嘆きの霊園
ジュニア文庫2巻が発売となっております!
一巻同様、書籍版と違ったかっこ可愛らしい登場人物達や、書籍にはなかったシーンの挿絵なども多数掲載されております。
そして、書籍版も9巻まで発売されております。興味のある方は是非!!(詳細は、近況報告をご覧になったくださいね)
オリヴァー兄様やイーサン達による羞恥プレイに大いにへこまされたものの、取り敢えず貴重な食糧ゲットである。
「いえ!恐れ多くもお嬢様のおやつを我々が食べてしまうのは……!」
「そうですわ!こうして命を助けて頂けただけでも有難いというのに!」
……と、恐縮して食べるのを辞退しようとしていたハーゲンさんやチェルシーさんを、「腹が減っては戦は出来ぬ!」と何とか説き伏せる。実際のところ、今現在は本当に帝国とのガチバトル真っ最中だからね。
――……ん?帝国とガチバトル……って……。
「そうだ!!ゼフちゃんやハーゲンさん達の事とか、色々あって忘れていたけど、なんで私達帝国にいるの!?」
緊急事態ゆえに、強制的に後回しにしていたパニックが再びぶり返してくる。そんな私に対し、オリヴァー兄様は「エレノア、落ち着いて!」と私を宥めながら、渋面を浮かべた。
「さっきも言ったけど、僕達もよく分からないんだ。気が付いたら、ここから少し離れた町の外れに倒れていたからね。まあ、イーサンとティルが、『ここは帝国だ』って断言したから、場所だけは判明したんだけど……」
「はい、それについては間違い御座いません」
「この忘れもしねぇ、反吐が出そうな程腐りきった空気。出来れば二度と吸いたくなかったっすけどね!」
イーサンは眉間のシワを深くさせて。そしてティルは、言葉通り渋面で吐き捨てるように言い切った。
そういえば、イーサンは度々帝国に潜入していたし、そもそもティルは元帝国人だったから、ここが帝国だってすぐ分かったんだろう。
「我々がこのように転移させられたのは、間違いなく帝国の仕業でしょう。……ですが、王宮並みの防御結界が施されている筈の学院で、どうやってこのような事を実行出来たのか……」
「ああ。あの時、エレノアが駆け寄ってきた時に感じた地震のような衝撃……。間違いなく、あれが引き金だったんだろうけどね」
「……だとしたら、一緒にいたクライヴ兄様や、他の人達はどうなったのでしょうか?」
もし、私が標的だったとしたら、オリヴァー兄様やイーサン達は私の巻き添えで帝国に転移させられてしまった事になる。
だけどそうじゃなくて、これが学院全体への攻撃だったとしたら……他の皆はどうなってしまったのだろうか?
「……エレノア。ひとまず話は後にするとして、まずは彼らに食事をしてもらおう」
オリヴァー兄様のお言葉に、不安そうな表情を浮かべながらこちらを見ているゼフちゃんやハーゲンさん達に気が付いた。
「す、済みません!お見苦しいところをお見せしました!ゼフちゃんも、恐がらせてごめんね?」
そうだ。起こってしまった事を議論するよりも先に、彼らのお腹を満たす方が先だ!
慌てて彼らに謝罪をした後、イーサンが用意した小皿やナイフ、そしてフォーク(どんだけ用意周到なんだ!?)などを並べ、それぞれが取り出したお菓子やサツマイモを切り分けて盛り付けていく。
取り敢えず、『大地の魔力』で回復したとはいえ、病み上がりの身体にいきなりお菓子はきついだろう。なのでハーゲンさんとチェルシーさんには、比較的胃に負担がかからず、尚且つ腹持ちのいいサツマイモを食べて貰いました。
二人とも、「こんな美味しい芋は初めてです!!」「うう……!前世でよく食べた焼き芋そっくりの味!」って、大感激してくれました。
ええ、そりゃあそうでしょうとも!なんせ前世の『鳴●金時』や『紅は●か』に近づける為、(領民の皆さんが)品種改良頑張りましたから!
