聖女の芽【セレスティアside】
※スワルチ王国の『第一王妃』『第二王妃』を、それぞれ『王妃』『第一側妃』に変更しました。
ご指摘くださった方、本当に有難う御座いました!
『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』7巻好評発売中です!
今回はバッシュ公爵領でエレノア無双が繰り広げられておりますv
各特典SSも、どれも気合を入れて書きましたので、興味のある方は是非ご覧になってくださいね!
「ほう、成程。して、その『聖女』とやらは、一体どこに居るのだ?」
一段高い場所から、透き通るように美しい大精霊が微笑を浮かべ、こちらを見下ろしながら、信じられない言葉を放った。
――聖女とやらはどこに居る?……それって……!?
一瞬呆然とした後、胸の奥から湧き上がってくる怒りのままに、私は声を発した。
「聖女はどこかだなどと……!あ、貴女は私が聖女ではないと、そう仰りたいのですか!?」
憤る気持ちを込め、大精霊を睨み付ける。けれども彼女は微笑みを崩す事無く、ゆるりと首を傾げる。
その際、白金のような髪がサラリと流れ落ちた。その煌めきが、まるで大精霊の儚げな美貌を彩る宝石のようで……。その美しさに、一瞬、否が応でも目が釘付けになってしまった。
「ふむ。……まあ、そういう事になるかのう?」
肯定の言葉を聞いた瞬間、あまりの怒りに頭の中だけでなく、全身が燃えるように熱くなった。
「――ッ!!……わ、私は、神殿が正式に認めた『聖女』です!大精霊ともあろうお方が、聖女である私に対し、そのような侮辱を……!」
「言い方が悪かったようだの。私から見たそなたは、『聖女』ではなく、『聖女の芽』を持つ者だ」
「……は!?」
――『聖女の芽』……?それって一体……?
「ほう。そなた、知らぬのか?……まあ、さもありなん。その事実を隠し、本来そうあるべきでない者を『聖女』に祭り上げるような、お粗末で欲深い神官共しかおらぬ小国なれば、それも納得じゃ」
私のやや後方で、床に頭を擦り付けるように頭を垂れていた大神官や神官達の身体が跳ねる。
大精霊の侮辱に等しい言葉に対し、憤っているのか、それとも不興を買ったと怯えているのか……。その身体は小刻みに震えていた。
「ならば、女神様の僕として、私がそなたに教えてやろう。『聖女の芽』を持つ者とは、『光』の魔力を持つ者全般を指し示す言葉での。本来であれば、その段階で『聖女』の名を語る事は許されぬのだ」
「――え!?」
どうして!?『光』の魔力は女神様から与えられた祝福とされているのだから、それを持っていると分かった時点で『聖女』なのではないの!?
「のう?そなた今まで、『聖女』として『何』をした?」
「え!?」
――何をしたか……って、どういう意味なの?
「わ、私は……。沢山の人達の病や傷を癒しました!!」
「ほう?して、癒した相手はどのような者達だ?」
「そ、それは……。お父様や、貴族達……」
「身分が高い者達ばかりという事かの?」
「ち、違います!!彼らが紹介してきた中には、平民の商人達だっていたわ!!」
まるで責められているように感じ、否定の言葉を口にする。そんな私に、大精霊は容赦なく言葉を畳みかけた。
「貴賎の差なく、流行病に喘ぐ者や、自然災害により被災した多くの無辜の民達をその手で救ったか?消えゆく命をこの世に繋ぎ止める為、魔物の大量発生の現場に己の命を顧みず駆け付けたか?」
――……え?この大精霊、いったい何を言っているの!?
「そ、そのような……!わ、私は一国の王女です!そのような場に行ける訳がないではありませんか!!」
「出来ぬからこそ、そなたは『聖女』ではないのだ。よいか、たとえ『光』の魔力があろうとも、磨かれぬ原石など、ただの石ころ同然。安全な場所にて、選ばれた者にのみ癒しの力を与えたとて、それは一介の治癒師となんら変わらぬ」
「――ッ!!」
「いざという時、己の身を犠牲にしてでも他者を救う事の出来る高潔な魂を持つ者こそが、『聖女』と呼ばれ資格を有するのだ。因みに、先程私が言った事は全て、この国の国母たるアリアが行ってきたものだ。先程の癒しの力を見たであろう?あれこそが、『大聖女』と呼ばれる者の御業じゃ」
「先程の……って……」
あの大神官の傷を一瞬で癒したあの力の事?
あの時、余計な手出しをしてしまったと詫びられたけど、あんな大怪我を一瞬で癒す事なんて、普通は出来ない。『聖女』である私が全力で祈りを捧げても、完全に治せるかどうか……。
「……あ……!」
『大聖女』アリア。……そうだわ。彼女はただの『聖女』ではなかった。
この西大陸における大国、アルバ王国の『公妃』であり、『大聖女』の名を与えられた。この世で最も高貴とされる女性。
そんな女性が、よりによって平民の命を救う為に、病や魔獣の蔓延る危険地帯に、自ら進んで向かったというの……!?それが出来なければ、『聖女』にはなれないの!?
