表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
653/657

漆黒の英霊祭②【帝国side】

『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻、およびジュニア文庫2巻の予約販売が開始されております!

発売まで一週間となりました!興味のある方は是非v


※書籍9巻の特典です※

◆書籍書き下ろしSS:『その雑草ホーリーにつき』

◆電子書籍書き下ろしSS:『クロス伯爵家の家令は見守りたい』

◆TOブックスオンラインストア特典SS:『いつか貴女に騎士の誓いを』

◆応援書店特典SS:『アンテナショップは「ぷるっちょ」と共に』


黒き王城の最下部に存在する漆黒の大聖堂。ぐるりと円形状に作られたそこには、四つの巨大な額が飾られている。……が、その額の中は黒檀のような魔法石が嵌め込まれているだけのもの。


――だが。時を告げる荘厳な鐘の音が鳴り響くなり、四つの額の中の魔法石に様々な色の幻炎が灯る。


生き物のように形を変え乱舞する炎の饗宴が、壁に掛けられた魔導ランプと共に、大聖堂の内部を幻想的に彩っていく。

それに合わせ、開かれた重厚な扉からは続々と、皇族とそれに連なる貴族家、大臣達が入室していく。


『……予想よりも随分と、多いな……。まあ、それも当然だが』


大聖堂に集まった者達を見ながら、ウリセスは心の中で呟いた。


見れば魔法か薬を使われたのか、明らかに生気を無くし、ゴッソリと表情を削ぎ落した第二皇子(マルス)が側近達と共に参加しており、派閥の主な重鎮達がその周囲を固めている。


そして第四皇子(シリル)とその派閥の重鎮達も、全てこの場に集結しているのが確認出来た。今回の粛清の為に根回しをしていた、まだ幼い他の兄弟達の派閥もしっかり参加しているのを確認し、思わず口角が上がった。


通常の英霊祭は、皇帝や皇家直系に連なる者達、そして帝国の重鎮のみで執り行われるのが常である。


だが今回は、帝位継承権一位となった第三皇子セオドアのお披露目も兼ねているとあって、他の皇子達を産んだ皇后や側室達の実家、それに連なる家門の面々、そして、彼らがそれぞれ引き連れて来た側近や護衛騎士達……と、まさに大聖堂を埋め尽くさんばかりの大勢の者達が参加しているのだ。


だが、当の継承権一位となったセオドアの母は、アルバ王国(敵国)から売られた平民であり、後ろ盾となるべき親族は一人も存在しない。


……いや、継承権一位となった後、数ある貴族家から後見の申し出が殺到したのだが、本人がその全てを断ったのである。その為、実質集まった者達の殆どはセオドアの敵であった。


『あ奴め……。烏合の衆とは言え、あちらから味方になると言ってきた者達を受け入れぬとは……』


自身と、最強の戦士と謳われている近衛騎士と二人きり。この皇宮(魔窟)で生き抜いてきたという、下らぬ矜持ゆえか……。


『だが、その矜持こそがお前の首を絞め、短い栄光を断つのだ!』


そう。この場に集まっている殆どの者達は、これから行われる粛清劇の共演者であるのだから。


仄暗い愉悦が胸を満たす。この後すぐに訪れるであろうセオドア(異母弟)の最期を思うと、歪んだ笑みが抑えられない。


『……案外。奴もそれを察しているからこそ、その矜持を守るべく、敢えて味方を作らず自滅する道を選んだのかもしれないな……』


そもそも、今まであいつが生き延びてこられたのは、一貫して「帝位にはまるで興味がない」という態度を崩していなかったからだ。


だからこそ、帝位継承権一位となった瞬間から、奴は明確な『敵』として、自分を含めた全方位から、今迄とは比較にならぬ程の敵意と殺意を向けられているのだ。競争相手(ライバル)である俺の提案に全ての者達が賛同する程に。


……当然だろう。母親は敵国の平民であり、尊ぶべき血は半分しか持っていない。その上、純血種の証たる黒髪黒目でもない。


なにもかもが自分達よりも劣る半端者。そんな奴が、この偉大なる帝国の継承権一位になるなど、本来であれば許される筈がないのだ。


ここにいる者達は皆、表面上は殊勝な態度を取っている。だが、彼等自身から発せられる憎悪にも似た悪意は、目に見えずとも肌にピリピリと伝わるほどに顕著で、神聖な英霊祭が執り行われる会場の雰囲気としては、有り得ない程に殺伐としたものとなっていた。


