波乱のティータイム
前話に短い前置きの話がアップしてあります。
未読の方はそちらからどうぞ。
▶ユーリ・サリュフェル
サリュフェル子爵家の三男。
国教である『ライノス教』司祭の家系。
サリュフェル家の傾向として、一族は主に学者肌で研究思考が強く、気性は穏やか。一つの物事に執着する事が多いため、一分野特化型で成功を修める者を輩出しやすい。
ユーリも多分に漏れずその性質を引き継いでおり、穏やかかつ博愛主義な人格者で周りからの人望も厚い。
学園で出会ったステラの天真爛漫で自由奔放な所を子猫の様に可愛く思っており、友愛と恋情の差を自覚させるのが一番大変なキャラクター。
神秘的な美貌は老若男女問わず人々を惹き付けるが、その神聖なオーラから気安く接してくる者は少ない。
ユーリの攻略ルートでは如何にステラが己にとっての特別な女性であるかを認識させるイベントが多い。クリア後、聖女となったステラを傍で助ける司教となり、二人手を取り合い世界を放浪する旅に出るのだった―――
(ハッピーエンドの場合はね!)
私は昔見た夢の断片を思い出していた。
『うふふ…。……僕の可愛い君』
そう言ってうっとりと舐るような狂気の瞳で私を見つめていた美貌の人。
思わずぶるりと背筋が震えた。
ユーリの破滅エンド、それは恋情を拗らせたユーリに付き纏われ、最終的に誰の目にも触れない屋敷の奥深くに囲われてしまう事。クロードと少し違う所は、ユーリの所業は誰にもバレず、ステラは生涯狂気の虜になってしまう所。
ヤンデレでストーカー化するという厄介な御仁なのだ。
厄介な点はもう一つある。
このユーリ、基本性格により友好値の初期設定が異常に高い。よって興味を持たれたが最後、通常モードでもストーカーの気が出てくるのだ。
ユーリを攻略するのであれば、彼に好意を持って接する訳だから、その行いは『気が利く』『自分の事を理解してくれる』的な受け取り方が出来るけれど、行き過ぎた世話焼きは煩わしいものである。
それが悋気からくるものであれば納得も出来るが、全く悪気が無いというのがぞっとしない。
というわけで、何が爆弾になるか判らないので直接関わる気が全く無かった人物だったのだが……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
自己紹介も終わり、程良く歓談も終え、自由時間となった。
多くの参加者はクロードを取り巻いているが、見事な花園の散策に赴いた者もそれなりにいた。
私は後者。そして同じく席を立ったユーリの後を追って、まずはバレない距離から観察を始めた。
艶やかな萌黄色の髪は下部を縦ロールに緩く巻き、新緑の瞳は太陽を反射してキラキラと萌えている。そこにはけぶるような長い睫が影を落とし、ぷっくらとしたピンク色の小さな唇は瑞々しい果実のよう。
白を基調とした清楚なドレスに身を包み、色とりどりの咲き誇る花々に囲まれた姿は花の妖精…もしくは精緻な人形だろうか。柔らかに笑みを形作る口角からは慈愛すら感じられる。
まごう事無き美少女。それも特級のである。
そうしてユーリを観察していた所にシルヴィアがやってきた。
あれ?何か不機嫌?
「……気に入らないわ!」
開口一番そう宣ったシルビアの頬が膨らんでいる。木の実を頬袋一杯にしたリスみたいで可愛い。
私はその誘惑に逆らう事無く人差し指で柔らかなほっぺたを押した。シルビアは負けじと空気を満たして押し返してくる。
「シルビアはどうしてご機嫌斜めなのかな~?」
子どもをあやす様な語調にシルビアが眉間の皺を寄せた。慌ててごめんと謝りながら苦笑する。
「それで、どうしたの?」
仕切り直して言うと、ちらと後方に視線を送った。
合わせて視線を追うと、その先に見えるのはロンとレイ。ん?何か言い合ってる?
こちらに向かおうとするロンをレイが腕を引っ張って阻止しているような形で何やら揉めている様子だ。
「ロンがナターシャに挨拶したいって言ってるけどどうするの?」
わざわざ確認しに来てくれたらしい。
私はシルビアのご機嫌の在処を問うたんだけれど…まぁいっか。
「そうねぇ…。出来るならこの姿で至近距離から接触はしたくないんだけど、あれ、何やってるの?」
呆れた顔つきのロンと涙目で首を振り続けているレイ。珍妙というか、挙動不審である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「シルビアが取り持ってくれるのなら、俺はナターシャ嬢に挨拶しに行きたいんだが?」
「いや、ムリムリムリムリ!!何あれ、可憐さに磨きがかかって最早女神なんだけどっ!!?」
「整った容姿だとは思うが、シルビアと大差あるか?」
「この剣馬鹿っ!!朴念仁っ!!!あの高貴で清浄な天使のオーラが見えないのっ!!?」
「……眼医者に掛かった方が良いんじゃないのか?」
「ああ、近くで話したい…。でもそんな勇気が持てない俺の意気地なしっ!」
「……好きにしろ。俺はあっちに行くぞ」
「なっ!?ダメに決まってるだろ!一人にしないでくれよっ!!つぅか抜け駆けとか許せるわけないだろっ!!」
「お前、実は面倒くさい奴なんだな……」
―――と、こんなやり取りが繰り広げられていたという。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「じゃあ、放置で良いんじゃない?」
シルビアの大雑把さに苦笑する。それに同意して親友に問い直した。
「あの二人のことはまぁいいとして。シルビアは何に拗ねていたの?」
私に係わる事だから露骨に表現したのだ。構って欲しい時のシルビアの癖だったりする。
「そうよっ!!あの女っ!!私のナターシャに色目を使うとか許せないっっ!!」
言ってキッとユーリの方を睨みつけた。……色目って。
「何を気にしてるのか知らないけど任せて!私がビシッと文句を言ってきてあげるっ!!」
言うが早いか暴走特急シルビア号がゴウっとユーリに向かって走り出した。




