災厄の出現と驚愕の報告
『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻発売中です!
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――エレノア達が謎の衝撃に見舞われる少し前。
「パトリック様、我々はどうすれば……!」
エレノアの姿が消え、動揺するウィルとミア、そして騎士達を落ち着かせる為に、パトリックは冷静に指示を与える。
「ウィル。私は今から学院へと向かい、エレノアを連れ帰る。お前はすぐに馬車を用意するように。ミアはユリウスを母上の元に。騎士達はそのまま任務にあたるように」
「「「「「はっ!!」」」」」
パトリックの指示に従い、ウィルや他の者達が動き出す。
「さ、ユリウス。すぐにお姉様を連れて帰ってきてあげるから、いい子にしているんだよ?ぐずってミアやノラに迷惑をかけないようにね」
「あー……」
目に涙を浮かべながら、むずかっている愛息子に笑いかけ、ぷくぷくした頬にキスをした後、パトリックはミアにユリウスを託した。
そうして、部屋に一人きりになったパトリックは、抑えていた感情を吐き出すように深く溜息を落とした。その表情には、隠し切れない動揺と不安が浮かんでいる。
「エレノア……!いったい、どうしたっていうんだ!?」
最愛の妹が取った信じられない行動に、パトリックは普段の冷静さを失っていた。
なにせ、突然部屋から駆け出した挙句、自身の忠実な家臣であるバッシュ公爵家本邸きっての精鋭コンビと共に姿を消したのだ。動揺しない方がおかしいだろう。
「……嫌な予感がする。とにかく、早くあの子を連れ戻して……」
――その時。突然空気が震えた。
「――ッ!!?」
えもいわれぬ程の冷たい恐怖を感じ、ゾワッと、全身が総毛立った。……その一秒後。
物凄い地響きと同時に、激しい揺れが離宮を襲い、そこかしこから悲鳴が上がる。
パトリックは持ち前の運動神経でもって、なんとか転倒せずに堪え、揺れが収まったと同時に廊下へと飛び出した。
すると、そこかしこで侍従や騎士達が倒れた獣人メイド達を助け起こしている姿が目に入る。幸いというか、彼女達も草食系とはいえ獣人の端くれ。身体能力が普通の女性よりも高い為、どの子もたいした怪我は負っていないようだ。
その時、泣き叫ぶユリウスの声が耳に届き、急いで母親であるマリアの部屋へと向かう。そして、少しだけ空いてた扉を勢いよく開いて室内へと駆け込んだ。
「母様!ユリウス!!」
見れば、ミアが長椅子で横になっていた母と、母の腕に抱かれていたユリウスが床に投げ出されないよう、揺れにも動じずしっかり長椅子を支えてくれていた姿が目に入り、思わず安堵の溜息が漏れる。
「ああ、パトリック。私もユリウスも大丈夫よ。ミアがずっと支えてくれていたおかげね」
ジョゼフが「あの子は見どころがあります」と言って、密かに鍛えていたのは知っていたが、いつの間にこのような身体能力を身に付けたのか……。これもひとえに、エレノアへの忠誠心の賜物であろう。
「ミア、よく母様とユリウスを守ってくれた!心の底から感謝する!」
「は、はいっ!パトリック様!恐れ入ります!」
「ノラ、君もエヴァも怪我は無いかい?」
「パトリック様、お気遣い感謝いたします!私達ならご覧の通りです!」
言葉の通り、ノラは傷一つ無いようだ。また、ノラの子供であるエヴァも、抱っこ紐のお陰で無事だったようで、パトリックは詰めていた身体の力を抜いた。
「パトリック様!マリア様!ご無事ですか!?――ッ!ミアさんっ!!お怪我は!?」
「ウィルさん!はい、私なら大丈夫です!」
「マリア様っ!ノラ!エヴァ!」
「二人共!無事かっ!?」
「ジル様!グレイ様!この通り、マリア様も娘も私も無事ですわ!」
「あー!うー!」
それぞれが、大切な人達の無事な姿に安堵の溜息をつく。
「パトリック様!いったいこれは……!?」
困惑した様子で問い掛けてくるウィルに、パトリックは首を横に振った。
「私にもよく分からない。……だが、普通の地震ではないような気がするよ。第一、『聖女』が二人いるこの地に、天変地異が起こるなんて有り得ないからね」
正式に『聖女』と認定された者が健やかに在る場所には災害が起こり辛い……とされている。
勿論、自称他称で祭り上げられた『聖女』に関して言えば、恩恵などほぼ得られないが、アルバ王国の『聖女』二人は、大精霊に認められた真の『聖女』である。
しかも、アリアが『聖女』と認定されてから、この首都近郊での災害発生率は皆無。勿論、首都以外の各地では、魔物の大量発生のような魔物による災害は発生している。だが全国的に見ても、被害が壊滅的とされるような自然災害自体は起こっていないのだ。
