冬将軍と合戦準備②
「ねぇダンデ、今度は何を始めるの?」
興味津々で瞳を輝かせたシルビアが私を覗きこんできた。
木漏れ日の丘へやってきた幾人かの職人さんたちを集めていたところだ。
「ふっふっふ……、出来てからのお楽しみ☆」
私が勿体付けてお道化ると、シルビアの瞳の輝きが増した。
「ダン~! 言われた通り孤児院の方は用意出来たぜ……って何する気だよホント……」
先んじて呼びつけ指示を出していたレイモンドが、私の周りに集った体格の良い大工のおっちゃんたちを目にしてぎょっとする。
「ん~……色々と実験を?」
「……あんまり変な事はするんじゃないぞ」
レイから半眼でじとりと視線を向けられた。
失礼な!とっても有意義な実験に決まってるじゃないか。
「変なことはしないけど、中毒性はあるかもね」
(あらゆる意味で)
「はぁ!? そんな危険なもの、チビたちの傍には置かせないぞ!」
「当たり前じゃん! だから協力してもらうんでしょ?」
言ってレイの後ろに視線を滑らせ笑いかけた。
そこには微笑ましげにクスクス笑うサリーさんが立っていた。
「久しぶりね、ダンデ君。今日の試みも楽しみにしているわ」
「期待に応えられるように頑張ります」
紳士風に気障な礼をしてみせれば、ほんのり頬を染めたサリーさんが柔らかく微笑み、レイモンドは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
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私たちはリンデンベル孤児院の広場に集まって作業を始めた。
木漏れ日の丘に集った大人たちや孤児院の子どもたちが遠巻きに、でも興味津々で野次馬している。
「坊主~! こんな感じで良いのか?」
「ちょっと待って……うん! 良い感じ!!」
にぱっと笑顔を向けるとおっちゃんたちが頷き合い、そして不思議そうに首を傾げる。
「いやぁ、木の箱や格子を作るくらい朝飯前だけどよ、どうするんだコレ?」
リーダー格のおっちゃんが代表して訪ねて来たのに待ってましたと息巻いた。
「大きい木箱の方はここで完成させると重くて運べないから、一先ず全部孤児院の集会所の中に運んで下さい。そこでこれらの使い方を教えます。サリーさん、お願いしていたものは準備出来ていますか?」
「ええ。特別なものではないから、言われていた通り捨てずに集めてあるけど……」
「じゃあ、取りに行きます。案内して下さい。皆は僕が行くまでに集会所へ移動して……」
チラリと人だかりから目当ての人を探し、その人と目が合うと、壺のような陶器を抱えたベルナンドさんがメアリーさんとマル爺と一緒に集団から抜け出てきた。私は彼らに向かって頷くと、皆で連れだって目当ての物を貰いにサリーさんの背中を追いかけた。
「でもこんなものどうするの?」
案内された場所で嬉しそうに壺にそれを詰めていく私を見ながらサリーさんが呟いた。
「ふふ、もうすぐ判りますよ」
言いながら指示したものを持ってきた竹かごに詰め終えたメアリーさんも私の傍に戻ってきたので、皆の待機している集会所へと戻りますか。
……どうか上手くいきますように。
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囲むような人垣の中心にあるのは先ほどの壺。その壷は今逃がさないとばかりに木の格子檻に囚われていた。
「で、これにこうして布団をかけると……炬燵の完成です!」
「コタツ?」
一仕事終えて薄くかいた額の汗を腕で拭う私を見ながら、シルビアが聞きなれない響きにこてんと首を傾げた。
「うん、炬燵! ……そろそろいいかな? シルヴィー、ちょっとこっち来て」
おいでおいでと手招きすれば素直にやって来るシルビア。そんな彼女に今し方格子檻に覆いかけた布団の一部を捲りあげ誘導する。
「そこに座って。……うん、そう。」
言われた通りに座りこんだシルビアの足に持ち上げた布団をそっと下ろした。
「え……すごい……何コレ!? すっごくあったかい!!」
目をまん丸にしたシルビアが私を振り仰いだ。そうでしょう、そうでしょう! 思わずにんまりとした笑みが零れた。
「え? どういうこと?」
「まぁまぁ、百聞は一見に如かずってね!」
ぐいぐいとレイモンドの背を押してシルビア同様布団の中へ誘導した途端、
「!!?」
声にならないリアクションをあげたレイモンドに再びしたり顔になってしまった。
「簡単に説明すると、持ち運べる暖房器具なんです」
「成程、持ち運べる小さな暖炉なんだな」
すぐに仕組みを理解した職人のおっちゃんたちに向かって大きく頷いた。
ベルナンドさんに用意してもらった壺のような陶器に詰めたのは、サリーさんに夏場からずっと溜めてもらった灰。台所の竈から日々出来る灰と、燃えさしの炭を廃棄せずに取っておいて貰ったものだ。
そうして敷き詰めた灰の中に差し込むように燃えさしの炭を埋め、火を熾した。それに蓋をして格子櫓の中へ設置。綿の厚みを持たせた布団をかけてやれば昔懐かし置炬燵の完成だ。
「うや~……足がぽかぽかして……何だか眠くなってきたかも……」
くしくしと目元を擦りだしたシルビア。そうなの、襲い来る睡魔の誘惑に抗えない魅力を放つ魔の神器。それが炬燵なのです!
