民にとって最も敬うべき『神の代理人』となったのだ。
宰相も大臣達も、自分達が絶対の忠誠を誓った主君が討たれてなおセオドアに従っているのは、前皇帝を己が依り代にと望んだ『魔神』の願いを、『代理人』たるセオドアが叶えたからに他ならない。
それゆえに、忠誠心も確かではない自分に対する彼らの態度は、この場において至極真っ当であると言えるだろう。
『――……多分、あの惨劇は当事者である『前皇帝』自身もご存じでいらっしゃったのだろう。つまり、ここに至るまでの過程は全て、彼らの壮大なる『茶番劇』だったのであろうな』
そう心の中で呟きを落としながら、シリルは過去の出来事に思いを馳せた。
◇◇◇◇
第一皇子が自分に対し、目の前のセオドアを共に討とうと打診して来る少し前。当のセオドアが、突然自分の宮殿にやって来た。
「やあ、シリル。お前の活躍は聞いているよ。元気そうでなによりだ」
「……兄上も、ご健勝なご様子。この度は、帝位継承権一位となったとの事。おめでとう御座います」
「ああ。それはお前のお陰でもあるからね。感謝しているよ」
途端、側近達から抑えきれない怒気と殺気が噴き上がった。そんな彼らを手を上げ制しながら、セオドアに対し頭を下げる。
「……あの時は、大変お世話になりました。こちらこそ感謝の念に堪えません」
「良いんだよ。半分とは言え、血の繋がった弟の危機を救うのは、兄として当然の行為だからね」
クスクスと、笑いながら投げかけられる言葉に、胸の奥が焦げ付くような不快感を感じる。そして周囲も、先程よりも強い殺気をセオドアへと向けた。
――誰からも侮られ、いない者として扱われてきた役立たずな半端者。
そんなレッテルを貼られていた彼がいきなり功績を上げた結果、自分に成り代わり帝位継承権一位となったのだ。
その事を快く思わぬ者達は多い。ましてやここは、彼の帝位を上げた要因の一つである第四皇子の牙城。
しかも、そんな敵だらけとも言える場に、セオドアは、ゼン・ラジェディともう一人。年端も行かぬ幼子を連れてやって来たのだ。一体どういうつもりなのかと側近達が苛立つのは無理からぬ事だろう。
『……にしても、この少年』
黒髪黒目の、ゾッとする程に端正なその容貌は、どことなく父である皇帝の面影を宿していた。
――まさかこの少年、セオドアの弟なのか……!?
七年ほど前。セオドアの実母であるあの女は、襲撃を受けた際、命と引き換えに腹の子を産み落としたのだと噂されていた。
だが、その姿を見た者は誰もおらず、またセオドア自身もその存在を口にした事が無かった為、「『弟』はあの襲撃の時に母親と共に死んだ」とされていたのだ。
だが敵陣であるこの場に、セオドアがただの子供を同行させる筈がない。だとすれば、この目の前の少年はやはり、あの時産み落とされた子供……?
『さて、シリル。突然で申し訳ないが、私は英霊祭で皇帝となり、邪魔な親族達をまとめて排除するつもりでいるんだよ』
『……は!?』
微笑を浮かべ、なんて事のない会話のように突然言い放たれた台詞。だが、その耳を疑う内容に、自分だけでなく側近や近衛達も一様に絶句する。
『な、なにを馬鹿な事を!!』
『正気かきさ……』
我に帰った側近達が気色ばみ、セオドアに向かって罵りの言葉を口にする。だがそれらは長くは続かなかった。……何故なら。
『ぐがっ!!』
『ごっ...!?』
側近達はおろか、侍従達や近衛達までもが瞬時に床へと叩きつけられてしまったからだ。そして、まるで見えない何かに抑えつけられているかのように圧をかけられている。
【……控えよ。下郎共が】
まるで、その場に縫い留められてしまったかのように、無様に這いつくばっている側近達を呆然と見つめていた自分の耳に、無機質なしわがれ声が響く。
慌てて声のした方向を振り返る。するとその先にいたのは、セオドアが連れて来たあの少年であった。
『お……お前は……一体……!?』
【控えよ……と言ったのが聞こえなかったのか?】
その途端、凄まじい圧が身体にかかる。
『――ッ、ぐ……っ!!』
側近達のように床に崩れ落ちそうになるのを、両手両膝を床に突き、歯を食いしばって耐える。すると、【ほう……】という言葉と共に、ほんの少しだけ圧が和らいだ。
【手加減をしたつもりは無かったが……。面白い。私の力に耐えるか】
『ほらね、言ったでしょう?彼は見どころがあると』
【そうだな。そこで這っている小物どもと同等であれば、潰してやろうかと思ったが……。気が変わった。それにセオドアよ。お前程ではないが、こやつが抱えている『闇』も中々のものだ】
――一体……なんなんだ!?こいつらは!?
