慰労会②
お待たせしました!慰労会まで辿り着けないタイトル詐欺……
「というのは半分冗談なのだが」
(……ということは半分は本気なんですね?王様)
期待以上のリアクションにご満悦のアルおじさまに思わずじと目を向けてしまう。
「今のところ政略的に働きかけなければならない事案も特にないからな。余計に売り込んでくる連中が多くて私としても流石に鬱陶しいのだよ」
私の視線を受けて苦笑交じりにアルフレッドが肩をすくめる。
要はより強固で大っぴらな風避けが欲しいと。……理解しました。
「伯爵家のナターシャ嬢では少々荷が勝ち過ぎるが、公爵令嬢であるシルビア嬢には是非とも牽制に一役かってもらえないかと思うてな。なぁに、あくまで傍から有力候補と見えれば良いだけだ」
「……具体的にはどのようなことが必要なのですか?」
未だに要領を得ていないシルビア――腕を組んで言葉を咀嚼している模様――に代わって口を挟む。いや、話の帰結によっては私も死活問題よ!今までの影の苦労を無駄にする訳にはいかないんだから!!
「具体的……。まぁデビュタントも済ませていないそなたらだからなぁ。精々愚息のパートナーとして公式行事などに付き添う、くらいだの」
「……? それって今までと何が違うの? いつも通りクロの手伝いをすればいいんでしょ?」
更なる疑問に逆向きに首を傾げ直したシルビアが王様にキョトンとした視線を向ける。するとしたりと口角を上げたアルフレッドが、スと細めた目線をクロードに送った。
「その通りだ。何が違うと言えばそこな愚息の心構えかな」
くつくつと喉の奥で笑う王様。そしてその意味するところを悟ったく~ちゃんが父王の視線を捉え顔を一気に青ざめさせ、次いでシルビアを見て驚愕に顔を赤らめ――決して恥じらう風ではないのが謎――、そして何故か私を見止めて泣きそうにその整った眉を八の字にした。
「クロードもそろそろ対外に向けた行動も学ばねばな。今回はこのようにお膳立てをしてやったが、私は別段強制するつもりはない。お前が好きなようにすれば良いが、現状この案が最も角が立たずにやり過ごせる事は分かるだろう?まぁ、お前が好いた女子がいるとか真剣に見合いがしたいと主張するのならまた話は別だが」
「はい……いえ……」
どっちつかずの返事をして押し黙ったクロード。シルビアと私の顔をちらちらと見ながらその表情が葛藤に歪んでいる。
「なぁに? クロが好きなのはナターシャでしょ?」
ふいにシルビアが――事も無げに――投げた言葉に全員が注目した。これでもかと目を見開いたく~ちゃんは鯉のように口をぱくつきながら青くなったり赤くなったり忙しい。
「何でクロが難しい顔をするのか解らないわ。今までだって私はクロのパートナーだったでしょ? だって私たちは同志だもの」
「いや、そうだが、そうじゃなくてっ!父上が言っているのは、シルヴィーと私が周囲からこ、こここ恋人に見られると……」
「……? でも候補でしょ? クロの婚約者候補。 初めからそういう話だったし、別に私とクロは恋人じゃないし、これが私の公爵令嬢としての仕事でしょう? 私とあんたはナターシャが好き。心の在り処はお互いちゃんと知ってる。だから目立つのが嫌いなナターシャを親友の私たちが助けて矢面に立つ。ずっとそうしてきたのに、何で今更そんなに悩んだ顔してるの? 意味が分からない。変なの。」
何と!一番不理解そうに見えていたシルビアが一番核心をついていた驚愕!!
本能で生きるシルビアの真っ当な疑問に部屋内の全員が一瞬で間抜けな顔になってしまった。すぐにアルおじさまが大声で笑い出す。
「ほんに、愚息たちには勿体無い令嬢たちだ」
愉快そうに呵呵大笑する王様の後ろからすかさず宰相が口を挟んできた。
「……娘が言う通り、これはある種の高位の者の勤めでございますれば。……最終的には娘に選ばせますからな!」
どこか不快さを孕んだ地を這う声にひらひらと手を振ってあしらう王様をシルビアパパが後ろから怨みがましく睨めつけている。
「……成程。父上の意向しかと受け止めました。ならば流れ上、私のお相手はナターシャということですね!」
ずっと様子を窺っていたラルフが喜色満面湛えてここで漸く口を開いた。自然と皆の視線を集める。
「……王太子殿下、上に立つ者である以上、他人の話はきちんと聞かねばなりませんよ」
「兄様っ!!?」
いつの間にかラルフの背後に立っていたナハトが主を嗜める殊勝な従者の声音で進言した。
「えっ!? 兄様、いつの間にお部屋に来られたのですか!!?」
(全然気配がなかったんだけどーー!)
