食いしん坊万歳への心得
ジュニア文庫2巻が発売となっております!
一巻同様、書籍版と違ったかっこ可愛らしい登場人物達や、書籍にはなかったシーンの挿絵なども多数掲載されております。
そして、書籍版も9巻まで発売されております。興味のある方は是非!!(詳細は、近況報告をご覧になったくださいね)
イーサンと兄様達が走り始めて一分経過した頃。視線の先に、ポツンと建つ古びた木造の小屋が見えてきた。
壁も屋根も苔むしていて、霊園のあちこちに建てられた墓石のように、今にも倒壊しそうな程ボロボロ。そしてその周囲には、やはり枯れ果てた大木が曇天の下、風に吹かれてギーコギーコと、まるで呪詛のような音を立てている。
その光景は、私が前世で楽しく見ていたアニメ『漫画日●昔話』で出てくる呪いの沼とか墓場とかのようなおどろおどろしさだ。やはりこの一帯、総じてホラーである。
「オリヴァー様、エレノアお嬢様をよろしくお願い致します」
「え?イーサン!?」
兄様が横抱きにした私を地面へと下ろしている間に、イーサンは躊躇する事無く、少女と共に小屋の中へと消えていった。その後をティルが当然のように追い掛けていく。二人の表情は共に酷く険しいものだった。
――……というか。
『え!?オリヴァー兄様がいるとはいえ、あのイーサンが私を放置した!?』
「オ、オリヴァー兄様。イーサン、一体どうしちゃったんでしょうか?」
普段のイーサンらしからぬ行動に戸惑う私と同様、兄様も困惑した様子で首を傾げる。
「さあ?……でもひょっとして、小屋の中に知り合いがいるのかもしれない……」
「ハーゲン!?おい!しっかりしろ!!」
突然、小屋の中から焦ったようなティルの怒鳴り声が聞こえてきた。どうやら兄様の予想が的中したようだ。緊急事態発生!いざ行かん!!
「ティル!どうしたの!?」
「イーサン!何事だ!?」
兄様と一緒に小屋の中に突撃すると……。そこにはポーションが入っているであろう小瓶を片手に、顔面蒼白になっている大柄な男性を抱き起しているティルと、薄水色の髪の小柄な女性にポーションを飲ませているイーサンの姿があった。因みに、先程の女の子は泣きながらオロオロしている。
「ほらっ!これ飲め!!」
「――……ッ……」
「チッ!!てめぇ!根性見せやがれ!!」
「ティル!そちらはどのような状況ですか!?」
「駄目です!!ポーションを飲む力も残っていない!それにもし飲めたとして、ポーションが効く前に魔力がほぼ尽きるでしょう!!」
「……こちらの女性も衰弱が激しい。そもそもポーションは、傷には効いても病気や呪いには効きませんからね」
よほど焦っているのだろう。ティル、普段のおちゃらけた態度や口調が一変している。イーサンの方も女性を介抱しながら、大柄な男の人の方を、物凄くドスの利いた顔で睨みつけている。
と、とにかく!今が一刻の猶予も無い非常事態だという事は理解しました!!
「イーサン!ティル!その人達から離れて!!」
私の声と同時に、イーサンとティルが二人から離れる。さあ!今こそ唸れ!私の聖女パワー!!
両手を組み、『どうか悪いところが治りますように!!』と祈りを捧げる。……すると、眩い金色の光が二人を優しく包み込み、それと同時に彼らの身体から、次々とペンポポスミレが咲いていった。
……やがて、金色の光が収まった後。その場には顔から足から全部ペンポポスミレで埋め尽くされた、花人形ならぬ大小二体の花ミイラが横たわっていたのだった。
「お、お母さん!?お父さん!?……うっ……うわぁぁぁん!!お母さんとお父さんがお花になっちゃったー!!」
少女が小柄な花ミイラ(お母さん)に縋りつき、号泣する。イーサンも、なにやら複雑そうな表情で大柄な花ミイラ(お父さん)を見下ろしているし、ティルも「やべー……」と言いながら、指でツンツンつついている。
「……エレノア……。あれって……?」
「あ……ハハ……。ち、ちょっと張り切りすぎました……かね?」
私を半目で見つめるオリヴァー兄様に対し、私は笑顔で誤魔化した。
いやだって、死にそうな人が目の前にいたら普通にテンパりませんか!?そりゃあ、全力になりますって!……え?「顔まで覆ったら息できないんじゃないかな?」ですか。た、確かに!
