幽霊の正体見たり枯れ尾花
お待たせしました!
そしてまた微妙に続きます(汗)
剣呑とした視線に晒されながらも不敵に笑う私に、衆目はより一層の警戒を深めた。
あからさまな敵意を向ける青年、炊き出しの椀を抱えたまま不安そうに瞳を揺らす母娘……。ハラハラと成り行きを見守る村長が板挟みに立って胃を痛めている。それでも立ち去る者はいない。その結果に満足して私は声をあげた。
「メルゲイツ医師、こちらによろしいですか?」
待ってましたと微笑んだメルゲイツが一抱え程の大きさの水瓶と一緒に壇上へ上がった。言わずもがな彼も隠密部隊の一人で、我が家の主治医だったりする。
(……ここまでくると、ダンデハイムの使用人全員が隠密なんじゃと疑いたくなってくるわね)
そんな益体も無い事を考えている間にゴトリと重量のある地響きがして我に返った。
「お嬢様、当たりですよ」
向かい合った私にメルゲイツが柔らかい表情のままで教えてくれた答えに神妙に頷く。それから改めて村人たちの方へ向き直った。
「この水瓶は現在天幕で療養中の男性の家から持ち出したものです。そしてこれこそが、呪いの正体」
さらりと告げられた言葉に各々の反応が飛び交う。息を呑んだり、逆に呆れて嘆息したり、無言のまま眉間に深い谷を刻んだり……。私は一瞬沸き立った喧騒が落ち着くのをじっと待った。
この村には井戸が無い。
というのも、運べる距離に飲用できる清浄な水をたっぷりと湛えた川があるからであり、だからこそこの立地に村が出来ている。
村に住む人々は川から水を汲み、各家庭に置いた水瓶にそれを溜めて生活していた。
「……村長さん、近くに来て頂けますか?」
ざわめきが少し引いた頃合いをみて私は村長を呼んだ。「ヒッ」と小さい悲鳴が聞こえた気がしたけれど黙殺。恐々進み出た村長を水瓶の傍まで近づけた。
「これを見てどう思いますか?」
「どう……? そう言われてもなあ、普通の汲み置いた水だとしか。強いて言えばちょっと古ぇかなと思うくらいで……」
「そうなんです! そこなんですよっ!」
不安そうに視線を忙しなく動かしながら呟いた村長に強く同意してみせると、村長も周囲もポカンと間の抜けた空気が広がった。そこにすかさずスッと進み出たメルゲイツが軽く咳払いをする事で再び衆目を掻っ攫う。そのまま安心感を与える微笑を村長に向けた。
「ではここからは私が。村長さんにお尋ねします。……まず、この水瓶の持ち主はあの天幕の中で療養中の男性ですが、彼は独身で現在恋人もいない。間違いないですか?」
「あ、ああ……。少なくとも浮いた話は知らねえなぁ」
私はメルゲイツと頷きあう。それが何だと視線で問うてきた村長にそのまま質問を重ねた。
「次に村長、貴方の家には家族の他に下働きがいますね?」
「ああ……。大きい家じゃあねぇから二人しかいねえが。確かに雇っている」
「ありがとうございます。最後に。……これは私も診察しましたから何となく判った事なのですが、呪いと呼ばれる症状に倒れた殆どは独り身の方ではありませんか?」
「え……? ……はっ!? ああ、確かに……。……言われてみればそうかも知れねぇ」
今初めて気付いたと思案顔で何度も頷く村長。頷くたびに思い当たる節が増えているのだろう。うんうんと唸りながら回数を増す毎に納得の色を深めていた。
「ここにいる皆さんにもお伺いします。水汲み場……川原でガオエルを見かけた事のある人はどのくらいいるのでしょう?」
すると、目撃証言と共に半数以上の村人が獣の姿を捉えていた。見通しが良いので気付きやすいのと、ガオエルが現れるのは対岸ということでやり過ごす方法は多く、先の村のように襲われたことはないという。
