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死んだつもりで、地獄を進め  作者: 叶遼太郎
復讐の火々が灯した過去は、今に至る道を照らして
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やることが多すぎる

 またか。またなのか。

 私は思わず頭を抱えた。天を仰ぎたい気分でもあった。ロックでもないのにハードなヘッドバンキングしている気分だ。

「言いたくないけど、プルウィクスは陰謀多すぎじゃない?」

 もしくは他の国に比べて王族の命が軽すぎる。いや、表に出ないだけで、どこの国の上流社会も権謀術数が張り巡らされていて同じようなことが繰り広げられていて、たまたまプルウィクスの情報が漏れているだけなのか。

 手紙の中身を改めて確認する。


 第二王子クオードがコルサナティオを排除しようとしている。

 しかし、人気が高く、国内外に多くの支持者がいるコルサナティオを、理由なく左遷することはできない。

 そこでクオードは今回の戦争に目をつけた。既に十三国同盟はアーダマス・ヒュッドラルギュルム同盟と戦う方向で動いている。どれほどコルサナティオが反対しようと、この流れを止めることはできない。クオードは彼女をプルウィクス軍の総大将に据えて同盟軍に参戦させ、戦闘中の事故死を装い、彼女の殺害を計画していた。

 クオードは事前段階としてに、コルサナティオが最も信頼を寄せ、計画に気づき妨害する可能性のあるファルサ将軍を謀反の疑いで投獄し、排除することに成功している。

 

「まさか、そんな、姫様だけでなく、将軍まで」

 コンウィクの顔が真っ青になっている。

「将軍が謀反だなんて、あり得ない! あの人ほどプルウィクスのために粉骨砕身してきた方をあたしゃ知らない。そんな人を捕まえるなんて! あのクソ王子が!」

 怒りに任せてプロウィが力任せに盃を机に叩きつける。中の酒がこぼれ、テーブルのしみになった。

「イーナ、ファルサ将軍が投獄されたとあるけど、なら、代わりにプルウィクスの将軍職に就いたのは誰かわかる?」

 おそらく、そいつがコルサナティオ暗殺に絡んでくるはずだ。だが、彼女から思いもよらない人物の名前が出てきた。

「それが、新しく将軍職に就いたのはサルース殿です」

「なんですって?」

 一瞬聞き間違いかと思ったが、そうではなかった。

「サルースって、あのサルース殿?」

「はい。私たちと共に戦った、ファルサ将軍の懐刀と称されるあの方です」

 あり得ない。最初に私が思ったのはそれだ。

 サルースこそ、コルサナティオの意志を汲み、ファルサと共に彼女を支えていたのではないのか。彼女を王位に就かせる為に、他の王族抹殺したとすら考えていたのだが、違ったのか?

「何やってんだい、あの坊主は!」

 プロウィが更に怒りを爆発させた。

「将軍にあれだけ世話してもらった恩を忘れて、クオードなんぞに尻尾振ってさ!」

「落ち着けよプロウィ」

「これが落ち着いていられるかってんだい!」

 コンウィクが宥めるも、プロウィは盃を煽って口に酒を流し込んだ。

「あのサルースが、何の考えもなくクオード王子につくはずがないだろう」

「だけどさ! 忠義の将軍を投獄だよ? クオードが考え付くことじゃない。坊主が一枚かんでいるに決まっている。一体何のためにそこまでするってんだい?」

「そりゃ、わからないが・・・」

 そこでコンウィクがこちらを見た。そして、何か気づいた。

「アカリさん」

「え、何でしょうか?」

「依頼を一つ、頼まれてくれないか?」

 予感を通り越して、確信があった。このタイミングで彼が依頼することなど、決まっている。そして、おそらく私はそれを断ることができない。

「コルサナティオ王女を、姫様を助けてくれないか」

「・・・報酬は、何ですか?」

 この依頼は、どうせ私たちがテオロクルムから受けた依頼に絡みついてくる。ならばこちらから飛び込み、有益になるよう積極的に動く方が得策だ。

 何より時間がない。いつ戦端が開かれるかもわからないのだから。

「君たちが言っていた魔道具を俺たちが探し出し、調べておく。効果、発動方法、わかり次第すぐに報告する。それ以外でも、俺たちを協力者として、好き勝手使ってもらって構わない」

「頼むよ。この通り」

 プロウィも両手を合わせてこちらを見ている。

「それだけじゃ報酬が足りませんね」

「あんたねえ、この緊急時に!」

「何が足りない?」

 私に掴みかかろうとしたプロウィを制止し、コンウィクが言った。金銭の報酬は助け出したコルサナティオから、二人にも口添えしてもらうことは前提として、それ以外の、彼女たちだからこそ支払えるものと言えば。

「プラエさんが飲み干したという、お二人が全精力を注いで作ったお酒を、アスカロンの団員たちに振舞ってください」

 一瞬きょとんとした顔をして、二人はにやりと口を笑みの形にした。

「わかった。必ず、君たちの為に酒を作ろう」

「とっておきの逸品を作って、祝杯を上げようじゃないか」

 頷き、イーナや他の面々の顔を見回す。全員が頷いた。

「全員招集。ミーティングを行います」



「今回は、部隊を四つに分けます」

 全団員にプロウィ、コンウィクを加えてテーブルを囲む。本来であれば、全員で一つ一つの問題に向かいたいところだが、なんせ時間がない。分けるのが最適と判断した。

「まず一つは、プルウィクスに向かい、ファルサ将軍の安否やサルース殿、ひいてはプルウィクス軍の同行を探る隊、一つはコルサナティオ王女の居場所を探る隊、一つはここに残りプロウィさんたちと行動を共にする隊、最後が周辺調査をして臨機応変に対応する隊です」

