貴方の元へ
『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻発売中です!
通販その他の情報は、活動報告をご覧になってくださいませ。
※書籍9巻の特典です※
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「た、確かに……。まあ、色々やらかしてる自覚はあるけどね。さっきもうっかり、『休もうか』って言っちゃったし……」
「というか、エレノア。俺もオリヴァーと同罪なのか……?」
あ、クライヴ兄様がショックを受けているっぽい。それに対し、オリヴァー兄様が「クライヴ……?」って、ジト目になっている。兄弟不和を招いてしまったようで、申し訳ありません!
「オリヴァー兄様!クライヴ兄様!じゃあ、アシュル様方の訪問、今日じゃなくて別の日にして、打ち合わせもここですればいいじゃないですか!!」
「いや、流石にそれは……」
「エレノア、お前の気持ちは十分分かった。なるべく早く帰ってくるから……」
あまりにも頑なに「行かないで!ここにいて!!」と言い募る私に対し、最初は嬉しそうにしていた兄様方が、次第に戸惑い狼狽していく。私も自分自身、どうしようもなく我儘を言っている事は分かっているんだけど……でも何故か止まらない。
「お願いします!絶対行かないでください!!……そうだ!セドリックとリアムも早退してもらって、話し合いに参加……」
「止めなさいエレノア!!これ以上、オリヴァーとクライヴを困らせてはいけない!」
その時。いつもの穏やかさとは打って変わった厳しい表情と口調で、パト姉様が私を諭す。
「パト姉様!……ッ……で、でもっ!!」
「いいかい、エレノア。今回の殿下方の訪問は、帝国との全面戦争に向けて、学院生達を鼓舞し、心を一つにする為のものなんだ。私情を挟んで我儘を言うなど、言語道断。君も『聖女』としての立場と責任を、今一度しっかりと自覚しなさい」
「……はい。パト姉様」
ピシャリと正論で諫められ、シュンと肩を落とした私を、兄様方が苦笑しながら交互に優しく抱き締めてくれた。
「エレノア。帰って来たら、どんな我儘でも聞いてあげるから。その時は、うんと甘えてくれて構わないよ?」
「右に同じく。明日からは暫く一緒にいてやるからな?」
「…………はぃ……。いってらっしゃい……」
本当は行ってほしくない。けれど、これ以上引き留める事も出来ない。
私は、どんどんと湧き上がってくる焦燥感に無理矢理蓋をし、兄様方を送り出したのだった。
◇◇◇◇
「……エレノア、不安かい?」
兄様方の背中が見えなくなるまで見送った後。ソファーに腰掛けながら、未だに胸の奥から湧き上がってくる不安と焦燥感に耐えていた私に、パト姉様がユリウスを抱っこしながら声をかけてくる。
「姉様。……はい……」
眉を八の字にしてしょぼくれている、私の情けない顔を見ながら、パト姉様は苦笑を浮かべる。
「今は戦時中で、何が起こるのか分からない状態だからね。それに戦闘になった時、最前線で戦うのは王族や高位貴族達……つまり、君の大切な人達だ。それに君自身も、いざとなれば前線に立たなくてはならないかもしれないからね。不安になる気持ちは分かるよ」
「……私の事はいいんです。寧ろ、一緒に戦うのは本望ですから。それに、いざそうなった時。兄様達だけじゃなく、パト姉様だって、絶対戦おうとするでしょう?」
パト姉様は私の言葉を聞いて、困ったような笑顔を浮かべる。
姉様の属性は、希少属性である『時』。だからきっと、最悪な瞬間になったら、元ボスワース辺境伯の時のように、命を投げ出してでも力をふるってしまうに違いない。
「私、大好きな人達が傷付く姿を見るのは嫌です。だから、兄様方もセドリックもパト姉様も、アシュル様、ディーさん、フィン様、リアムも……。マテオも父様方も、みんなみんな、絶対私が助けます!!」
「……ふふ……。うん、期待しているよ。でも、ほどほどにね?じゃないとユリウスが泣いちゃうからね」
見ればユリウスが眉を寄せ、唇をギュッとしていた。まるで泣くのを堪えているかのようだ。
「ユリウス、ごめんね。私の気持ちが伝染しちゃったかな?」
「……うー……」
途端、ユリウスは拗ねたようにプイッと顔を背けてしまった。あれ?
「エレノア、多分だけどユリウス、自分の名前が無かった事に拗ねているんじゃないかな?」
「えええっ!?まさか!いくらユリウスが発育優良児であっても、生後一ヵ月の赤ちゃんが、そこまで理解しているわけ……」
……いや。見事なそっぽ向きといい、さっきのリズミカルなダンス(?)といい、こんだけ出来る子なら、理解している可能性はある……か?
「うん、大丈夫だよ。ユリウスも私が絶対に守ってあげるからね?」
途端、チラリとこちらに視線を向けるユリウス。……うん、理解しているっぽい。
「あー!あうー!」
「はいはい」
抱っこをせがむように手をこちらへと伸ばすユリウスに苦笑しながら、手を伸ばそうとしたその時だった。
ドクン……!
「――ッ!?」
心臓の鼓動が大きく跳ね、ビリビリと空気が震える衝撃に全身が怖気立つ。まるで、さっきから感じていた不確かな焦燥が明確に形を変え、本能へと訴えているかのようだった。
脳裏に浮かぶのは、愛しい婚約者達の姿。
――行かなければ……!!
