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死んだつもりで、地獄を進め  作者: 叶遼太郎
復讐の火々が灯した過去は、今に至る道を照らして
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分散作戦開始

 方針が決まったところで、すぐに私たちは行動に移した。最も急がなければならないのは私が担当するプルウィクス方面に行く部隊だ。とはいっても操縦士であるゲオーロと私だけだが。

 魔導飛行機ラルスの最終チェックをプラエとゲオーロが行っている。その間に今回バラバラに行動する団員たちに声をかける。

「隔絶しているからこそ、通信機での遠距離通話と連携が私たちの強みです。連絡は密で、異変を感じたら躊躇なく撤退を」

「わかってるさ。逃げるのは一番得意だ」

 テーバが笑う。

「そっちこそ気をつけろよ。誰が敵で誰が味方かわからないところに行くんだからな」

「ええ。ですが、無理はしなくてもいい所でもあります。危機を察したら一目散に逃げますよ。私たちより、むしろここテンプス側の方が大変だと思います。テーバさんたちには、少々無茶をしていただく事になりそうですし」

「お前の作戦で無茶じゃなかったことなんかねえよ」

 もう慣れちまったわ、とうそぶく。

「団長、どうかお気をつけて」

「ムト君もね。他の部隊との連絡、連携の中心はあなたたちになる。万が一戦闘が始まってしまったら、私の帰りを待たず、あなたの判断で動いて、皆を導いて。それができる実力を、あなたたちは持っている。頼りにしてるから」

「任せてください。必ず期待に応えます」

 頼もしい返事が返ってくる。

「ラルスの準備が終わったわ」

 整備で汚れた手をタオルで拭き取りながら、プラエがこちらに近づいてきた。

「出来る限りの事はしたけど、それでも五百キロ以上の長距離、長時間の稼働は試運転ですら踏み込んだことのない未知の領域よ。連続飛行時間は二時間に収めなさい。二時間経ったら最低三十分はエンジンを休ませて。いいわね?」

「わかりました。プラエさんたちも気を付けてくださいね」

「ほんと心配性ね。わかってる。情報を得るだけ得たらさっさと逃げるから安心して」

 笑って私の頭を撫でた。

「団長、準備できました!」

 ゲオーロがラルスの運転席から呼んだ。すぐ行く、と応え、団員たちに向き直る。

「では、先行します。皆さん、ご武運を。無事再開して、祝杯といきましょう!」

「「「応!」」」

 団員たちの声に背を押されながら、私を乗せたラルスがテンプス平原から飛び立つ。


 天候にも恵まれて、ラルスは順調に進路を北東に向けて飛んでいく。空に上がってすぐ、前方斜め右側、テンプス要塞から見て川を超えた東の方向に、黒い煙が立ち上っているのが見えた。山火事だろうか。通信がまだ通じる距離だったので念のため報告しておく。そのすぐ後に通信の届かない距離に入った。

 ラルスの平均速度が約百五十キロ。プルウィクスまでは約六百キロなので、一回の休憩を入れて単純計算で四時間三十分で到着予定だ。もちろん予定通りにいかない。二時間以内に収めろというプラエの忠告を守り、一時間半を超えたら着陸場所を探し、休んではまた飛ぶを繰り返す。人目に付かず、さりとて危険の少なそうな場所を選びながらジグザグに飛べば、直線距離よりも長い距離を飛び、その分時間もかかる。何より、操縦士ゲオーロの集中力と、翼にしがみついている私の体力が連続飛行に全く向かない。慎重に、確実に、しかし可能な限り急いでプルウィクスに向かう。


「団長、大丈夫ですか?」

 ゲオーロが心配そうに声をかけてきた。

「顔、真っ青ですけど」

「生きてるから大丈夫よ」

 歯の根の合わない口で何とか返事をする。三十分ずつ休憩を入れていたとはいえ、時間にして六時間、時に千メートルの高さを百五十キロで飛ぶラルスの翼の上は体感温度が氷点下を軽く下回っていた。かなり着込み、懐に湯たんぽ代わりの皮袋を入れていても、死ぬほど寒かった。無事到着出来て何よりだ。