特に第一皇子側(こちら)の陣営では、皇后が眉を顰め、イライラとした様子を隠そうともせず、手にした扇子で口元を隠し、ブツブツと小声で何かを呟いている。


……聞こえずとも、何を言っているかは想像がつく。恐らくは自分の夫たる皇帝への恨み節。……それと、自分(息子)の不出来を詰る言葉を吐いているに違いない。


思わず眉根が寄り、舌打ちしそうになるのを無理矢理押しとどめる。


『馬鹿馬鹿しい。この女がこうなのは、いつもの事ではないか!』


皇族の女達はすべからくこの母親と同じで、自分の子供を道具としてしか思っていない。それかマルスやシリルの母親のように、自分の世界に閉じこもり、子に対し何の関心も示さないかのどちらかで……。


『――ッ!?』


唐突に、頭の中である光景が甦る。


自分が十五歳になった時に行われた、後宮での茶会。皇后である母や多くの側室達が、己の息子や侍従達を伴い、豪奢なドレスや装飾品に身を包み、皇帝たる父の訪れを待っていた。


『まったく……。お前の異母弟達は幼いながらも才覚を発揮しているというのに、お前はどうしてこう愚鈍なのかしら』


皇帝に顧みられない鬱憤を晴らすように、母は事あるごとに第二皇子(マルス)第四皇子(シリル)と自分の息子を比較し、こき下ろしていた。


屈辱的な嫌味を歯を食いしばって耐えながら、思わず意識を逸らすように他の女達のテーブルを眺める。


自分と比較されているマルスと共にいるのは、乳母や侍従長のみ。そして、シリルはというと、母親と同席してはいるものの、その母親に、まるでいない者のように扱われていた。


他の側室達も似たようなもので、どの女も自身の子供に関心がない。


その事を確認し、僅かな安堵感と昏い悦びを覚えていたその時。ふと、一番日当たりが悪いテーブルにポツンと座る女の姿が目に入った。


『あれは……。数年前に父上の妾になった女……だよな?』


確かアルバ王国から売りとばされた平民で、貴族でもないのに膨大な魔力を有しているからと、父である皇帝に献上され、すぐに第三皇子を産んだ……と聞いた事があった。

敵国とされるアルバ王国の……しかも平民出身とあって、側室にもなれず、その名ばかりの皇子と共に、古びた小さな離宮の中でひっそり暮らしているとも。


そんな女が、何故ここに呼ばれたのか……。


よく見てみれば、自分の席や他のテーブルに置かれた豪華な菓子や料理の数々とは違い、その女の前にはおざなりに数種の焼き菓子とお茶が置かれているだけで、専属の給仕も付けられてはいなかった。


いるのはただ一人。護衛と思しき若い騎士のみ。……成る程。つまりあの女も、俺の母親の鬱憤を晴らす為の贄として呼び出されたという訳か……。


同じ女に虐げられている同類としての憐憫。そして僅かばかりの興味が湧き、そのまま女を観察した。


装飾品が一つもない質素なドレスを身に纏った小柄な身体。皇帝に献上されるだけあり、それなりに整った容貌ではあるものの、美しいというよりも愛らしさの方が優った若々しい容姿は、とても子供がいるようには見えない。

そして、緩く結い上げられた、ウェーブがかった髪は薄茶色。大きな瞳は紫水晶のようで、帝国における高貴な色を何一つ持っていなかった。


だが、空気のように扱われ、時折戯れのように意地の悪い視線を向けられ、陰口を叩かれているにも係わらず、その女の纏う空気や表情は常に穏やかで、自身の境遇を憂いるような様子はどこにも見受けられなかった。


ともすれば凡庸とも言える女であるのに、どこか異質で、捉えどころがなく……何故か目を離す事が出来ない。不思議な雰囲気を持つ女。


そんな思いで、いつの間にか女の姿に見入っていたその時、『母様!』と、元気のいい声が聞こえてきた。


声のした方へと視線を向けると、黒髪に紫暗色の瞳をもった七歳かそこらの年頃の少年が、両手にお菓子を抱えて女の方へと走っていく姿が見えた。そんな少年を目にした女が驚いた様な表情になる。


『セオドア、どうしたの?』


セオドア……?ひょっとしてアレが第三皇子?俺の……異母弟なのか……?