「一度あたれば中々抜け出せない中毒性……それが炬燵!」
「さっきのはそういう意味か。……何か納得した」
しみじみレイが頷く。その表情はじんわりしている。
「それで? こっちのでっかい木箱もそのコタツとやらになるのかい?」
中身のない木箱に親指を向けて大工のおっちゃんが質問を投げかけてきた。
「こっちはちょっと違いますが、似たような用途に使います」
私はきょろきょろと辺りを見回し、よさ気な場所に木箱を移動させると、数度に分けて運ばせた灰と炭で静かにその中身を満たした。炬燵と同様に火を熾す。炭がやがて赤く発色しだしたのを確認して私は周囲を見渡した。
「お待たせしました。これは火鉢というものです。」
「ヒバチ?」
「そう。大きい木箱で作ったから長火鉢……かな? 用途は先と同じ暖炉と似た様なものなんですが、こっちにはこんな利点があります」
私は予め鍛冶職人に頼んで作って貰っていた『五徳』と『鉄瓶』を火鉢に設置して見せた。
「これ、簡易の竈代わりになるんです。こうやってお湯を沸かしたり、干物などを炙ったり出来ます」
おおーーーーーー!
という低い歓声が集会所に木霊した。
「炬燵も火鉢もこうやって灰を再利用することで熾した炭の火が消え辛く長く暖がとれて、暖炉みたいに薪を大量に消費しないので経済的です。こんな感じで暖炉のない庶民の家庭でも設置出来ますので、冬場は重宝しますよ!」
「ああ、それでダンデ君は調理場で出た灰や炭を取っておいてって言ったのね!」
「はい。暖炉だと場所も限られるし、薪の消費を考えると貴族でもない限りずっと焚けないじゃないですか。……これなら冬が終わればしまっておけばいいし、そのまま簡易の調理器具にしてしまっても良いし、皆さんはどう思うかなって、教えて欲しくて。これから冬本番ですから……」
早速集まった野次馬たちも交えて使用感を試してもらった。
作った炬燵や火鉢たちはこのまま孤児院に寄付する予定。だから大人たちの大勢いる中で、子どもたちにも注意点を丁寧に説明していく。
「火を熾すのは必ず大人にやってもらうこと、大人のいない場所で使わないこと。火傷防止のこの格子には触れないこと。……で、これが一番大切なことなんですが、」
私は一度言葉を切って周囲を見回した。きっちりと衆目を集めてから言葉を続ける。
「炬燵や火鉢は大きさによって簡単に持ち運べる事が利点ですが、絶対に密閉度の高い場所では使用しないでください。そして、屋内で使用している間はこまめに換気してください。」
「何故だい?」
誰かが発した疑問に私は躊躇なく答える。
「これを守らないと、最悪死にます」
一気に部屋内が凍りついた。残念ながら脅しでは無いので心に刻んで貰わねばならない。
「簡単に説明すると、炭が温めた空気や煙は沢山集まると毒になるんです。濃度の高いそれをずっと、沢山体内に取り込むと死んでしまいます。ですが、こまめに普通の空気に混ぜて逃がしてやることで安全に使う事が出来るので安心して下さい」
「じゃあうちは大丈夫だ。隙間風が絶えないからね!」
説明を呑みこんだ一人が茶化して放った言葉に便乗して「それなら安心ですね」と返せば人々の緊張が和らいだ。必要以上に怖がらせたいわけではなかったから助かったぁ!
その後は質問に答えたり、作り方をレクチャーしたり、使用感のアンケートを取ったりして一日を過ごした。……久々に有意義に過ごせた気がする。
よし、感度は良好だし、この分だとプレゼンも上手く出来そう!
このままもうひと頑張りといきましょう!!
因みにライ爺の庵には囲炉裏の他に掘り炬燵があるとかないとか……