「パ、パトリック様ッ!!今すぐ外にいらしてください!!」
騎士の一人が、慌てた様子で駆け込んでくる。その尋常ではない様子に、パトリックはウィルを伴い外へと駆けだした。……そして。
「――な……っ!?」
外に出たパトリック達が目にしたもの。……それは、いつもであれば王立学院が見える方角に、突如として出現した黒い城の一部だった。
◇◇◇◇
「一体どうなっているのだ!?あれは一体……!?」
その頃。王宮の執務室では、険しい表情を浮かべた国王アイゼイアが、側近達を前に声を荒げていた。
その姿には、彼が日常的に浮かべている余裕のある表情や、そこに在るだけで背筋がピンと張る程の威厳に満ちた態度などは、欠片も見当たらない。
だが、それは無理からぬ事だろう。
突然、巨大な地震が起こったかと思えば、王立学院が在った筈の敷地の真ん中に、黒い城の一部らしき建物が聳え立っているのだから。
「ワイアット宰相!状況を説明しろ!!」
「はっ!先程の地震ですが、あの黒い城の出現した際、発生した地響きであると思われます。こちらの城内の被害情報ですが、損壊などの被害は、防御結界により無し。怪我人は多数出たようですが、死者等の報告は今のところ入ってきておりません。また、首都における被害は、今現在機動部隊が調査中です」
「……そうか。アイザック!」
「はっ!王立学院に魔導通信をかけるも、一切の返答はありません!現在、デーヴィス王弟殿下がオルセン将軍及び第一騎士団を引き連れ、王立学院へと向かっております。またその際、帝国による攻撃である事を想定し、転移門は使っておりません。更にはその後方支援として、フェリクス王弟殿下の指揮の元、クロス魔導師団長及び魔導師団が王立学院へと向かいました!レナルド王弟殿下は、救援及び警護の為、第二、第三騎士団と共に王都へと向かっております!」
「……まだ、王立学院における被害については分からぬのだな……」
「……御意」
報告が終わったワイアットとアイザックは、険しい表情を浮かべながら、アイゼイアに対し頭を垂れる。アイゼイアは、そんな彼らを目にした後、窓の方へと視線を向ける。すると否が応でも、歪な状態で聳え立つ黒い城が目に飛び込んできてしまい、思わず舌打ちをしてしまう。
「……何故……このタイミングで……!!」
――今現在、あの王立学院には……多くの子供達と共に、自分達の息子もいるのだ。
遠目から見ても分かる程、広範囲に破壊されている様が見て取れる。しかも、まるで王立学院の代わりとでも言わんばかりに、禍々しい黒い城が聳え立っているのだ。
無事であれ……と心の底から願う。
だが、己が子らの安否に心を向ける訳にはいかない。自分達は王家直系として、この国とこの国に住まう者達全てを守り導く使命があるのだから。
「アイゼイア!!アシュルは……!?ディランとフィンレーと……それに、リアムも!!」
「アリア……!」
両側から獣人メイド達に支えられながら、アリアが蒼白な面持ちでやってくる。アイゼイアはアリアに駆け寄ると、震える華奢な身体を優しく抱き締めた。
「アリア、まだ状況は何一つ分かっていないんだ。……だが、デーヴィス達やオルセン将軍達が王立学院に向かっている。いずれ詳しい詳細が分かるだろう。……そうしたら、君にも『聖女』として、学院に赴いてもらう事になるかもしれない」
……そう。あそこには今、救援を待ち望んでいる者達が大勢いる筈だから。
「アイゼイア!お願い!今すぐ私をあそこに連れて行って!!ここで待っている間にも、命を落としている人達がいるかもしれない!!『もう少し早く対処していれば』って、後悔したくないの!!」
「アリア……!」
腕の中、顔を上げ必死に言い募る姿に胸が痛む。……だが。
「駄目だ」
「アイゼイア!?」
「まだ、デーヴィス達からの報告がきていない。そんな中で君を行かせる訳には……」
「国王陛下!!」
突如、アイザックの声が二人の会話に割って入る。
振り返れば、いつの間にこの場にやってきたのか、黒ローブ姿の男が一人。顔面蒼白になったアイザックの傍に控えている。多分、アイザック直属の『影』であろう。
「どうした、アイザック」
「国王陛下と聖女様との会話を邪魔してしまい、大変申し訳ありません!……。ですが、早急にお伝えすべき事が!」
アイザックの姿に、その場の空気が一気に緊迫する。
「……話せ!」
「はっ!……つい先程。私の娘が……『影』二名と共に、学院に向かったそうです!!」
「――ッ!?」
「なっ!?」
「エレノアちゃんが!?」
最悪な状況下でもたらされた最悪な報告に、その場に居る誰もが息を呑んだ。
アルバ王国側ですが、まさしく『厄災到来』と呼ぶに相応しい非常事態となっております。
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