「お嬢様、ご安心ください。二人ともしっかり息をしております。寧ろハーゲンの方は、ほぼ呼吸が停止しておりましたから、確実に回復しております」
おおっ!イーサン、マジですか!?よ、良かったー!ペンポポスミレ、空気を読んで口や鼻からは咲かなかったんだね!
ホッとして良く見てみると、ミイラの包帯のように二人の身体を覆っていたペンポポスミレが、顔付近を中心に、徐々に光の粒のようになって消えていっているのが分かった。
表情も明らかに血色が良く穏やかになっている。……うん、本当に良かった!
「お……かあさん。おとうさん……!」
二人の顔が顕わになった事で、号泣していた少女がやっと泣き止ん……でないな。でも今は悲しみじゃなくて、喜びで涙している感じだ。
ホッと胸を撫で下ろしていると、ポンと頭に手を乗せられ、撫でられる。見上げてみると、オリヴァー兄様が慈しむような優しい笑顔で私を見つめていた。
そんな兄様の輝く美貌に頬を紅潮させつつ、私もはにかみ笑いながら兄様と見つめ合う。
「ふぉっ!」
するとなにやら、小さな声が聞こえ振り向く。
すると、さっきまで泣いていた少女がこちらを見ながら、真っ赤な顔で口元を手で覆っていた。そして、指と指の間から赤いものが……って、あれって鼻血!?
「わーっ!!し、しっかり!!とにかく座って下を向いて小鼻を圧迫!!血は飲み込んじゃ駄目だよ!?あっ、兄様!兄様はこの子の視界に入らないように、隅の方へと移動してください!!」
常日頃、鼻腔内毛細血管を決壊させている先輩として、私は急いで少女の救助を開始した。兄様がなんか複雑そう……というか、不満そうな表情をしているんだけど、これが美し過ぎるがゆえの業というものなのです。兄様はこれを機に、もうちょっと自身の罪深さを自覚して頂きたいと思います。
◇◇◇◇
「この度は、我々の命をお救いくださり、誠に有難う御座いました。……それにしても、まさかイーサン様やティルだけでなく、エレノアお嬢様とご婚約者様までもがこちらにいらっしゃるとは……」
そう言いながら、花ミイラから人間に戻った、少女……ゼフちゃんのお父さん(予定)であるハーゲンさんが、私に向かって綺麗な土下座をしている。
「病み上がりだから!」と止めたんだけど、「いいえ!これはバッシュ公爵家の『影』としてのケジメに御座います!」と言って、さっきからこの状態。イーサンも「その心意気やよし!」とばかりに頷いている。いや、悦に浸っていないで止めてあげて!