『母様、はい!美味しそうなお菓子を持ってきたから、一緒に食べよう!』


少年が差し出したのは、小さなカップケーキ。ひょっとしたら、自分達のテーブルの貧相な菓子を見て、わざわざ厨房から持ってきたのかもしれない。


『まあ、流石は卑しい女から産まれた子。まるで貧民ね』


母が口元を歪め、嘲笑うようにそう口にすると、他の者達もクスクスと笑いながら蔑むような視線を親子へと向ける。


確かに、半分とは言え高貴な血を継ぐ者としては有り得ない行為だ。きっとこの後、「恥をかかされた」と怒った母親に、烈火のごとく責められるに違いない。そう確信しながら、異母弟達を観察する。


――だが、俺の予想は大きく裏切られた。


『ふふ。有難う、セオドア。でも私は、用意されたお菓子だけでお腹一杯だから、それは貴方が食べなさい』


女はそう言うと、駆け寄ってきた異母弟を笑顔で優しく抱き締め、頬にキスをする。異母弟もそのまま母親の膝の上に乗り、甘えるように抱き着いた。傍に控えていた護衛騎士も、そんな二人のやり取りを微笑まし気に見つめている。


――……な……んだ……?あんな親子のやり取りなんて……俺は知らない。


その非常識とも言える光景は、まるで別の世界のようで……。いつの間にか場は静まり返り、誰もがあの親子の言動を注視していた。自分同様、マルスもシリルも異母弟達とのやり取りに釘付けになっているのが分かる。


『皇帝陛下の御成りです』


侍従長の言葉に、制止していたかのような静まり返っていた場の空気が解け、ざわめきがあちらこちらから上がる。そして言葉の通り、皇帝たる父が側近達を引き連れ、こちらにやってくるのが見えた。


深淵をそのまま体現しているかのような、漆黒の髪と瞳。『黒き氷の帝王』とも呼ばれる、怜悧な美貌。威風堂々としたその姿は、見るもの全てが頭を垂れたくなるような威厳が備わっていた。まさに、生まれながらの帝王だ。


母共々、父に対して頭を垂れる。……が、父は皇后である筈の母と自分を一瞥もする事なく、そのまま通り過ぎた。


母がギリッと歯を食いしばり、手にした扇を軋ませる音が聞こえてくる。


父は他の側室達に対しても、母同様視線を向ける事も声をかける事もなく、そのまま真っすぐ会場の端へ……第三皇子である異母弟とその母親である、あの女の元へと歩いていった。


椅子に腰かけ、異母弟を膝の上で抱き締めた状態で、女が父を見上げて微笑む姿が目に映った。……あの時、そんな女に対し、父は……どんな顔をしていた……?


「――ッ!!」


突如として空気が変わり、思考が強制的に現実へと戻される。


見れば、皇帝が側近達と……セオドアを引き連れ、こちらに向かい歩いてくる。その既視感に、知らず顔が歪んだ。


セオドアの言っていた『因果』が巡っております。


観覧、ブクマ、良いねボタン、感想、そして誤字報告有難う御座いました!

次回更新も頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◇書籍1巻表紙です◇
i697676

◇書籍2巻表紙です◇
i707529

◇書籍3巻表紙です
i775851

◇書籍4巻表紙です
i806366

◇書籍5巻表紙です
i835027

◇書籍6巻表紙です
i890730

◇書籍7巻表紙です
i921558

◇書籍8巻表紙です
i979601

◇書籍9巻表紙です
i1009541

― 新着の感想 ―
あらま~、第一皇子、セオドアへの一番のやっかみ要素はセオドアがお母さんに愛情貰ってたからなのでは? 帝国の皇族のほとんどは愛情欠乏症に陥ってそうですね(^_^;) まぁこんなに捻くれた子ばっかだから色…
やっぱり、こういうもの(政治的なドロドロ)は苦手ですねぇ..... なんかもう何をいっているのか....さっぱりで.....( *゜A゜) もう誰が第何王子なのかが、わからないんですよねぇ(*´・∀…
周りが全部セオドアの敵なら安否を心配することなく暴れられますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