その頃のこちらとあちら
『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻発売中です!
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「――ッ……!これは……」
グラントが率いる第一騎士団と共に、王立学院が在った場所へと軍馬に騎乗しやってきたデーヴィスは、目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。
何故ならそこに在るのは……。
『王立学院』として存在していた、伝統ある荘厳で美しい古城の姿とは対照的な、異様な禍々しさと威圧に満ちた黒い巨大な建物だったからだ。
「王城からもその姿は確認出来たが……。いざ目の前で対峙してみると、なんとも言えず『異質』であるな」
――そう。『これ』は、このアルバ王国に在ってはならない『モノ』だと、存在そのものが語っている。
その時、グラントがデーヴィスへと声をかけた。
「……デーヴィス。こいつは、帝国の皇帝が住まう『黒城』だ」
グラントの言葉に、デーヴィスの目が見開かれる。
「確かか!?グラント!!」
「ああ。正しくは『城の一部』だな。以前ポチに乗って、帝国の軍事施設をぶっ潰しに行っただろ?あん時、ついでに首都の端ギリギリまで飛んでいったんだが……。遠目からでも、目に焼き付く程の存在感だった。見間違うはずがねぇ」
「……つまり。この惨状は正しく、帝国からの攻撃だった……という事か」
目の前の建物を睨み付けながら、デーヴィスはギリ……と、奥歯を噛み締める。
『……ディラン……!アシュル、フィンレー、リアム……!!くそっ!!何故よりによって、あいつらがここに来たタイミングで!!』
脳裏に浮かぶのは、能天気そうに笑う愛息子の姿。そして息子と同じくらい大切な、可愛い甥っ子達の姿。
まるで、狙いすましたかのようなこのタイミングでの攻撃に怒りが胸の奥から湧き上がってくる。
「それにしても……解せぬ!」
それは、息子達に同行した『影』達が全員、沈黙してるという事だ。
今回、王子達に付いていったのは、宮廷魔導師達と同じレベルで魔法を使いこなす、『影』の中でも生え抜きの精鋭集団だ。しかもその中には、王家直轄の『影』達を束ねる総帥、ヒューバードもいるのだ。
更には不測の事態に備え、宮廷魔導師団からも数名、選りすぐりの精鋭達がフィンレーに付き従っている。なのに、このような事態になっても誰一人として、王宮に連絡を寄越さないのだ。これは明らかに異常事態である。
「……デーヴィス兄上」
自分同様、宮廷魔導師団と共にこの場へとやってきていたフェリクスが、硬い表情を浮かべたまま口を開いた。
「あの子は……。フィンレーは、メルヴィルの後継と言わしめる程の魔力の使い手です。しかも、まるで息をするかのように「転移」が出来る。……なのに、ヒューバード達と同様、なんの行動も起こせていないという事は……」
フェリクスの言葉を受け、脳裏に浮かんだのは、最悪な想像。
この黒い城の出現こそが帝国からの攻撃だったとしたら、今現在城が聳え立っている場所に在った部分の建物は、中にいる人間諸共全て押し潰されてしまったのか……?
何も言わずとも、誰もが同じ事を想像したに違いない。重苦しい空気がその場を支配する。
「フェリクス!このアルバ王国の民は、等しく女神様の慈悲と加護を受けているのだ!……帝国ごときに、そう易々とやられてたまるものか……!!」
「……兄上……」
フェリクスのもの言いたげな視線を、デーヴィスは敢えて無視した。
――……分かっている。それは自分自身に言い聞かせる、祈りにも似た願望である事を。
王立学院の中心部を、まるでえぐり取って代わりに出現したかのような黒い城。その周囲には、衝撃により破壊された、学院の建物の残骸と瓦礫が残されているのだ。このような状況下において、無事である事の方が奇跡と言えよう。
『……いずれ、帝国によるなんらかの攻撃が襲い掛かってくるだろう事は予想していた……!』
だがまさか、この国の次代を担う優秀な学生達の学び舎に、いきなり巨大な城が出現するなど、誰が予想出来たというのだ。
しかも、帝国との戦争時という事で、この王都はもとより、主要な建物には全て、強力な防御結界が張られていたにも拘わらず……である。
『もしや……。あの皇帝が動いたのか……?』
歴代最強の力を持つとされる、『黒き氷の皇帝』
だが、彼は十年以上表舞台に立つ事なく、『沈黙の皇帝』とも言われていた人物。
その彼が、遂に本気でアルバ王国を潰しにきた……という事なのだろうか。
ふと自分同様、黒い城を睨みつけているグラントの姿が目に入った。その表情は、研ぎ澄まされた刃のように鋭く、いつもの飄々とした態度は欠片も見られない。
『……そうだ。こいつの息子も学院に……!』
