最後のうちの子
え~、今回時系列がポンポン入れ替わる上、次回に続きます…(汗)
翌日。
ノーサル男爵邸に一通の手紙が届いた。
―――――――――
ダンデハイム家当主の要請に従い、そちらで保護・逗留されている
ステラと名乗る少女をイースン領にて受け入れる。
然るべき教育を施し、王都の貴族学園へ送り出す手筈だが、
その際後見に付くのであれば総領主へ願い出を提出されたし。
何も無ければイースンが受け持つ由、了承いただきたい。
数日後、迎えの馬車を寄越す。
関係者に話を通しておくよう対応願う。
尚、必要なものは全てこちらで用意する故、気遣いは不要である。
――――――――――
不遜な物言いはイースンの方が――段違いな――格上故気にならないが、正直あまりの周到さに変に勘ぐってしまう。
ステラという少女からは何のうまみも特別さも感じない。なのにこの厚遇はなんだろうか?
(……まあ私が言えた義理ではない、か)
嘗て叔父により国外追放の憂き目にあい、それを匿ってくれていたのがイースン伯爵家だった。彼の地の有能さ、先見の明るさは身を以て体感していた。きっと己の預かり知らぬ何かがあるのだろう。
現状叔父によって荒らされ続けた北領地の復興にかかりきりの身である。興味はあれど手を出す余裕など無いのだ。その辺りを加味されての処遇なのだろう。
しかし短期間とはいえステラと交流し手元に置いて関わったのは確かだ。
当事者として、また実体験から基づく未来への確信がこの件に未練を残す。
(だからこそ後見人として申し出よ、と仰るのか……)
一体人生の先輩たちはどんな世界を見て生きているのだろうか。
領北の代官領主に着任して数年の未熟者には見当もつかない。目指す先のあまりの高さに眩暈を覚えるが、まずは先輩方の期待に応えないといけない。
(あと5年。それまでに北を整え余剰を出せということか……手厳しいことだ)
文武に優れたダンデハイムの影、イースン伯爵家。
弱音に自嘲を漏らすと反射的に、脳内でイースン領で仕込まれた数々の記憶が蘇って背筋が伸びた。
そんな己に苦笑しながら、今後ステラに降りかかるであろう苦難と成功に一人思いを馳せるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数日後。
カラカラと見た目の豪奢さからは考えられない軽く滑らかな音をたて、ノーサル男爵邸のエントランスにイースンからの馬車が到着した。
出迎えに立たされていたステラはその美しい外装に息をのむ。そしてゆっくりと開かれた戸から現れた少年を見て言葉を失った。
真紅の艶髪を後ろで一つに束ね、濃緑色の瞳は物憂げに伏せられ得も言わぬ色香を感じる。程よく引きしまった体躯はこれから先の将来性を多分に期待させるアンニュイな美少年が現れたのだ。
思わず目が釘付けになっていると、その子は数段のタラップを素早く降りその脇に控えると、すぐに顔を伏せてしまった。折角の綺麗な顔が見えなくなり不満がもたげるが、美少年がそうした理由は一つしかなく、ステラは再び馬車に目を向ける。
次いで降りてくるものがあった。おそらく先の美少年は従者なのだろう。貴族の傍付きが見目麗しいのは当然だという常識が一般市民にも広がっているのだ。
斯くして姿を見せたのは襟足だけ伸ばした紫紺の短髪に同色のアーモンドアイをもった猫みたいな少年だった。こちらも先ほどの美少年とは違う系統の整った容姿をしている。
危なげなくタラップを降りながら猫目の少年とステラの視線が合わさる。瞬間、少年は満面の笑みを見せた。
「こんにちは~!君ぃがステラちゃん?」
「ひゃい!?」
独特のイントネーションでかけられた声にステラは思わず変な声を出てしまった。
聴き馴染みのない――ナターシャ曰くエセ関西弁のような――方言に純粋に驚いてしまったのだ。