話に聞くところによれば、このハーゲンさん。ティルと同時期にイーサンに拾われた元帝国人の『影』で、数年前から帝国内で諜報活動をしていたんだそうだ。
「そーなんすよ!ハーゲンの奴はガタイがデカいしこの顔っしょ?この国のスラムを拠点にするにはうってつけってんで、抜擢されたんっすわ!」……とは、ティルの言葉です。
あっ!ハーゲンさんが物凄いジト目でティルを睨んでいる。ティルの方はと言うと、どこ吹く風って感じでヘラヘラしている。うん、いつものティルだ。きっとハーゲンさんが助かってホッとしたんだね。
それで「うってつけ」ってどういう事なのかと言うと、どうやら帝国って、貴族階級はアルバ王国程でなくても顔の良い男が多いんだとか。対して一般人の方はというと、そうでもないんだって。
イーサンが帝国からアルバ王国に連れて来た人達って、ティルを含めて貴族階級出身者が多かったから、みんな大なり小なり美形揃いで、ハーゲンさんのような容姿の人は珍しかったんだって。
あ、ハーゲンさんの容姿ですが、不器量ではなくフツメンです。でもかなり厳つく濃い顔立ちなので、『スラムの元締め役』として活動するのにピッタリだったんだそうな。
因みに、ハーゲンさんの奥さん(予定)のチェルシーさんですが、まだペンポポスミレが頭や首周りに残っているから、完璧に回復していないだろうという事で、ベッドに寝た状態で頭を下げております。
彼女は所謂『転生者』で、旦那さんを流行病で亡くした悲しみで前世を思い出したんだそうな。で、フリーになった途端群がりだした山のような求婚者から逃げ、ど田舎で定食屋を営業していたんだって。
ゼフちゃんを『男の子』として育てていたのは、亡き旦那さんがゼフちゃんが生まれた瞬間、「この子は嫁にやらん!」と宣言し、男の子として育てる事にしたんだとか。
「最初は『馬鹿なの?あんた!』って頬を張り倒したんですけど、あの人も頑固で……。でも、結果的にそれで良かったんだと思います」
そう懐かしそうに話していたんだけど……。チェルシーさん、見た目は物凄く清楚で儚げな美女なのに、凄くパワフルでタフネスですね。なんだかアリアさんと気が合いそうだ。
でも確かに。もしゼフちゃんが『転生者』の子供で『女の子』だって知られたら、今頃どうなっていた事か。男の子の恰好もグッジョブだけど、ハーゲンさんに助けられて本当に良かった!
というか、まさか二人とも『こぼれ種』狩りで帝国に拉致されていただなんて……!攫った連中も、嫁ぎ先予定の貴族も、全員揃って地獄に落ちろ!!
グゥゥ……。
不意に、大きな腹の鳴る音が聞こえてきた。……これは……ハーゲンさん?あ、顔が真っ赤になってる。
「も、申し訳御座いません!聞き苦しい音をお聞かせして……!!」
「いえいえ!お腹が空くのは自然現象ですから!気にしないでください!」
でも、そういえばハーゲンさんが襲撃を受けて、家族揃ってここに転移してから、まともに食事をしていないって言っていたっけ。それで動けない両親の為に、ゼフちゃんが食料を求めて霊園を彷徨って……うう……泣ける。
うーん……。でも私も、いきなりこっちに転移してきたから、何も持ってきていないんだよね。
「エレノア、安心して。君がいつでも心穏やかにおやつが食べられるよう、僕は常に万全の態勢でいるんだよ!」
そう言うと、オリヴァー兄様が胸ポケットから取り出したのは、中ぐらいのアソートの箱だった。……おお。焼き菓子ぎっしり。
「エレノアお嬢様。わたくしもこちらを用意して御座います」
負けじとイーサンが、胸ポケットから取り出したのは、なんと生クリームをふんだんに使用したホールケーキだった。え!?イーサンのポケット、どうなってんの!?
「家令の嗜みとして、ポケットの収納魔法に時空停止機能を施して御座います」って、それ本当に家令の嗜み!?え?時空停止機能はパト姉様にお願いした?何やってんですかパト姉様!!
「お嬢様!俺もこないだの焼き芋、ちょろまかしておいたっすよ!」
ティルも爽やかな笑顔を浮かべながら、まだ少し湯気が立っている焼き芋を数本取り出した。ティル、あんたもかい!!
聞けば私に関わりのある人達って、なんかしら食べ物を常備する習慣が身に付いているんだとか。……あっ!ハーゲンさんとチェルシーさんの視線が生温かい。今現在、彼らの中で私のイメージ、きっと物凄い食いしん坊になっているに違いない(ゼフちゃんだけは「ご馳走いっぱい……!」って感じに目を輝かせているけど)。
兄様達がドヤ顔で持参した食べ物を披露している中、私は恥ずかしさのあまり真っ赤になって俯くしかなかった。
うう……。これって結果オーライだけど、いたたまれない!!
クライヴ兄様不在の為、エレノアの心の声へのツッコミ役がおりませんね。
因みに。パト姉様に時空魔法をかけて貰った時のそれぞれの反応がこちら。
イーサン:「パトリック様。感謝いたします(左手を胸に当てて恭しくお辞儀)」
ティル:「あざーっす!!(サムズアップ→イーサンに沈められる)」
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