「美味しい!こんなに綺麗で美味しいお菓子、初めて食べた!」
一方、口の周りを生クリームだらけにしながら、幸せそうにケーキを食べているゼフちゃん。そんな彼女の姿を、ハーゲンさんもチェルシーさんも、凄く優しい表情で見つめている。
うんうん。幸せ家族のお裾分けで、こちらの方までほっこり笑顔になります。
イーサンも、心なし柔らかな視線を三人に向けているし、オリヴァー兄様も、微妙にゼフちゃんから見えない位置で百万ボルトの微笑みを浮かべている(くっ!)。
因みにですが、私はオリヴァー兄様がくれたマドレーヌとフィナンシェを美味しく頂いております。
「うぉっ!この焼き菓子、滅茶苦茶美味いっすね!!流石はお貴族様御用達!!マジでパネェ!!」
その横では、ティルがちゃっかり焼き菓子を貪っている。そんなティルを、オリヴァー兄様もイーサンも青筋立てながら睨み付けている。
きっと今すぐ鉄拳制裁したいんだろうけど、ゼフちゃん(とチェルシーさん)に修羅場は見せまいと耐えているんだろう。レディーファースター魂による流石の気遣い、お見事です!
「お嬢様ー!そっちの焼きドーナツ、マジ美味かったんでもう一個取ってください!」
……そろそろ止めておこう。じゃないと後で真面目に、ティルが処せられてしまう。
「……ティル」
あっ!イーサンが遂に、我慢の限界を超えたか!?
「焼き菓子よりも、生クリームが乗ったケーキの方を早めに処理しなくてはなりません。ゼフ嬢一人に任せていないで、貴方も手伝いなさい」
え!イーサン?まさかの「ケーキ、もっと食べろ」指示!?
「そっすね!お嬢ちゃん、まだ食える?」
「食べられます!」
「おっ、良い返事じゃん!んじゃ、俺と嬢ちゃんはあっちの部屋で、こいつを心置きなく食い尽くしてきますわ!」
そう言うと、ティルは残ったホールケーキの半分を手に、嬉しそうなゼフちゃんを連れて隣の部屋へと消えていった。するとすかさず、オリヴァー兄様が術式を発動した。
「さて、イーサン。君はさっき、ここは『嘆きの霊園』で、だから帝都で間違いない……と言っていたね」
「はい、オリヴァー様。その通りに御座います」
「僕達が転移させられた経緯やこれからどう動くかなど、山積みの問題を打開する為にも、まずは『嘆きの霊園』がどういった場所なのかを説明してくれるかい?」
そうか!この話をする為に、イーサンはティルにゼフちゃんを隣の部屋に連れて行かせるよう仕向けたんだね。という事はさっきの術式って、防音結界を張る為のものだったのか。
「…………」
イーサンはチラリと私の方を見た後、オリヴァー兄様と視線を合わせた。そして兄様が頷くと、眉間に皺を寄せながら眼鏡のフレームを指クイする。
「……かしこまりました」
そうしてイーサンが話した内容は、まさに衝撃的とも言えるものだった。
なんとここは、帝国の『異世界人召喚』によって連れてこられた女性達が眠る共同墓地なんだそうだ。
しかも、たとえ嫁がされた相手が王族や高位貴族といった身分の高い連中であったとしても、亡くなった瞬間、問答無用でここに運びこまれ埋葬されるんだとか。
「……ッ……酷い!!なんでそんな酷い事が出来るの!?」
死んだ後までも人権を踏みにじられ続けている彼女達の事を思い、憤りと悔しさで震える私の身体を、オリヴァー兄様が背後から抱き締める。
私と同様、真っ青になって震えているチェルシーさんも、ハーゲンさんが労わるように抱き締めている。
そんな私達を気遣わしげに見つめていたイーサンだったが、オリヴァー兄様に促され、再び口を開く。
「……尤も、『異世界人召喚』を定期的に行ない始めた当初は、嫁した王族や貴族家の所有する墓地に埋葬されていたようです。ですがある頃から、彼女達を埋葬した場所から瘴気溜まりが発生し、周囲に様々な災いを振り撒くようになったのだとか」
「……成る程。だから、瘴気や災いを一か所に留める為に、この霊園を作った……という訳か」
「おそらくは」