確かクライヴは、学院を休学しているエレノアから一時的に離れ、護衛としてオリヴァーの傍にいた筈。
見回してみれば、第一騎士団の団長をはじめとした多くの騎士達。そして宮廷魔導師団と共に、この周囲一帯に『索敵』と『感知』の術式を展開しているメルヴィルも、自分達と同様に厳しい表情を浮かべている。
――……彼らも、息子達が学院に……。
デーヴィスは、掌に指が食い込む程強く手綱を握りしめた。
たとえ目の前の城がなんであったとしても、この場の誰もが今すぐ、城の中へと突っ込んで行きたい衝動に駆られているに違いない。今の自分には、彼らの気持ちが痛い程よく分かる。
……だが、何も情報を得られていない今の段階で行動を起こすなど、勇猛などではなく蛮勇に他ならない。
「……しかし……不可解だな。帝国の奴ら、なんでよりによって、自分達の王城の一部をここに落とすのだ?」
王族が住まう城というのは、いわば国の象徴。それを攻撃の材料にするなど、常識として有り得ない。……いや、あの国に『常識』など求める方がおかしいのかもしれないが……。
「……デーヴィス王弟殿下!フェリクス王弟殿下!複数の生体反応が確認されました!!」
「「――ッ!!」」
メルヴィルの言葉に、デーヴィス達だけでなく、その場の全ての者達からどよめきが上がった。
「メルヴィル!それは確かか!?」
「はい。この城が纏う魔力残滓の隙間を掻い潜った結果、判明しました。その数、およそ二百ほど。……ですが、それらは全て、黒い城の内部に集中しております」
「――ッ!?」
沸き上がった希望が、瞬時に絶望へと変わる。
もし学院内の者達が生き残っていたとすれば、黒い城の内部以外に生体反応がある筈なのだから。
「……他に、生体反応は?」
「……殆ど御座いません」
メルヴィルの言葉を受け、デーヴィスは天を仰ぎ、固く目を瞑った。湧き上がる絶望感に目の裏が焼けるように熱い。
周囲からも、堪え切れなかったのであろう小さな呻き声が、あちらこちらから漏れ聞こえてくる。
――その時だった。
「――ッ!!?」
その場に居る全ての者達の表情が変わった。
全身が総毛立つ程の、悪寒。そして、ビリビリと全身に突き刺さるような禍々しい魔力の波動が、凄まじい勢いで黒い城の中から噴出する。
「『魔眼』だ!!総員迎撃準備!!……くるぞ!!」
グラントが叫んだと同時に、デーヴィスと騎士達が一斉に抜刀及び抜剣する。それに合わせ、メルヴィルら宮廷魔導師団が、周囲に防御結界を展開した。
◇◇◇◇
「――……ッ!?」
地割れに襲われたような衝撃が収まったのを感じ、クライヴは閉じていた瞼をゆっくりと開ける。そして床に倒れた状態のまま、顔を僅かに起こすと周囲を探った。だが、どこからも人の気配は感じ取れない。
「……オリヴァー……?」
試しに、先程まで一緒だった弟の名を口ずさむ。だがやはり、応える声は無かった。
『……しかし、やけに静かだな』
人の気配どころか、鳥のさえずりや草木の気配すら感じられない。そればかりかまだ正午前だというのに、まるで夕暮れ時のように薄暗い。……まるで、一瞬でまったく別の場所へと移動してしまったかのようだ。
『……確かあの時……。大地が突き上げられたかのような揺れが起きて……白い光が周囲を覆い、なにも見えなくなって……」
そこまで考えた瞬間。直前に見た光景が脳裏に蘇った。
「エレノアッ!!」
反射的に飛び起きる。が、何故かその場でよろけ、たたらを踏んでしまった。どうやら、建物全体が傾いてしまっているようだ。気が付けば、そこかしこの壁や柱がひび割れたり破損したりしている。
「――ッ!まったく、あいつはー!!なんでこう、最悪のタイミングで来やがるんだよ!?あのトラブル吸い寄せ娘がーっ!!……って、待てよ!?」
エレノアだけではなく、あのオリヴァーがここにいない……という事は……。
「……ひょっとしてオリヴァーの奴、エレノアと一緒にいるのか?」
……うん、いるな。あの万年番狂いが、天変地異ごときで愛する女を放置なんてするはずがない!!
たとえばこれが、オリヴァーとエレノアのどちらかが行方不明であったとすれば、心配は際限なく募っただろう。だが二人同時にいない事で、逆にクライヴの不安感は嘘のように半減した。ただし、それはあの二人に限っての話だが。
「しかし……。この状況は一体……?」
まさか、王都でこのような災害が起こるとは。……いや、今は戦時中だ。まさかとは思うが、ひょっとして……。
「とにかく、この訳の分からねぇ状況を把握する為にも、さっさとアシュルや他の連中を探さねぇとな!」
崩壊の危険がある中、慎重に周囲の破損具合を確認しながら、クライヴは廊下を駆け抜けていった。
万年番狂いに対する、謎の(でもない)信頼感……。
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