「前の三つ、プルウィクスに行く隊と王女を探す隊、ここに残る隊はわかるけど、周辺調査って何すんだ?」

 テーバが疑問を呈した。

「はい。ではまずその隊について説明します。これは、ティゲルが言っていた話が元になっています」

「もしかして~、川の水位の件ですか~?」

 ティゲルの言葉に頷く。

「おそらくですが、これは人為的な力が働いていると考えています。この川は、乾季には歩いて通れるほど浅くなるそうです」

「ああ、なるほど。誰かが上流で水を堰き止めてる、ってんだな?」

「はい。普段歩けない場所が通れるようになる、軍事作戦において意表を突くにはもってこいの状況です。誰がこの状況を作っているか、それを探り、場合によっては妨害します。なのでこの隊はテーバさんにお願いしたいのです」

 猟師である彼は山の中を動くエキスパートだ。目も良く、罠も張れる。自分たちの姿を隠す魔道具メンダシゥを操ることもできるから、隠密行動も得意だ。またこの隊は、コルサナティオ王女を探す隊と合流したり、テンプス要塞に戻ってプロウィたちに協力したりと、状況に応じて臨機応変に対応する必要がある。様々な事態に柔軟に対処できる彼が最適だ。また、私の勘が正しければ、破壊工作が必要になってくる。同じく柔軟性が高く、様々な魔道具を器用に扱えるジュールに任せる。

「次に、コルサナティオ王女を探す隊ですが、これについてプロウィさんたちから話があります」

 彼女に話を振る。

「実は、この要塞にいるのは雇われた傭兵が多くて、各国の軍の大半は別の場所に布陣している」

「こんな立派な要塞があるのに?」

 ムトの疑問も尤もだ。私も不思議に感じた。何のために、これほど強固な要塞を作ったのか。ここで立て籠もるためだと考えるのが普通だが。

「ああ。十三国同盟軍は、要塞からさらに北に布陣し、柵やら壕を建設している。こんな立派な要塞ほったらかして、わざわざ野外で迎え撃つなんて訳が分からないが、そもそもお偉方の考えることなんてあたしたちにはよくわからないからねえ」

 訳が分からない。けれど、何らかの意図が必ずあるはず。川の水位と何か関係があるのだろうか。今はわからないが、これからの行動で集めた情報をもとに、全体図を考えるしかない。

「こちらの隊はムト君にお願いします。王女を探し、連絡を取り合えればなお良しです。同時に、参加している傭兵団たちから出来る限り情報を引き出してください」

「なるほど、リュンクス旅団やパンテーラも参戦していますもんね」

 また、彼らはばらける四つの部隊の丁度真ん中にいる。他の団との中継、時に指示を出す役割を担ってもらう必要があった。その経験があるのは彼とイーナだ。やることが多い大変な部隊だが、彼らなら出来るはずだ。

「プロウィさんたちと共に行動してもらうのは、プラエさんにお願いします」

「任せといて」

「件の魔道具の調査と、必要であれば破壊を。また、ここに入ってくるであろう情報の収集や、川の監視を頼みます。ただ、もしもの時はすぐにテオロクルム方面へ逃げてください」

「危なくなれば逃げるけど、ここが危なくなることなんてあるの? 主戦場はムトたちが向かう平原だし、もし敵が攻めてきても、この要塞ならそう簡単に落ちないと思うけど」

「それは、そうなんですが」

 これに関しては、完全に私の勘だ。彼女の言う通り、この中の方が安全には違いない。はずなのに、嫌な感じがぬぐえない。

「ああ、もしかして、非戦闘員が残るから? 心配性ねぇ」

「かも、しれません。なので、早めの判断を頼みます」

 念のため、ロガンに護衛を頼んでおく。隠密行動には不向きだが、彼の力は誰かを守ることに向いている気がする。

 そして、最後の一つ。

「プルウィクスは、私が向かいます。プルウィクス軍の動きとファルサ将軍の状況を確認。可能であれば彼と接触したいところですね。プルウィクスで何が起こっているのか知るには、中枢にいた彼に話を聞く必要があります」

 本当は、サルースにも会うべきだが、現時点では敵とも味方ともいえない微妙なところだ。ファルサに会ってからでも判断は遅くないはず。

 この部隊に必要なのはスピードだ。ここからプルウィクスまでは最短で二週間はかかる。しかし、それを一日に短縮する方法が私たちにはある。

 アドナを落とすときにも活躍した、試験型の飛行機ラルスだ。これなら山も川も森も関係なく超えていける。ただし、操縦席しか乗る場所がないため、他の人間は翼にしがみつくしかなく、当然大人数の搭乗は不可能。運転できるゲオーロと、まだ空に対する恐怖が少ない私が行くしかない。

「部隊分けが出来たところで、作戦の詳細を詰めていきましょう。その間、プラエさんたちには必要な魔道具の準備を」

「わかった。すぐに取りかかるわ」

「あたしたちも、何か手伝えるかい?」

 プロウィたちが申し出てくれた。猫の手も借りたいところだ。ありがたく申し出を受ける。

「助かります。プラエさんたちと一緒に魔道具の準備をお願いします」

「あいよ」

 パン、と柏手を打つ。

「それでは皆さん。よろしくお願いいたします」

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