慰労会③
ブクマ&評価、ありがとうございますっ!短編も気にかけて下さって、皆様の優しさに作者は助けられています。
所変わってここは王宮から渡り廊下で繋がった先、複数ある離宮の内の一つ、――迎賓館としての色が強い建物――その大広間。
今日一日遠征関係者に解放されたこの宮は招待客が寛げるように色々な趣向が凝らしてあった。
広間の片端に並べられたテーブルには豪華な食事が所狭しと置かれている。デザートまでしっかり用意されたその場所はビュッフェ形式で好きに飲食が可能。広間の奥では楽団が心地よい調べを奏でている。その前方は適度なスペースが確保されており、どうやら好きな時に舞踏が出来るようだ。またバルコニーに近い場所にはゆったりと寛げそうな椅子と適度な高さのテーブルが見目よく配置されており、沢山の種類の茶葉を乗せたワゴンとそれを操る立ち姿の美しいメイドが佇んでいた。
風呂や休憩室も解放されており、招待客たちが自由に、思い思いの時間を過ごせるように手配されていた。
「うっわ~~~!! ヤバいな、コレ!!」
庶民感覚代表のレイモンドが煌びやかな室内を見渡して大口を開けていた。
「ちょっとは表現力を養いなさいよ! というか、謁見の間の方が比べられないくらい神秘的で荘厳だったじゃないの」
「……あんな場所、緊張で何も見えなかったよ」
思い返してうっとりとするユーリにボソッと呟いたレイ。
「そんなに凄かったんだ? 僕も見たかったなぁ……」
残念そうに零したミケルは謁見の間には入れず――正規メンバーではなく使用人的ポジションだった為――マル爺と共に直接離宮へと来ていた。
「あれ? そういえばロン兄ちゃんは?」
ミケルがキョロキョロと周囲を見渡すと、レイが苦笑気味に返す。
「あいつなら、待ち切れずにご主人の下へ旅立った」
そう言って肩をすくめたレイにミケルは目をぱちくりさせ、
「ロンって戻りの道中からずぅっと殿下にべったりよねぇ」
呆れ気味にユーリがぼやけば、マル爺が愉しそうに笑った。そして、少し前の記憶を辿っていたレイモンドの瞳がカッと見開かれ、瞬間、
「なぁ、ユーリ! 列の前の方にいたのって、ナターシャ嬢だったよね!?」
何の脈絡もなく突然肩を掴まれたユーリが驚いてレイと視線を合わせた。
「そ、そうね。というか、貴方のお父様もいらっしゃったじゃない」
「そうなんだよっ! なのにナターシャ嬢の事教えてくれなかったんだっ! 知ってたらもっと、こう―――」
ガクガクと前後に揺すぶられて堪らずレイを突き飛ばしたユーリ。見目にそぐわぬ腕力にレイが吹っ飛び、そのまま床に崩れ落ちた。
「やめてちょうだいっ! 完璧な装いが着崩れるでしょう!!」
呼吸を荒げて避難したユーリの事など最早蚊帳の外で自身の殻に閉じこもったレイがいじけている。どうせ、俺なんかとじめじめするレイをユーリは一瞥して、
「あそこにいたのならその内此処へくるでしょうよ、殿下たちと一緒に」
心底面倒そうに零した。瞬間、一縷の望みを得たレイモンドの表情が輝く。
「あ、シルヴィー来たよ!」
広間の出入り口を指さしてミケルが駆け寄っていく。その後ろ姿を期待満面にレイが視線で追いかけた。すぐにクロードを伴ったシルビアを見つけ、クロードから一歩下がった位置にロンがいてその横に……
「ナターシャ嬢は!!?」
いるはずの――目当ての――ご令嬢の代わりに立っていた友――ダンデ――の姿を見止めてレイが立ち上がって叫んだ。
「帰ったわ」
にべもなく返したシルビアを食い入るように見つめる。「へ? …冗談だよな?」呆然と視線をクロードに移すと、シルビアに肘で小突かれたクロードがどもりながらレイモンドの前に一歩進み出て、
「あ、ああ。……先ほどナハディウム殿が連れて行った……かな?」
目を泳がせるクロードの不自然さに気づくこと無くレイモンドが再び膝から頽れる。余りに漂う悲愴感にダンデが心配して近づいた。
「ナターシャに用があった? ……よかったら僕が伝えておくけど」
その優しい言葉に、心の女神とよく似た緋色の髪に彼女の面影が重なり、レイはひしっとダンデに抱きついた。
「今日こそお近づきになりたかったぁぁああぁあぁああぁあぁぁ!!!!」
そのまま泣き叫びだしたレイモンドにダンデがうろたえ、即座にユーリに蹴り飛ばされたレイ。周囲は可哀想な子を見る生温かい眼差しで成り行きを眺めていた。
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「あ~~~、極楽極楽ぅ!」
こんな機会は幾度もないだろうと気を取り直したレイは、現在離宮自慢の露天風呂に肩まで沈んでいた。
「やっぱり城って凄いんだな。俺、クロが王子様って漸く実感した気がする~」
のんびり解れた顔でしみじみ溜息と共に吐き出したレイモンドにクロードが苦笑を浮かべる。
「この離宮は主に迎賓館として使われているからな。歓待の設備が充実しているんだ。私の部屋よりよっぽど豪勢だと思うぞ?」