滝のように脂汗を流しながら、霞んでいく目の端に黒い革靴が映りこむ。身体を小刻みに震わせながら見上げると、兄……セオドアが微笑みを浮かべながら、深淵の闇を思わせる瞳でもって自分を見下ろしていた。
その、落ちたら二度と浮き上がれない底無し沼のようなソレを見た瞬間、冷水を浴びせられたかのように恐怖が足元から這い上がり、全身を震わせる。
『あ……にうえ……!』
途端、身体を苛んでいた圧が消える。驚き、眼帯をしていない左目を見開いた自分に、兄は唇を開いた。
『――――』
その時告げられた言葉。そして少年の正体を知らされ、自分は彼らに膝を折り、忠誠を誓ったのだった。
◇◇◇◇
「ふふ……。『皇帝陛下』でも『魔王』でも、どちらでも僕は構わないよ」
気分を害した風もないセオドアの言葉に、四方から浴びせられていた威圧が消える。
シリルは現実逃避のように過去へと飛ばしていた思考を現実へと切り替え、張り詰めていた息を吐いた。
「君をここに呼んだのは他でもない。君にやってほしい事が出来たからだ」
「やってほしい事……ですか?」
「うん。まあ、顔をお上げ」
戸惑いながらも、言われるがままに顔を上げた。
『やってほしい事……か。それは多分、第一皇子達と『互換』で連れて来た、アルバ王国の王侯貴族達の始末についてだろうな』
兄弟達やその母である王妃、側妃。そして彼らの派閥だった貴族達や騎士、従僕達は全員、強力な『魔眼』持ちだった。
だが今回、それら全てをアルバ王国の未来を繋ぐ次代達をこちらに招く為の捨て駒としてしまったのだ。
前線に出せる者達がいない以上、次に投入されるのは自分だろうと予想していたので、さして驚きはない。
聞けばあの建物には、『魔神』の天敵である『聖女』の結界が施されているのだそうだ。
しかもそれを施したのは誰あらん、『大地の聖女』と謳われる、あのエレノア・バッシュで、更にはこちらに招き寄せた王族により、『光』と『闇』の魔力がその結界に上掛けされているという。
なので、『魔神』の力をもってしても、あの建物の破壊はおろか、内部にいる人間の一人も殺せずにいるらしい。
『それは、『魔神』様もさぞ苛立っておいでであろう。……しかし、「闇」の魔力はあの忌々しい第三王子が出所だろうが、「光」の魔力は?まさか、「大聖女」アリアがあの場にいるとでも言うのか?』
そこまで考えた後。一旦思考を切り替えると、シリルはセオドアに向かい、再び頭を垂れた。
「ご随意のままに。私と私に従う者達全て、貴方様方の忠実な下僕に御座います。なんなりとお申し付けくださいませ」
「うん。それじゃあ今すぐ、『嘆きの霊園』に向かってくれないかな?」
「『嘆きの霊園』……ですか?それって、あの……?」
戸惑うシリルに、セオドアはニッコリと笑顔を向けた。
「そう。『異世界人召喚』で召喚された転移者や『こぼれ種』、そして高魔力持ちだからと帝国に連れてこられた女性達が眠っている場所だよ」
言い放たれた言葉に、眉根にシワが寄る。
話には聞いた事がある。『嘆きの霊園』とは、帝国人の……特に男にとっての最大の『忌み場』で、王侯貴族は絶対に立ち寄らないとされている場所だ。
……いや……。『立ち寄らない』ではなく『立ち寄れない』が正解だろう。
何故なら、其処に亡骸を埋葬した男達の誰もが、例外なく非業の死を遂げているのだから。
『そのような所に行けという事は……。ひょっとしたらこの男は、自分を排除しようとしているのではないか?』
思わず冷や汗が頬を伝い落ちる。そんな自分の心を読んだかのように、セオドアは目を細めた。
「ああ、大丈夫だよ。君には『魔神』様の力でもって『加護』を授けるつもりだ。そうすれば『彼女達』の怨嗟は、逆に君の力となる」
「は?」
――『彼女達』?怨嗟?
「『加護』を授かれば、おのずとあの霊園の役割が分かるさ。……『魔神』様は、アルバ王国の者達を血祭りにあげ、積年の恨みを晴そうと躍起になっていて気付かれていないようだが、あそこから流れてくる『負』の感情に違和感を感じる。だから、その原因を君に探って来てほしいんだ」
訳がわからず困惑する自分を見下ろしながら、『魔王』は愉しげに口角を上げた。
「……それに、あそこには『彼』がいるからね」
「『彼』?」
「ふふ……。約束していた君への『報酬』だよ。とびきりの舞台で君が本懐を遂げられるよう、わざわざあの中から弾いておいたんだ」
「――ッ!?」
ドクン……!と、心臓が跳ねる。と同時に、あの時セオドアに言われた台詞が蘇ってきた。
『帝位簒奪……。もし協力してくれたなら、お前がこの世で最も憎む男と対峙する場を設けてあげよう』
「……オリヴァー・クロス……伯爵令息!!」
計画を崩壊させる切っ掛けを作り、帝国内における自分の立場を地に堕とした男。……そして、得るべき筈だった『こぼれ種』を、己の最愛とし囲っている、憎んでも憎み切れない男。
――帝位よりもなによりも、あの男に地獄を味わわせたい。……その為だけに、自分は汚泥の中を這い上がってきたのだ。
「……御意。勅命しかと承りました。私に対する深きご温情に心からの感謝を」
――決して一思いには殺さない。あの時受けた屈辱と恨みを何倍にもして、血の海の中、のたうち回らせてやる。
シリルは、湧き上がる仄暗い愉悦に口角を上げ、嗤った。
エレノアが弾かれたのは、オリヴァー兄様のとばっちりを受けた可能性が浮上しました。
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