「そもそも、私が今迄出逢ってきた『聖女』は皆、優しく清らかな者達ばかりであった。対してそなたはどうだ?思い込みが激しく、信じたいものしか信じない。『聖女』という特別な名を使い、平気で相手を傷付け、貶める。己を見返り改心せねば、いずれ遠からず、その『芽』も日の目を見る事無く萎れてしまうであろうよ」
謂れなき大精霊からの侮辱に、一瞬怒りで意識が遠のきかけた。
けれど同時に、まるで託宣のような彼女の言葉に、激しい焦燥感を覚えてしまう。
――どういう……事!?このままだと私が『聖女』ではなくなると、そう言いたいの!?
いえ、この目の前の大精霊は、そもそも私の事を『聖女』と認めていなかった。何故!?私は女神様の御使いとして、この国を救う為にやって来たというのに……!!
「それにのう……。敬意をもって相対してくれる相手に対し、挨拶ぐらいは出来るようにならんとな。『聖女』以前に、人としての常識じゃ。まあ、人ではない私がそう諭すのもおかしなものではあるがな」
クスクス……と、あちらこちらで笑い声が上がる。声を潜めているのが分かる小さなものだけど、小国とはいえ、直系の王族である私に対し、なんて無礼な……!
キッと、声のした方向に目をやる。すると、バッシュ公爵令嬢を守るように肩を抱き締めている、筆頭婚約者の伯爵令息と目が合った。
「――ッ!!」
燃えるような深紅の瞳が、冷ややかに私を射貫くように見つめている。まるで心から凍えさせるような冷たい眼差しにゾッとし、慌てて視線を逸らす。
すると、先程対峙したヴァンドーム公爵令息、そして王太子殿下を含めた王子達が、やはり冷ややかな眼差しで私を見つめているのに気が付いた。
どうして?私には人を癒す力がある。国の人達は皆、私を認め褒め称えてくれた。なのに……なんでなの!?
「そもそも、バッシュ公爵令嬢を『邪悪』と断じた。それこそが、そなたが『聖女』ではない事を物語っておるのだ」
――バッシュ公爵令嬢……!?
「な……っ!何故そのような事だけで決めつけるのです!?わ、私は確かに彼女から異質な力を感じ……」
「……黙れ」
「――ッ!!」
突如として、大精霊の身体から凄まじいまでの覇気が立ち上がった。表情からも一切の温かみが消え、冴え冴えとした鋭利なものへと変わる。
「バッシュ公爵令嬢はな、貴様と違い、己が事よりもまず他人を思いやれる娘じゃ。それを邪悪だと?片腹痛いわ!しかもよりによって、将来の義むす……いや、そのような娘を我が仇敵である帝国などに売ろうとしたのだ。まさに万死に値する!これ以上戯言をほざくのならば国王の沙汰を待つまでもなく、貴様らも貴様らの故郷も我が力により、地獄の底に叩き落とすぞ!?」
ビリビリと、凄まじい魔力の波動が私達に叩きつけられる。その圧に呼吸すら苦しくなる中、「奥方様!どうか落ち着いてください!!」と、私達を庇うように前に立ったのは……。バッシュ公爵令嬢だった。
『バッシュ……公爵令嬢……!』
湧き上がってくる様々な感情に、ギリ……と、奥歯を噛み締める。
ハイエッタ侯爵令嬢の言っていたとおり、ある程度美しくはあるけれども、私に比べ、なにもかも見劣りする平凡な女。
そんな女が、王家直系の方々をも虜にするなど、なんらかの『力』を使わなければ有り得ない事だ。それに実際のところ、本当に彼女からはなにか得体のしれない『力』を感じたのだから。
『聖女』である私が異質な力を感じたという事は、確実にそれは邪悪なものに決まっている。でも、この場に居る誰もが、私の言う事を信じない。そればかりか、私を『聖女』ではないと責め立てる。
ふと、ある推測が脳裏をよぎる。
『彼女の持つ、その得体のしれない「力」が……目の前の大精霊をも操っているとしたら……?』
そうよ……。そうだわ!でなければこんな状況、おかしいもの!!『聖女』の使命は、邪悪なる者を封じ、平和を守る事。王族だけではなく、大精霊までをも支配するような者を野放しにしたら、大変な事になってしまう。
――私が……なんとかしなくては……!!
『聖女様、ひょっとしたら、「コレ」が役に立つ時がくるかもしれません。使い方はお教え致しますゆえ、どうか肌身離さず、お守りとしてお持ちくださいませ』
――そう決意した瞬間、脳裏に誰かの声が蘇ってくる。
そうだ。この国に来る前。そう言いながら私に『お守り』を渡してくれた人がいた。……あれは……誰だったのだろうか?
『考えるのは後よ!今は私に出来る事をしなくては!!』
無防備に、私の目の前で背を向けるバッシュ公爵令嬢の姿を見つめながら、肌身離さず持つようにと言われ、胸元に飾られた青い魔石をゆっくりと握りしめた。
奥方様!ちょっとぶっちゃけそうになってましたね!ファイト!
そして、クスクス笑っていたのはエレノア達の後ろにいたクラスメイト三人娘だったりします(^^)
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次回更新も頑張ります!




