邪神の力の源
お休み頂いて申し訳ありません。
更新再開です!
そして、再開がちょうどクリスマスイブという奇跡!楽しんで頂けたら幸いです!
『エレノアちゃん。「邪神」の力の源ってなんだか分かる?』
「『邪神』の力の源……ですか?えっと……。生贄……とかですかね?」
『……中らずと雖も遠からず……ね。いいこと?「邪神」の力の源とは「負の感情」よ』
「『負の感情』?」
『そう。「恨み」「悲しみ」「憎しみ」「怒り」……などといった負の感情。それら全てが「邪神」の力の源となるの。時間がないからざっくり説明するとね……」
奥方様の話によれば、『邪神』とは、元々は創造神たる女神様が生み出された『神』の一柱であったのだそうだ。
『神』の神格と力を高めるもの……。それは純粋なる『信仰心』。
女神様は、自分が生み出した生き物達が持つ『喜び』『感謝』などの、『正』の感情からなる祈りを受け、己の力としながら、大地に暮らす者達へと祝福を与え続けた。『邪神』も最初は女神様と同じように、『正』の感情を糧としていたらしい。
……だが、『邪神』はある時ふと気が付いた。
自分達『神』に最も祈りを捧げる存在……『人間』。
彼らが持つ『正』の感情は、容易く『負』へと転換される事を。そして、その『負』に転じた感情は『正』の感情よりも激しく強く、どこまでも肥大していく事を。
『邪神』は、容易く得られる強力な『負』の感情を取り込み、己の力を強大にしていった。そして、より効率よく力を得られるよう、邪悪な魂を持つ者達に自らの力を与え、『人間』の敵対者……『魔族』を生み出し、暴挙の限りを尽くさせた。
人間達は次々と魔族達に隷属され、西大陸全土は『死』と『混乱』『嘆き』『悲しみ』に覆われていった。
そんな『邪神』の行いと『人間』達の苦しみを目の当たりにした女神様は嘆き悲しみ、過ちを正そうとした。
だが、創造神たる女神様は、己に対し『生み出した命や世界への不干渉』という不文律を課していた。
何故なら、絶対的な力を有する自分が干渉すれば、そこには必ずなんらかの『歪み』が生じるからだ。
けれども、我が子たる『人間』が理不尽に虐げられ、苦しみもがく様を見過ごす事は出来ず、女神様は『人間』へと干渉する事を決意した。
――『負』の感情に対抗出来るのは、『正』の感情。
ゆえに、自分の『力』を分け与えた乙女を、この世界で最も高潔で信仰心が高い者達の許へと降臨させる事を決めたのだった。
だが、己を縛る不文律は思った以上に強固で、正しい心を持ってはいても、女神たる自分の力を受け入れられる者がなかなか見つからなかったのだ。
――そんな中。力を宿す事が出来るであろう、唯一の少女が見つかった。
その少女は、別の世界から迷い込んだ魂を持つ『転生者』で、この世界の理に縛られていなかった。
更には界を渡った事により得られた、強靭で特殊な魔力と、純粋で清らかな心を持ち合わせていたのだった。
女神様はその少女に自身の力を分け与え、少女は『聖女』となった。
そして正しい心を持つ仲間達と共に『魔族』達を打ち破り、『邪神』を封じる事に成功したのだった。
『……その「乙女」こそが、「姫騎士」と謳われた「大地の聖女」。因みにこれは、私が父たる先代から記憶を継承して得た真実よ』
奥方様の話した歴史の真実を聞き、私を含め、オリヴァー兄様もイーサンもティルも……その場に居た全ての人達が絶句する。
「……そんな……。『邪神』が我々と同じ、女神様から生まれた『子供』で、元は普通の『神』だっただなんて……!」
オリヴァー兄様が、呆然とした様子で呟く。そんな兄様を、奥方様が静かに見つめた。
『……今話した事は、神々の内情や世の理に絡む事だから、本来であれば話すのは禁忌とされているの。だから、時のアルバ国王は、正確な史実を残さなかったわ。それゆえ、この事実は我ら四大元素を預かる大精霊や、太古より生き続けているエルフの長など、数えるだけの者しか知らないのよ』
……そうだろうな。人類の敵である『邪神』が、元は自分達と同じ女神様が生み出された存在だったなんて知れば、人々の心が乱れてしまうかもしれないだろうから。
『――!?』
ふと、脳裏にある『伝承』が思い浮かんだ。
「……兄様。私の前世では、とある宗教の聖典に、そっくり同じ話がのっているんです」
「エレノア?」
そう。聖なる者が欲望に染まって『堕天』し、人々に死と不幸をもたらす『悪魔』となる物語。
『大地の聖女』が転生者であったのなら……。ひょっとして、『彼女』の魂は元来在るべき世界へと回帰したのかもしれない。そして自分の体験を元にした伝承を、人々への戒めとして残したとしたら……。
そこまで考えて、私は首を振って思考を散らした。そして怪訝そうな表情を浮かべながら私を見ているオリヴァー兄様に「ちょっと、思い出しただけです」と言って誤魔化す。
『今はそんな過去のたられば話、どうだっていい!この状況に集中するんだ!!』
「奥が……大精霊様。それじゃあ、私がこの場の魂を浄化する意味とは、ひょっとして……」
『……ええ。私がエレノアちゃんを探す為に精神体を飛ばした際。この霊園からあの城へと、どす黒い思念が流れていくのを見たわ。間違いなく、この場所が「邪神」への負の感情の供給源となってしまっているのよ』
――ああ、やっぱり。
人間の『負』の感情を食らう『邪神』ならば、『彼女達』の吐き続ける呪詛は、これ以上は無い程のご馳走であるに違いない。
『「邪神」はあの場にいる子達を皆殺しにする為、今現在もエレノアちゃんの結界を破壊しようとしている。「魔眼」の天敵たる「光」の魔力を持つアシュル君。そして「闇」の魔力を持つフィンレー君が、その力を建物全体に流し、結界を強化させてはいるけれども……このままでは間違いなく、援軍が来る前に結界が破壊されてしまう。だからこそ、なんとしてでも供給源を断つ必要があるの』
「――……ッ……!」
なんて皮肉なんだろう。
勝手に別の世界に連れてこられ、利用するだけ利用され、無念の中で生涯を終えて……。その恨みの為に天の国に還る事も出来ず、死しても苦しみ続けている。しかもその苦しみですら、『邪神』の力を強化する為に利用されてしまっている。こんな理不尽な事って……!!