「……酷い話だな。無理矢理召喚した挙句、いいように利用され続けたのだ。死して瘴気を発する程に憎しみを抱くのは当然の事だろう。なのに傷付いた御霊に寄り添う事も、心からの謝意をもって鎮める事もせず、このような場所に厄介払いのように打ち捨てるなどと……!!」
オリヴァー兄様は、深い怒りのこもった言葉を口にしながら、私を抱く腕に力を込める。そんな兄様の腕にそっと手を添えた私の脳裏に、目が覚める前に聞いた言葉の数々が蘇ってくる。
『私達はお前達の奴隷でも家畜でもない!!』
『絶対に許さない!!私達を不幸にしたように、お前達にも同等の不幸を!呪いを与えてやる!!』
あの、『呪詛』と呼ぶに相応しい憎悪に満ち溢れた声。ひょっとしなくても、あれはこの霊園に埋葬された女性達の魂の叫びだったのだろう。
……でも同時に、『誰か助けて』『私達を解放して』と、まるで慟哭しているような、深い悲しみの感情も伝わってきて、胸が苦しかった。
「この霊園では、帝国人の……特に男性に災いが降り掛かるとされております。特に『異世界人召喚』に直接関わっている王侯貴族達にはそれが顕著だそうです」
「諸悪の根源だ。当然だろうな」
吐き捨てるようなオリヴァー兄様の言葉に、イーサンが深く頷く。
「御意。それゆえ、帝国内では第一級の『忌み場』とされ、余程の事が無い限り人が立ち寄る事はないのだそうです。ゆえに、この場にハーゲン達が転移したのは、女神様の深い御心によるものでありましょう。……ですがハーゲンは元帝国人。それ故、ここの瘴気に当てられ死に掛けたのでしょう。想像ですが、即死しなかったのは、ひとえにチェルシー様がいらっしゃったからではないかと」
「え?私……ですか?」
自分の名前を呼ばれ、困惑した様子のチェルシーさんに対し、イーサンは深く頷いた。
「はい。貴女様は『転生者』ですから、当然女神様の加護を受けていらっしゃいます。それゆえ、貴女様が大切に思っている者にも、その加護が発動したのでしょう」
それを聞いチェルシーさんが、ハーゲンさんと見つめ合う。
「……チェルシー、有難う」
「ハーゲン……!」
二人は互いに目を潤ませ、そっと寄り添う。うん、本当に良かった。女神様、感謝致します!
「因みにですが。同じく元帝国人であるティルが無事だったのは、お嬢様に強請りに強請って付与されまくった暗器の数々を身に付けていたからでしょうね。まあ、私もオリヴァー様も似たようなものですが」
「あー……」
そういえば、ティルと張り合うように、イーサンとオリヴァー兄様もアレコレ付与を強請ってきていたな。主従による低次元の戦いに、クライヴ兄様が呆れていたっけ。
「そして今現在、この小屋はお嬢様の御力により『聖域』となっているようです」
「せ、聖域!?なにそれ!?」
……え?さっき確認したら、屋根にも壁にも苔の代わりにペンポポスミレが咲きまくっていて、小屋を中心とした半径百メートル内は空気が浄化されて草が芽吹いている!?……マジですか!?
「でも、付与かぁ……。まあ、それで救われたんなら、結果オーライだよね」
何気なく呟いた瞬間、突然『ある考え』が天啓のように閃いた。
「――……救う……」
ひょっとしたら……。私がこの場所に飛ばされたのが女神様のご意思だったとしたら……。
「『彼女達』も救えって……そういう事なのかな……?」
ポツリと呟いた後。私は表情を引き締め、オリヴァー兄様とイーサンを見つめた。
「エレノア?」
「お嬢様?」
訝し気な表情でこちらを見つめる二人に対し、私は真剣な表情で口を開いた。
「オリヴァー兄様、イーサン。……あのね、私……『彼女達』を解放してあげたいの!」
私の言葉に、二人の目が驚愕に見開かれた。
因みにですが、オリヴァー兄様とイーサンは『帝国人』ではないので、瘴気の影響はあっても呪いは受けておりません。そしてその瘴気も、エレノア印のペンポポスミレによりノープログレムとなっておりますw
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