「ふふ、ナターシャ、そんな些事が気になるなんて可愛いね」
「いえ、答えになってないのですが……」
柔らかな笑みで黙殺されました……。
一瞬で不快一色のオーラを放ったラルフが顔は笑顔のままで自身の侍従に問う。
「……私はしかと話の流れを追っていたと思うけどねぇ?」
「おや、可笑しなことをおっしゃる。殿下、シルビア嬢は何と語られましたか? ……私の妹は目立つことを好まないのですよ。控えめなこの子に殿下の隣などという栄誉で注目されるお役目などとても背負いきれません」
「それも先ほどシルビア嬢が自身で答えていたではないか。あくまで建前、ただの役目だと」
どうだ、と言い返せてどや顔のラルフ。ナハトは可哀想な子を見るような哀れみを多分に含んだため息をわざとらしく落とした。
「はぁ……。それは王が前提を設けていましたね。強制はしないと。……ナターシャ、お前は納得してそのお役目に就きたいのかい?」
「いいえ、兄様。私には重圧過ぎてとても耐え切れませんわ」
きっぱりすっぱり、意見を申し上げる。ん? 控えめなご令嬢なのに? あはは、だからこその保身ですよ、自己保身、大事!!(断固そういうことにしといてもらう!)
「ということです。残念ですが、妹が望まない以上、兄として殿下の意向に副うわけには参りません」
「おま……」
「殿下、申し訳ございません」
思わず素が出かけたラルフをナハトが即座にやりこめる。その傍で隠しもせず笑い続ける王様。後ろで宰相が頭痛に倒れそうです。……心中お察しします。……ああ~、ラルフが目に見えて落ち込んでる。いじけてじめじめと……キノコが生えそう。余りの落胆っぷりに私の良心が疼きだす。……うう、そんな叱られたワンコみたいな瞳で私を見るんじゃない!
「~~~っっ。や、矢面に、表舞台に立つことは無理ですが、殿下が本当にお困りの時に名前くらいなら貸しますわ……」
負けました。構ってちゃんのあの瞳に負けました。……うう、私、前世から頼られると断れない性分なのよ。何度墓穴を掘ったことか……
「そうか! ありがとう、ナターシャは優しいね。遠慮なくそうさせてもらうよ」
「ナターシャっ!!」
兄様の非難が突き刺さる。でも発してしまったものは取り消せない。
「で、でも、乱用はなし! 絶対にダメですよ! 良いですね!!」
勢い込んで追加してみたが、解っているのかラルフは満足そうに笑うだけ。
(……用途を限定して濁したほうが信憑性が増してしまうだろうに。外堀から埋められて囲われてしまうぞ?まぁ、私的には都合が良いけどな)
片眉を上げてそんな事を考えていた王様の思惑など気づけず。兄様は不穏な表情で何やらぶつぶつ呟いている。
興味深そうに笑いを噛み殺す王様から用件は以上だと告げられて、私たちは室外に追い出された。
「各々が納得した立ち位置にいるのならば余は暫し静観しよう。そなたたちの答えを楽しみにしている」
去り際にそんな言葉を贈られて。
三人で顔を見合わせるも見当もつかず目を瞬いて、取りあえず一団が案内されたというパーティー会場に向かうことにした。
(王様の話はイマイチ要領を得ないけど、でもこれでシルビアがく~ちゃんの婚約者候補筆頭というゲーム通りの地盤が出来たのね……)
シルビアが悪役令嬢と位置づけられたファクターの一つ。クロードと親交を深めていくステラに悋気を起こしたが故の行動の結果の評価。
今のシルビアならとても悪役令嬢などにはなりえないが、周囲の悪意からそのように仕立てられないとも限らない。
私は一人、気合を入れなおした。




