その背を追いかける ~彼の地では~
久々にブクマのカウンタがぎゅんっと上がって吃驚しました∑(@△@;)
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窓の外は轟々と音を立てて吹雪いていた。
辛うじて積雪はしていないようだが、私は生まれて初めてこんなに雪を見た。
安全な所にいるからだろうか。不謹慎かもしれないけど、この底から響く地響きにも似た振動に気が高ぶってしまう。爛々と窓に張りついて外を眺めていた。
「こぉらステラ、いつまでそうしとるつもりなん?」
すっかり馴染んでしまった軽薄な声に私の眉間にしわが寄る。
渋々振り仰ぐと、丸めた教材で肩を叩くハルマが呆れて溜息を吐きだした。
「さっきから手ぇ、止まってるみたいやけど? 今日の分、まだ終わってへんよ」
奥様のご実家のある地方独特のイントネーションで喋るこの少年はハルマ・イースン。クロムアーデル王国極東を預かる領主家の末子で、襟足だけ伸ばした紫紺の短髪に同色の猫みたいなアーモンドアイを持つイケメン。そう、見てる分には眼福なのだけど……。
私は今、縁あってこのイースン家に下宿させてもらっている。
というのも、ダンデハイム領北の田舎娘である私は――自分で言うのもおこがましいけど――村娘にしては利発な子どもだったから掴めた強運なんだと思う。
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地方で生きる者たちの暮らしはその土地を治める領主の差配が全て。
そして残念な事に私の生まれた村を管轄している領主さまは決して領民に優しいと言えない方だった。
私は貧しい家に生まれた。それでも家族と力を合わせて何とか日々を凌いでいたのだけど、ある日を境に食うや食わずやという所まで追い込まれ、生きる事もままならなくなった。
その時は理由なんか解らなかった。徐々に家族も村の仲間からも眼の光が消えて虚ろになっていき、とうとう蹲り気力も果て、斯くいう私も漠然と死を覚悟し始めた頃、救世の光が私たちを掬いあげてくれたのだ。
私たちを助けに来てくれたのはダンデハイムの総領主様だと教えてもらった。そうして知った。私たちが死にそうになっていたのは悪い領主様のせいだったんだって。だけど総領主様が悪い領主様を罰してくれて、新しく良い領主様に変えてくれたからもう大丈夫だよって。
そして私たちみたいに辛い日々を送っていた人々を救うべく、こうして食べ物を沢山運んできてくれたって聞いて衝撃が走った。
私もそうなりたいと思ったんだ。
寒いのもひもじいのも嫌。苦しいのも嫌。何より仲間たちが辛そうなのを見るのが一番嫌。
でも偉くなれば、お役人になれればこうやって私の手で皆を助ける事が出来る!
天啓にも近い感覚だった。
復興支援に来てくれた人達のお陰で随分元気になった私は、その人たちの手伝いを進んで買って出ては色々な質問をした。
そうして解ったのは私の願いを叶える為には『貴族学園』に入らなきゃ難しいということだった。
支援部隊の中でも面倒見の良いお兄さんが空いている隙間に簡単な読み書きを教えてくれたんだけど、あっという間に覚えてしまった私に「君なら頑張れば官吏になれるかもね」って笑ってくれて心が決まった。
私に能力があるのなら、きっと神様が手助けしてくれる。そしてその力は皆を護るために使うんだ。その為に私はどうにかして貴族学園に入学してみせる!って。
でもこの話をした時皆に笑われた。
向きになって何度も主張していたら疎まれるようになった。
「庶民は貴族になれないから無理だ」「女が賢しくある必要はない」「夢見ている暇があるなら働け」……
沢山の心無い言葉をぶつけられた。あんまりにも味方がいなかったから流石に挫けそうになっていた時に天使様に出逢ったのだ!
天使様に勇気づけられた私は一人村を出た。
もう決心は揺らがなかった。
願いを叶える。その為に行動する、少しでも前へ進む。あの日村を助けに来てくれた人達が言っていた新しい良い領主様なら私の話を真剣に聞いてくれると思って懸命に足を動かした。
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―――その結果、私は今此処にいる。
あれよあれよとイースン家で学ぶようになって数年。
その間ハルマは教育係としてずっと私の近くにいる。最初のころはとっても優しかったのに、最近では口うるさいばっかりだ。あんたは私の母親か!