「許せない!これ以上、彼女達の尊厳や悲しみを、『邪神』なんかのいいように利用させたりしない!!」
「……エレノア……」
「オリヴァー兄様。私、やります!」
決意を込めてオリヴァー兄様を見上げる。すると、複雑な表情を浮かべた兄様の黒曜石のような瞳と視線が交差する。
「エレノア。君がもし、ここを浄化しようとすれば、『邪神』は必ずそれに気が付く。そして君の行動を阻止しようと、大量の『魔眼』持ちをこちらに向かわせるだろう」
「…………」
叱責でも制止するでもなく、静かに真実を語るオリヴァー兄様の言葉に耳を傾ける。イーサンやティル達も、無言で厳しい表情を浮かべていて……。でも、その態度がなによりもオリヴァー兄様の言葉を肯定していた。
……そう。ここはアルバ王国ではなく『帝国』なのだ。今迄戦ってきた時とは状況が違う。
それに、いくら兄様達が強くても、無数の『魔眼』持ちと戦うなんて自殺行為に他ならない。それに、非戦闘員であるチェルシーさんやゼフちゃんもいるのだ。
だけど、先程とは一つだけ状況が違う。何故ならここには……。
「奥方様!」
『なに?エレノアちゃん』
「私が『彼女達』を浄化する事が出来れば、クライヴ兄様やセドリック、アシュル様方やマテオ達……。あの場に居る全ての人達が助かるかもしれないんですよね!?」
『ええ。可能性は高いわ』
「それに、こういうことを強行させるって事は、私達が無事にここを脱出する手段があるって事ですよね?」
そう。奥方様は誇り高き大精霊の一柱。私達の命を犠牲にしないよう、ちゃんと手だてを考えているに違いない。
「私は……『彼女達』を助けたい……!!」
『彼女達』は一歩間違えれば辿ったかもしれない、私のもう一つの姿だ。だからこそ女神様は私に『彼女達』を救わせる為、ここに来させたんだと思う。
「だから、奥方様の考えを聞かせてください!」
真剣な眼差しを奥方様に向ける私を見つめながら、奥方様が口を開いた。
『……今現在、私はベネディクトの魔力と繋がっているの。あの子は次期大精霊だから、私の魔力と最も融和性が高い。だからエレノアちゃんがこの場を浄化したのと同時に、この場の全員を私の本体がある場所に転移させられる。……多少力が足りなくても、幸いというかここには『闇』の魔力を司る貴方がいるしね』
「は!大精霊様、お任せくださいませ。この命に代えてもお役に立ってみせましょう」
名指しされたイーサンはキッパリとそう言い切った後、奥方様に対し深々と礼を執った。
「ベネディクト君が……」
多分、アーウィン様方も力を貸してくれているのだろう。ならば、私さえ失敗しなければ活路はあるのだ。
「…………」
……啖呵を切ったものの、急に不安が湧き上がってくる。果たして追手が来る前に上手く浄化出来るだろうか。
「……イーサン……か。――ッ!そうだ!」
そんな私達の様子を見ていたオリヴァー兄様が、ハッとしたように目を見開いた。
「エレノアが『浄化』を行なっている間、気が付かれずに済む方法があるかもしれない。……いや、それどころか上手くいけば、『邪神』にダメージを与えられる可能性がある」
「え!?」
『まあっ!?』
「マジっすか!?」
「オリヴァー様?それはどういった事なのでしょうか?」
オリヴァー兄様は私達の言葉に答えず、イーサンと視線を合わせ、ニッコリと笑顔を浮かべた。
初めて、女神様のアレコレが詳しく語られました。
そして、オリヴァー兄様は何を画策しているのでしょうか!?
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