考えるよりも先に身体が動いた。
「「エレノアお嬢様!?」」
「エレノア!?待ちなさい、エレノアッ!!――ッ!ウィル!そして君達!あの子を止めてくれ!!」
「は、はいっ!!」
「か、かしこまりました!!」
ウィルとミアさんが驚いたように、いきなり駆け出した私の名を叫ぶ。そして、パト姉様が私を止めようとする声が聞こえてくる。このままでは、すぐに捕まってしまうだろう。
「イーサン!ティル!」
私は止められまいと、必死に声を張り上げた。
「お願い!私を……オリヴァー兄様のところに連れていって!!」
次の瞬間、私の目の前に『闇』が広がった。
「――ッ!ぷはっ!!」
一瞬の、独特な浮遊感を感じた後。私の身体は見慣れた学院の正門前へと立っていた。
身体を支える手に気付いて見上げると、そこには黒ローブ姿のイーサンがいた。そしてティルもまた、私達の少し後方に控えているのが見える。
「お嬢様、急な転移による不調は御座いませんか?」
「う、うん。平気」
なんてやり取りをしていると、正門を守っている警備騎士の皆様方が目を丸くしながら、私達を凝視しているのに気が付いた。
いや、そうだよね。いきなり黒ローブ姿の男二人と少女が目の前に現れたら驚くよね。
「申し訳ありません、エレノアお嬢様。戦時中ゆえ、結界が強化されているのに加え、王族をお迎えするにあたり、魔力干渉を排除する術式が展開されているようで、学院の中に転移出来ませんでした」
そう言いながら、イーサンが私の身体を横抱きにする。
「ゆえに、これより急ぎオリヴァー様の元へと馳せ参じます。ティル、邪魔者を排除しろ!」
「了解っす!!」
「へ?ち、ちょっ!!排除って……うわっ!!」
言うが早いかティルが先陣を切り、正門を飛び越える。イーサンもそれに続き、目にも留まらぬ速さで学院内を駆けていく。その間にも「ちょっ!」「ま、待て!とま……」という声と、打撃音が耳に届く。
……ああ。これってばきっと、不法侵入者を止めようとしている警備兵さん達が殴り飛ばされている音なんだろうな。
ついでにバチバチッと、デカい静電気が弾けるような音がするから、『雷』の魔力も使っちゃってるね?ティル!警備が強化されているところに、こんな狼藉していたら真面目に消されちゃうよ!?
「お嬢様、ご安心くださいませ」
「え?」
「はーっはっはっはー!!おらおら、どけどけぇー!!この紋章が目に入らぬか―!!」
――……ん!?こっ、この台詞は……!?
ひょっとして、某天下の副将軍様が悪人を懲らしめる際、側近が言い放つキメ台詞!?(『紋所』じゃないけど)……あっ!!翻るティルのローブの背中部分に、見慣れた紋章が!?
「お嬢様のお話を参照しまして、目立つ部分に我がバッシュ公爵家の家門を刺繍して御座います。緊急時にはたいへん有用ですので」
た、確かに有用だろうけど、『影』が身バレ上等の服を着るってどうなの!?あああっ!バッシュ公爵領滞在時に、ティルと『水戸●門ごっこ』なんてするんじゃなかったー!!
というか目の端に、宙を舞っている騎士様方や黒ローブの皆さんの姿も見えるんですが!?……ひょっとしてイーサンが、『闇』の触手で放り投げている……とか?あ、コクリと頷いてる!!ううっ!皆様、本当に済みません!後で土下座して謝り倒します!!
「……それで、エレノアお嬢様。一体何があったのですか?」
イーサンの静かな問い掛けに、私はグッと言葉に詰まる。
「ご、ごめんねイーサン。いきなりこんな事させちゃって……。でも……あの……。言葉に出来ないと言うか……」
「……そうですか。だったら、無理に言葉にする必要は御座いませんよ。私はエレノアお嬢様の忠実なる僕。ただただ、お嬢様のご意思に沿うだけで御座います。……それに、頼って頂けて嬉しいですよ」
「イーサン……!」
イーサンの優しい口調に胸が温かくなる。というかイーサン、僕って……。
「――!お嬢様、前方からオリヴァー様方が!」
「えっ!?」
イーサンの言う通り、回廊の先にオリヴァー兄様がクライヴ兄様を伴い、こちらに向かって走ってくる姿が見えた。どうやらこの騒ぎを聞きつけ、駆け付けてきたっぽい。
「兄様方!!」
その姿を見た瞬間、焦燥感の中にもホッとした安堵の気持ちが湧き上がってくる。
オリヴァー兄様方が、こちらに気が付いたのか足を止める。クライヴ兄様も、不審者に即座に反応し、刀の柄に手を当て構えているのが見えた。
イーサン、万が一私が攻撃受けないよう、ローブに隠すようにして運んでいたから、兄様方には私の姿が見えないんだ。
「イーサン!下ろして!!」
私はイーサンの腕から下り立つと、兄様達の元に向かって全力で駆け出した。
「オリヴァー兄様!!クライヴ兄様!!」
「「は!?」」
私を認識した兄様方の目が丸くなっている。が、すぐに我に返ったオリヴァー兄様が、急いで私の方へと走ってくるのが見えた。
「エレノア!?君、なんでここに……」
「オリヴァー兄様ッ!!」
兄様の名を叫びながら、必死に手を伸ばす。兄様も私へと手を伸した。
手と手が触れ合った……次の瞬間。
――ドン!!
まるで巨大な地震が起こったかのような凄まじい衝撃と揺れ。そして浮遊感が襲いかかってくると同時に、周囲の景色が白一色へと変わった。
昨日に引き続き、更新です!
『互換』された場所は……王立学院でした。
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