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噂の山村で ~一日目~

ちょっと短めの内容が続きますが、その分連投出来るよう頑張りますのでお目こぼしください(><)

 進行方向に悠然と広がる荒野は大きな緑の背景を携えていた。その緑が山際の輪郭を為し、ハッキリと濃くなった頃、それはポツリと姿を現した。

 到着した目的地の――山裾にひっそりと佇む――小さな村。その集落の入口で私たちの一団にさざ波の様な困惑が広がっていた。


 馬車の窓から見える村の様相は『閑散と』『寂びれた』まさにそういった雰囲気で人気もなくしんと静まり返っている。

 午睡時、普通なら大人も子供も何かしら忙しく動き回っているはずの時間帯である。そういう私たちの常識も相まってより村の異常さを際立たせていた。

 私たちは大所帯で移動してきている。だから村へ近づくほどにそれなりの騒音が聞こえていたはずなのだ。なのに誰も物見にすら出て来ていない。規模の程度の差はあれどこれまでの宿場町には無かった現象だった。


 ――馬車が完全に停止して程なく、ノックと共に馬車の扉が静かに開かれた。


「殿下、流行病が流布している可能性もあります。斥候を放ちましたので、今暫く馬車から出ずにお待ちください」


 噂以上の有様に警戒度を大きく引き上げた護衛隊長が真剣な面持ちで待機を促す。これまでに無かった緊迫感を汲み取ったクロードが神妙に頷いた。そんな中、


「じゃあ、僕はちょっと様子を見てこようかなぁ」


 重くなり始めた空気をぶち壊す様に「よいしょっ」と小さく呟いて立ち上がった私――だって長時間の着席は流石に疲れちゃったんだもん――に周りがぎょっと目を剥いた。それにへらっと脱力した笑みを向ける。すかさず目を輝かせたミケルが「僕も!」と声をあげると穏やかな調子でマル爺も後に続いた。


「ならば儂もついていくとするかのぅ。なぁに、老い先短い老いぼれなら問題もあるまいて」


 制止の声をそんな風に塞がれて護衛隊長が渋い顔をした。続く言葉を探しながら立候補者を見るが、先の二人は殿下の小姓にしか見えず思案する。……そんな風に見てとれて、道中徹底して表に立たなかったのが功を奏したことに私は内心ほくそ笑んだ。結果、()()()()()を外に出さないことを条件に私は望みを叶えた。……爆発した不満は護衛隊長と私の視線で黙らせて。


 馬車を降りた私は一度大きく背伸びをすると、使用人の一団からハンナを呼び出した。指示を出して用心の救急セットを持たせて一緒に連れ立つ。嬉しそうに母親に甘えるミケルにマル爺と目尻を下げながら、吹き曝しにポツンと建てられた木のアーチ――恐らく村の入口のつもりだろう。何の意味もなしてないが――を四人で潜った。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 村の内部はぐるっと一周しても小一時間も必要としないくらいの規模だった。メインストリートらしき通りの突き当りはちょっとした広場になっていて、村人の集会場所であることが窺える。それを取り囲む様に点在する住居。広場の大きさから見ても村人の数が知れると言えた。

 入口からこの広場まで実に数分。振り返れば難なく一団の様子が見える、そんな中に数軒だけあった商店らしき建物は全て閉店していた。締め切られた内部は薄暗くイマイチ良く見えない。

 とりあえず、どこかの家に突撃をかけようかと提案しようとした時、広場に面した家の扉が勢いよく開き、中から一人の少女がまろび出てきた。焦燥に駆られた余裕の無い表情で辺りを見回し――意味などなかったのだろうが――私たちを見つけると、よそ者である誰何も無くひしと縋り付いてきた。


「お願いっ! ばあちゃんが大変なのっ!! 助けてっ!!」


 私は皆に素早く視線だけ向けると――直ぐに小さな頷きが返ってきた――少女が出てきた家に遠慮なく押し入った。探すまでも無く眼前のリビングらしき床に倒れた老女を見つけて駆け寄る。浅い呼吸でぐったりと横たわる様子を確認して後ろに鋭く叫んだ。


「ハンナっ! 補給水っ!!」


 見るからに重度の熱中症だった。

 開け放した扉から入れ替えられた空気は停滞した熱気を孕んでいるものの、山から吹き下ろされる清涼な風も微量に含んでいたのでそのままにさせる。手持ちの救急セットから目当ての竹筒を取り出したハンナが老女の首の下から腕を差し入れ上体を少し持ち上げ、ゆっくりと老女の口元に水分を含ませていく。これは私が木漏れ日の丘で広めたもので、塩と少しの果汁を加えたスポーツドリンクだった。

 その間に私は迷いなく老女の衣服を寛げていく。


「冷たい水が欲しい。井戸はある?」


 私が少女の顔を見ながら問いかければ、呆然と成り行きを見守っていた彼女がハッとして「こっち!」と飛び出していった。即座にミケルが「僕が行くよ」と一緒に飛び出していく。

 程なく桶いっぱいの水を二人がかりで持ち帰ってきた子どもたちを労いつつ、勝手に家探しして持ち出した盥にそれを分ける。仰向けにした老女の膝を折り曲げ、盥に張った水に足首まで付けた。そうして桶の水で濡らした手ぬぐいを絞らず老女の首下にあてがい、少女に団扇になりそうなものを手当たり次第持ってこさせて全員で老女を扇いだ。

 すぐに(ぬる)まる手ぬぐいを頻繁に取り換える事数度。何度目かのその時、漸く老女が意識を取り戻した。ぼんやりと中空を見つめる老女に「失礼」と一声かけ、マル爺が触診する。


「ふむ、急場は凌げたようだの」


 安心感を齎すその微笑みを見て少女が老婆に抱きついた。泣きつく孫に理解が追いつかないまま軽く抱き止めた彼女は、そこで漸く家族以外の人間を認識した。


「良かった、もう大丈夫ですよ」


 優しく微笑みかけた私の顔に、ただパチクリと老女は瞬きで返す。それに一段落を認めた私はハンナを看病にそのまま置くと、マル爺とミケルを連れて外へ出た。

 同じような状態の村人がまだいるかもしれない。

 私は急ぎ一団へ戻ると護衛の騎士団に状況を伝える。マル爺に説得して貰って村の全戸に声をかけて回るよう指示を出した。

 案の定――重軽度の差はあれ――似たような村人が続出し、その対応に村を駆けずり回る事となった。


 漸く収束を見つけた時にはとっぷりと日が暮れていて、私たちは慌てて野営の準備へと再び奔走する事になったのだった。

先日の後書き効果か、短編の評価が増えていました!一読、そして評価を下さった方々ありがとうございます(>▽<)

ナターシャさんは不憫なことに不思議ぱぅわを持たせてあげていないので(苦笑)、これからの彼女の奮闘も応援してあげてください!

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2020/6/26
あの、中年聖女がリターンズでございます!
新作☆中年『トーコ』の美食探訪!その二の巻
今日も元気だビールが美味い!~夏といえばビールでしょ~

+++

こちらも引き続きよろしくです☆

唸れ神那の厨二脳!
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今日も元気だビールが美味い!

宜しければ是非応援してください☆
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