噂の山村で ~三日目~
短いですが、キリが良かったのでここで止めました(><;)
夜が明けて、昨日村長とも打ち合わせをした通り、――最小限の護衛を残して――本格的な討伐隊が小隊を組みそれぞれに散っていった。
残った私たちは今日こそ目的を果たすつもり。……いや、ね。『待て』をくらい続けたシルビアさんが限界なのでね……。
「さあ、集まりなさいっ!」
意気揚々と高らかに宣言したシルビア。
広場にある花壇の枠――ちょっとしたステージの様な形に作られている――に立ち、全体を見渡す様に背伸びして片手を大きく振りあげている。朝の喧騒がひと段落した午前中。やはり午後は炎天下が怖いので、お昼時までに用件を済ませて、昨日同様夕刻に炊き出しをしようと話し合っていた。
「どうしたの?」
最初に姿を見せたのは広場に面した家の少女。初日に助けを求めてきたあの子だ。名をジェシカというらしいその子は壇上のシルビアを見止めてその迫力にちょっと尻込みすると、おずおずと私の下へ近寄ってきた。
「あのね、これから村のみんなへプレゼントがあるんだ!」
ジェシカに応えたのはミケル。にぱっと人好きのする笑顔を咲かす。
「……プレゼント?」
きょとんとしたジェシカにミケルが大きく頷いた。
「うん。僕たちは討伐じゃなくて、支援活動としてこの村に来たんだよ。それでね、偉い人から村のみんなに渡して欲しいってものを預かってるんだ。暑くなる前に説明したいから、皆を呼ぶの手伝ってくれないかな?」
ミケルの後を引き継いで説明した私の言葉に快く頷いてくれたジェシカが軽やかに駆けだして行った。
程無く、何事かという静かなざわめきを携えて人々がシルビアの下へ集まった。そんな騒ぎを聞きつけた村長が大慌てで人波を掻き分け最前列へ躍り出ると、くるっと後ろを向いて村民に呼びかけた。
「み、みみみみみんなっ! どうか、落ち着いて、粗相のない様にして欲しいっ!」
一人狼狽する村長――村長は先んじて隊長から話を通してあった――に集まった人たちからヤジが飛ぶ。それは取り乱した村長を軽くからかうものばかりだったが、当の本人は全く構う素振りを見せない。ただ只管、「頼むっ!」「静かにっ!」と泡を食っているのだ。遂にいぶかしんだ一人が村長を窘めた。「一体どうしたというのだ」と。その言をごくりと喉を鳴らして飲み込んだ村長が集団を見渡す。彼のただならぬ緊張ぶりに周囲の者たちもつられて固唾を呑んだ。
「王子様がお見えなんだ……」
大して大きくもない声量だったのに、ちょうど静まりかえった広場には殊の外大きく響いたように感じた。ザワリ…、空気が揺れる。
そこへいつの間にかシルビアの隣へ立っていたクロードが口を開けた。
「騒がせるのは本意ではない。皆、そのまま楽にしてくれ。私はクロード・クロムアーデル。王太子である兄、ラドクリフ・クロムアーデルの命を受けこの地へやってきた。この国の第二王子だ。」
凛と徹った少年の声。自然と視線がクロードに集まる。しかしそれは音が聞こえたからそちらを向いたという反射でしかなく、現実味の無いワードに人々は呆然としている。
王子様…?壇上の高貴な少年……第二王子………。たっぷりと時間をかけて漸くその言葉の意味が思考出来た途端、広場の人々が一斉にひざまづいた。それは一種の様式美ともいえる動きで……
「ははーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
まるで打ち合わせでもしたかのような一糸乱れぬ動き、そして唱和が広場に木霊した。その様子に驚いて後ずさるく~ちゃん、そして何故か誇らしげにその平らな胸を張るシルビア。
リアル水戸黄門のような情景を眺めながら『随分前にもこんな事あったなぁ』なんてぼんやりと思っていると、
「クロ兄ちゃんって本当に偉い人だったんだねぇ」
そんな今更な感想をミケルが実感を込めて呟いたのだった。
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その後の展開は実にスムーズだった。
く~ちゃんの威光に畏まった村民たちがとてもお行儀よくしてくれたからだ。
まず、私たちは手分けして持ってきた手作り石鹸を村人全員に手渡していった。行き渡った所で、く~ちゃんによる衛生講座を開催。次にシルビア、ユーリが補給水のレシピを紹介。ロン、レイ、ミケルがマル爺と一緒に熱中症への対処、応急処置の実演をし、最後に私が食品管理の注意事項などを補足説明した。
因みに運んできた物資のほとんどは村長の屋敷に運び込んであった。管理采配は村長に任せてある。そして道中に集まった支援物資たちは都度王都へ運ばれていた。支援を必要としているのはこの村だけではない。王都で仕分けされ、必要な場所へと送られる手筈になっている。
そんなこんなであっという間にお日さまがてっぺんにやってきて、集会をお開きにした。
暑さを避けて、夕方また炊き出しをすると伝えると、村人たちの協力の申し出が殺到し、プチ祭りのような交流会となることになった。
そうして日中の茹だるような暑さを何とか凌ぎつつ、そろそろ宴の準備にと人々がまばらに行動を始めた頃、
―――それは起こった。