「ええね!うん!めっちゃカワイイやん!!あ、オレ『ハルマ』仲良ぅしたってや!」
そんな彼女にお構いなしでマイペースに『ニン♪』と笑みを深める少年の名前は『ハルマ・イースン』。
この軽薄そうな少年こそ『星巡り回廊の眠り姫』メインキャラクター最後の一人であり、ステラに先駆けて邂逅を果たしたナターシャ…もといダンデは、初対面の時を思い出して礼の姿勢のまま何とも言えない――苦虫を噛みつぶしたまま口端だけ引き攣ったような――頭痛を堪えた顔を隠していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―――――――……
…―――時は少し遡る。
私は突然ライ爺ちゃんが現れた話を師匠の部屋で報告していた。
「――で、明日庵に来いって言われたの」
「あんのクソ爺ぃ……」
ベッドの縁に腰かけていた私は、目の前で腕を組み立つソウガの表情が徐々に険しくなるのを下から眺めていた。
「はあ……。あの爺ぃがそう言ったなら一先ずそうした方が良さそうだ。何考えてんのか解んねぇから姫さん油断はするなよ!」
「……そんな敵地に乗り込むわけじゃないんだから」
盛大な溜息の後そう切り出した師匠に思わず苦笑い。
毎度のライメイに対する過剰反応に、父様との遣り取りと同類の匂いを感じているのだが、賢明な私はあいまいに笑んだままその真実を闇に葬った。
「それはそうと姫さん。途中、爺ぃに不意打ちされたとはいえ、隠密中にあの対応は減点だぞ?」
いきなり本日の主題を投げかけられて私はウッと息が詰まる。
上目遣いに師匠と視線を合わせれば、お返しだとばかりにソウガが良い顔で笑んでいた。
「うう……めんぼくない……」
しゅんと項垂れると慰めるように師匠が頭をぽんぽんと撫でてきた。
「ま、そこ以外は中々だったんじゃないか?これからも励むように!」
茶化して尊大に振舞う師匠に悪乗りして返事した。何だかんだと私に甘いソウガにこっそり舌を出す。
「……姫さん?」
ズモモモモ!
私の誤魔化しに気付いた師匠が顔を寄せてくる。あははと乾いた笑いで誤魔化…しきれず、頭頂部にげんこつを落とされたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝、ノーサル男爵に挨拶をすると――私は隠れて先に出て馬と待機していた――早々にライ爺ちゃんの庵を目指した。
「おーおー、よう来たな!待っておったぞい」
好々爺然としたライ爺ちゃんが諸手をあげて歓迎してくれた。
「しかし来たばっかりで申し訳ないんじゃが、ちとイースンの屋敷に来てくれんかの?」
「ゲ!」
「イースンの屋敷?」
ソウガは一瞬で顔を強張らせ、私は疑問で首を傾げた。
「ほれ、昨日の嬢ちゃんの件でな。甥っこに諸々頼んだんじゃよ。それでナターシャからも挨拶しておいて欲しいんじゃ」
「それはもちろん!寧ろこっちからお願いしなきゃだったのに……」
「構わん構わん!わしが好きで孫の面倒をみとるんじゃからの」
「爺ぃの孫は姫さんじゃなくて俺だっつの」
「ん、何やら虫がないたかの?」
「クソ爺ぃ……」
私は一触即発の二人の間に慣れた手つきで割り込む。
「ライ爺ちゃん、挨拶に行くのは構わないんだけど、今回私ナターシャとして行動してないからこの格好しか用意してないのよ……」
「なぁに、奴の方から男装のままでと言うておる。気にせんでええ。」
「え!?それはどういうことっ!?」
「ふぉっふぉっふぉ」
あ、これその時になるまで教えてくれないパターンだ。……私は諦念の息を吐いた。
そうこうしている内に支度を済ませたライ爺ちゃんと三人でイースン伯爵本邸へと向かったのだった。
出てきたよ!最後のうちの子!!
用意していた性格とちょっと違う子になってしまって作者滝汗。
ユーリといいハルマといい、振り回されそうな予感……