そして村人たちの見解として一致しているのは、平時であれば山奥に分け入らない限りほとんど見かけることがない獣であり、今年の夏半ば以降から頻繁に川縁で見かけるようになったということ。
方々で上がったそんな声を纏め終えてメルゲイツが深く頷いた。
「結局、どういうことなんでさ?」
要領を得ないやり取りに業を煮やした村長が結論を急いて前のめりになり、そんな彼の前に私たちが差し出したのは言葉ではなく顕微鏡。――といっても私が想像するものとは違い、その原型というような原始的な器具なのだが。
目を白黒させる村長に構わず、水瓶から取り出した水を顕微鏡に手際よくセットして伸び出た筒を覗きこむ様に指示する。意味も解らず指示に従う村長は望まれた行動をとった後「なんじゃこりゃ!」と素っ頓狂な声をあげた。
「その問いに答える前に私からも一つだけ質問させて下さい。――今隔離されている先の質問に該当する方々は、ものぐさな所があったり、夏の暑さにやられて憔悴気味ではありませんでしたか?」
顕微鏡から目を離した村長が私を見つめ、少しだけ考える素振りをした後静かに頷いた。私は瞳を閉じる。スッと短く呼吸を入れ替えて目を開けた。
「順番にいきましょう。まず、永く伝えられてきた呪いの正体ですが、ただの腹下しです」
が鳴らない様に、でも皆に聞こえるように。しっかりと落ちつけて放たれた私の言葉に村人たちが戸惑ったのが分かった。その揺らぎが反発と変わって騒ぎ出す前に次のセリフを用意する。
「村長さんは言いましたね? この水が少し古い気がすると。」
「だからってそれだけで……」
水は留まり続ければ腐る。
そんな当たり前の事を知らないとでも思うのか? 言外に込められた非難に苦笑する。腐った水に気付かないなんてないだろうと。
「勿論傷んだお水を飲んだからなんて簡単な話じゃありません。ただ大きく括るとそうだとも言える」
「お嬢様、悪いがワシにはあんた様の言ってる事がわからねぇ……」
「ですから先程貴方に確認して貰ったのです」
「そうだ! あのちっこくて細くてウネウネした糸くずみたいのは何だい?」
「蟲です。」
「蟲ぃっ!?」
今度こそ広場が沸いた。……悪い意味で。不気味、嫌悪といった悪感情から来る反応が一時に重なったからだ。
「この蟲は普通では見えません。小さすぎるから。でも村長に見てもらったようにこうやって生きてここにいるんです」
私が言いながら水瓶を指させば、村長の顔があからさまに嫌悪で歪んだ。
「じゃあ、この蟲が腹ん中で悪さして皆苦しんでるってぇのかい?」
吐き捨てる様に絞り出された悪態に私は淡々と首肯する。どこかで誰かの息が引き攣る音がした。
「……この蟲は普段野生の獣の体毛にくっついているものなんです」
高ぶってきた感情のまま無意識に私に凄み寄ってきた村長から護る様にして、自然に間に入り込んできたメルゲイツが説明を引き継いだ。そのまま穏やかに言葉を継ぎ足していく。
「恐らくガオエルの体毛に寄生していたのでしょう。そのガオエルが夏の異常気象の影響で麓まで下りてきてしまった。そしてこの村の人々の生活圏にある水場で水浴びをしたり、魚を取ろうと川に入ったりしたのでしょう。その時水に落とされた蟲に気付かぬまま持ち帰ってしまった……」
「そして気付かぬまま体内に収めてしまったと?」
まだ納得いかない顔で村長が聞き返してきた。
先日友人が「777のキリ番踏んだ」と嬉しそうに報告してくれました。
そんな友人にリクエストはあるのかと聞いた所「更新してください」と真顔で言われ……
数話でこの章も終わる予定なので年内中せめてその位は更新頑張りたいと思います(…今年もあと少しですが、微苦笑)