「……流石に謙遜だと分かるわよ、殿下?」
微妙な表情で返したユーリに、皆がそれ以上の微妙な顔を向けた。
「……なによ?」
その不穏な空気に怯んだユーリが引き気味に問う。まっ先に答えたのはレイだった。
「いや、……知ってはいたけど、お前本当に男なんだな……」
「……悪い?」
「悪いというか、俺の中の常識と普段のお前の姿がせめぎ合って意味解らん」
心なしかロンもクロードも微妙に視線を外している。そしてそんな空気に頓着しないミケルが空中に残念そうな声を上げた。
「ダン兄ちゃんも来られれば良かったのにねぇ……」
ピシっと一人だけ固まったクロード以外、皆口々に同意を零す。
「仕様がないわよ。仕事だって言ってたもの……」
ナターシャ絡みだと推測したユーリが――あながち的外れでは無いのだけれど――ダンデを擁護した。因みに噂の本人はお隣の女湯でシルビアときゃっきゃうふふと楽しんでいたり。
湯にあたったのか少し頬を赤く染めたクロードがコホンと咳払いをしたので、自然と注目を集めた。しかしその視線には気のおけない柔らかさがある。クロードはそのことに薄く笑んだ。
「不思議だな。……まさかこんなに私に友が出来るとは思わなかった」
噛みしめるように呟いたクロードに周囲が顔を見合わせる。
「今更?」
「光栄です。俺は殿下についていきます」
「僕も? 僕も殿下の友達?」
レイ、ロン、ミケルの順にクロードが笑み返して頷く。
「身分的には役に立たないですけどね」
皮肉気に自嘲したユーリにクロードは首を振る。
「そんな事は無い。……これからもよろしく頼む」
「裸の付き合いもしちゃったし?」
「違いない」
レイとロンの軽口をきっかけに皆で笑い合った。ほんのちょっとの照れくささを立ち上る白い湯気に隠して。
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磨かれた白い玉の肌がほんのり桃色に色づいている。
ほっこりと入浴を楽しんでいた私はふとシルビアに問いかけた。
「ねぇ、シルビアはく~ちゃんのことどう思ってるの?」
傍目に見て甘ったるい雰囲気は欠片も無いけれど、婚約者と呼ばれても構わないと思うくらいだから少なくとも嫌ってはないはず。今後の展開に備える為にも本人の意識調査をしてみたくなったのだ。
「ライバル」
「はい?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった私にシルビアが軽く笑う。
「えと……、恋愛的な好きとかって……」
「そういうナターシャはどうなの?」
重ねて窺った私に首を傾げながらシルビアが質問を返してきた。
「今のところ身近にはいないわねぇ……」
「ダンデが男だったら良かったのに」
「私もシルビアならお嫁に欲しいわ」
顔を見合せて抱き合いキャーっとはしゃぐ。女子特有の戯れに何とも癒された。
「……クロも私と同じだと思うわ」
「え!? ダンデが好みなのっ!!?」
「……う~ん、まぁ、好みと言えばそうなのかな?」
マジか。ちょっとく~ちゃん、BL路線に転びかけてるとかまずいんじゃない!? ハッ!!あんな感じのユーリが近くにいるから倒錯気味になっちゃった!? まさかの証言に温まった身体からサーっと血の気が引いていく。シルビアは「ん? あれ?」と困惑のハテナを頭上に浮かべていた。
「シルビア!」
私はシルビアの両手を取って目の前まで掲げた。じっと彼女を見つめるとふにゃっとその顔が笑み崩れる。可愛い。うん、シルビア可愛い! 私の癒しっ!!
「お役目はお役目だものね。シルビアに好きな人が出来るまででいいから、く~ちゃんのこと、どうか、どうか! よろしくね!!」
私の勢いに押されて頷いたシルビアの手を握り直す。
大丈夫! こんなに可愛いシルビアが傍にいるんだから。それに、この子は破天荒に見えて人をしっかり見ている。公爵令嬢としての務めも自覚して努力している。だからく~ちゃんの事も傍でフォローしてくれるはず!軌道修正も間に合う……はずっ!!
今はまだそれぞれ幼くてぼんやりした好意がいずれは『恋』に変わるかもしれないし、く~ちゃんに訪れる沢山の出会いから彼が運命の女性を見つけるかもしれない。
焦りは禁物ですね。ちょっと先走っちゃった。そうよね、ステラが誰を選ぶのかもまだ分からないのに。
「うふふふふ」と乾いた笑いを私は無理やりお湯に溶かして混ぜた。
うん。乙女ゲー的な話は然るべき時期が来るまで保留しよう。そうしよう!
噂に聞いてはいましたが、『誤字報告』助かり過ぎますね∑(@△@;)
早速機能を使って報告下さった方、ありがとうございました!!どうしても時間的に見直し不十分な事も多いので、よくよく見ないまま自動変換に任せていたりすると、面白い事になっていたりするので……。
読者様にお手間をかけること申し訳ないと思いつつ、どしどし誤字報告して欲しいとも感じたダメ作者です(^△^;)
これに懲りず、今後とも是非お願いいたします!