「いくらオレがイケてるからって、そないに見つめられたら穴が開いてまうわ~」
にやにやしだした勘違い野郎に顔面が歪む。「……傷つくわぁ」とかほざいているが無視だ無視。
「ま、ちょっと休憩しようか。おもろいもん入手してん! あっち行こか」
さっと差しだされた手に一瞬躊躇した。
ハルマは奥さまやお姉さま方から厳しく躾けられて――という名の調教――いるせいか、無意識でレディファーストの精神を発揮してくる。田舎娘の私は中々これに馴染めない……。だってハルマ、顔だけは良いんだもん……。口うるさいけど、さり気無く気遣ってくれる優しさも知っている。
羞恥からくる葛藤でもたもたしていたら素早く手を取られ引っ張られた。
「ほら、行くで!」
屈託なく笑われて体温が上がる。
『手汗が!』と慌てて心中で叫ぶ私にハルマが気づく筈もなく、オレ様野郎の為すがまま部屋を移動した。
「なにこれ……」
移動した隣室の客間には、中央が盛り上がった珍妙な布団が置かれていた。
「コタツ、言うんやて。今王都で大流行らしいで~。何でも王子様方がまた新しく活動しては広めてるとか」
「王子様が!?」
何ということでしょう!今年の夏に素晴らしい活躍をしていたという噂の高貴な方が広めた物に間違いがある筈がない!
「で!? どういうものなのコレっ!!」
ズイッと喰いついた私にハルマが若干引いているが気にしない。
「……こうするらしい」
そういって捲った布団に足を突っ込んだハルマに習って私も後に続く。するとじんわりとした温かさに迎えられた。思わず布団の中を捲りあげて覗くと、中央を盛り上げている木の櫓の中に熱気を放出している陶器が置かれていた。
「中に炭が熾してあるらしいから、直接触ったらあかんよ」
ハルマの言葉に顔を上げた。布団を下ろすと向かいのハルマがにんまりして手を鳴らした。
「ほんで、こういう使い方もできるんやって」
素早く現れた執事が丁度いい大きさの天板を布団の中央に乗せて、お茶の用意を手早く整えた。あっという間に目の前には白い湯気の立ちのぼるジンジャーティーが置かれている。間髪入れず足の低い椅子を宛がわれた。
「これは……」
ほうっと恍惚のまま嘆息した。
ジンジャーティーが体内を温めていき、足もとはコタツとやらがあっためてくれて一気に寛いだ。
だらしなくも見える私の脱力した様子にハルマがクツクツと笑っている。
「オレも最初コレあかんと思ったわ」
「暖炉ともまた違う温かさなのね……」
「部屋が温まるわけじゃないけど、手軽に作れて薪要らずなんやて。だから王子様たちはこれを国の寒冷地を中心にして配っとるらしい」
「すごい……」
それがどれだけ助かることなのか、北田舎で育った私には解った。そして感謝の気持ちが込み上げてくる。
「私、王子様に会いたい……」
「会えるんちゃう?」
「えっ!? ホント!!?」
ポロリと零れた独り言にハルマが事も無げに返してきて驚いた。
「第二王子殿下ってオレらと同い年やもん。学園には絶対入らなあかんから、同級生っちゅうことやね」
更に驚いて限界まで目を見開いた私にハルマが悪い顔になった。
「それもこれもステラが入試に通れば、な。ちゅうわけで、きばってお勉強しましょか? 休憩終わり!」
「望むところよ!!」
気合いを入れなおして私は立ち上がった。
貴族学園はその名の通り貴族の子息子女への門戸は広く開かれているが、庶民が入るためには沢山の試験をパスしなければいけないらしい。何せ庶民の常識と彼等のそれは考え方からして違うのだから言わずもがなである。
(だけど、何れ私もそちら側に立ってみせる!)
強い意志を持って、私は再び勉強机へと向かい合った。
ゲーム主人公(ステラという名のうちの子)たちは今こんな感じらしいですw