 プルウィクス近郊にラルスを隠した私たちは、警戒しながら城門に近づく。私たちがテンプス平原を飛び立ったのは大体午前八時ごろ。到着したのは夕方近くで、山間部にあるプルウィクス周囲は影が長く伸び、夜の気配が近づいていた。

「特に厳戒態勢、というわけではなさそうね」

「主戦場がテンプスだから、自分のところは警戒しなくていい、ってことでしょうか?」

 城門前の門番も、周囲を警戒しているものの、時々あくびをかみ殺している。正攻法で、正面からでも問題なさそうだ。城門にゆっくり近づく。隠れるつもりもないのでたまたま訪れた旅人を装う。

「止まれ」

 門番は鋭い声でこちらを引き留めるが、持っている槍を突き付けることはなかった。

「何者だ」

「旅の傭兵です。プルウィクスには依頼を探しに来ました」

「そうか。だが、今はあまり大きい仕事はないと思うぞ。もし大きい仕事が欲しいなら、南のテンプルムに行くと良い。知っているだろう? 十三国同盟は旧大国同盟との戦いに備えている。あっちは戦力がいくらあっても良いそうだ」

「もちろん、その話は聞いています。ですが、見ての通り私たちは二人しかいない小さな団です。そんな大きな戦いに参加できるだけの実力がありません。ですが、そういう戦いに参加する大きな団が不在となれば、取りこぼされた小さな依頼があるのではないかと色々回っているところなんです」

「ああ、なるほど、そういうわけか。そういうことなら通ってよし。ただ、先ほども言ったがさほど依頼は無いと思うぞ」

「構いません。プルウィクスには昔お世話になった方に挨拶をするためでもありますので」

「世話になった方?」

「ファルサ将軍と、その部下のサルース様です」

 今回の異変の渦中にある二人の名前を出し、門番の反応を見る。怪しまれたらさっさと退散するつもりでいた。

 門番は二人の名前を聞いて、何とも言えない、苦い顔をした。

「お二人に会うことはできんぞ」

「え、それは、どういう事でしょうか?」

 何も知らない、という顔をして尋ねる。

「サルース様は、クオード王子と共にテンプルムに出発されたから、プルウィクスにはいらっしゃらない。ファルサ将軍は、謀反の疑いで投獄された」

「馬鹿な。あの方が謀反など考えられません」

「俺だってそう思うし、この国の兵士は皆同じ気持ちだ。あの人が謀反などあり得ない。だが、クオード王子が確かな情報を得たらしい。王族の決定に、俺たちにはどうすることもできない」

 そんな、とショックを受けているふりをしつつ、言葉を続ける。

「その、どうにか面会や、差し入れなどは出来ないのでしょうか。せめて一言お礼を伝えたいのですが」

「無理に決まっているだろう。気持ちはわかるが、諦めろ」

 この調子では、城の方に向かって同じ訴えをしても門前払いだろうな。では、切り札のテオロクルム王の手紙を出すか? それとも忍び込むか?

「どうしてもって言うなら、将軍のお宅を尋ねたらどうだ」

 ファルサに会う方法を模索していた私に、別の門番が門の内側から出てきて声をかけてきた。

「お宅、ですか」

「ああ。そちらには奥様がいらっしゃるはずだ。奥様経由でなら、伝言していただけるんじゃねえか?」

「奥様なぁ。本当に気丈な方だよ。将軍が投獄されて、それだけでもショックを受けているだろうに、ご自身もほぼ軟禁状態で監視下に置かれている。そんな理不尽な状況で嘆くことも逆らうこともなく、大人しく受け入れている。どころか監視に来ている兵士を気遣い、夫である将軍の無実を信じてらっしゃる」

「泣いてるところなんか見たことないもんな。肚の座り方が尋常じゃない。普通、男でもまいるぜ?」

 門番たちが話し込む。私がその様子を眺めているのに気づいて、門番は咳払いして「そんなわけで」と言った。

「将軍に言伝があるなら、奥様に頼んでみると良い。監視している連中からも、奥様が何かしでかすようなそぶりはねえって話をきいた。連中も奥様には同情してる。監視はつくだろうが、会って話すくらいは許可が出るだろ。行くだけ行ってみな」

「ありがとうございます。そうさせていただきます」

 礼を言い、街の中へ入る。彼らの助言に従い、ファルサ将軍宅へ向かう。

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