賽は投げられた
長らくお待たせしました><
短めですが、うちの子久々の更新でございます!!
気付けばあっという間に月日は流れ……。
私、ことナターシャ・ダンデハイムは来年10歳になります!
木漏れ日の丘は順調に地域に馴染んでいた。
ベイン男爵主催の孤児院でのチャリティーパーティーも定期的に開催され風物詩となりつつあった。
レイはそんな義父の事業を手伝いながら、サリーさんと共に孤児院の子ども達の面倒も見ている。
ミケルが勉強に積極的になると、共感した子どもたちが次々仲間になり、木漏れ日の丘に集っていた大人集も興味津々に茶々を入れ出したので、偶数日の午前中は寺子屋のようなものを開催することになった。読み書き演算、風土や歴史についてなど、木漏れ日の丘に集う大人たちが講師となり自由にテーマを決めて講義する。
時には子供たちの要望をアンケートしてその授業が出来る講師を見繕ったり、勉強したい分野のグループ分けをして各々取り組んで貰ったり。
息子の様子を見に時々木漏れ日の丘にやってくる、ロンの父親ことオーウェン騎士団長が皆に稽古をつけてくれることもあった。
私はその間に起こった日々徒然を、気まぐれに招集される王様との秘密のお茶会で報告。あくまで世間話として披露していたどれかが気になったのだろうか?やがて木漏れ日の丘に常駐の先生が赴任してきた。
従業員宿舎の新入りは丸眼鏡をかけた白髪の優しそうなご好々爺。マルベックと名乗ったそのお爺ちゃんは兎に角博識で、自然と寺子屋の講師として毎日教鞭を振るうようになっていった。午後は街の人々の相談役として活躍。『マル爺』と呼ばれ親しまれている内に、木漏れ日の丘はすっかり彼のお城になっていった。
木漏れ日の丘に管理者が出来た事で私はまた自由に動けるようになった。
なので、今ではダンデとしてレイやミケル、ロンと一緒にマル爺の授業を受けている。時たまシルビアもそこに加わるのだが、初めてマル爺と対面した時の彼女があんぐりととても驚いていたので、マル爺はお城では有名人だったのかも知れない。……深く考えるのはよそう。
ステラと出逢う予定の貴族学園入学は16歳になる年。その一年前に王国は大寒波に見舞われ甚大な被害が予想されている。……これが私が記憶しているこの世界の流れだ。
当面はこの被害を最小限にするべく、木漏れ日の丘を中心に街の人々と交流していこうと思う。
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今更と思われるかも知れないけれど、ここでクロムアーデル王国の暦について触れさせて頂きたい。
この国には四季があり、季節の一周を一年としている。
春に当たる『花』、夏に当たる『火』、秋に当たる『水』、冬に当たる『星』。
各季節は三か月毎、計十二か月で一年。一か月は三十日から成る。
表記としては【花1-5】【火2-18】【水3-24】の様に【季節(123)-日にち】と書く。
曜日の概念は無い。しかし人々は6日間を一括りとし『1の週』『2の週』という風に呼んでいる。なのでひと月は『5の週』まで存在する。
年末年始に当たる【星3-5の週】と【花1-1の週】は国の定める休日で、この間に祭りや新年の準備が行われる。よって行政や教育機関は【花1-2の週】から【星3-4の週】まで。休暇は各機関が自由に定めて良い。
一年の始まりは【花1-1】、終わりは【星3-30】。
【花1-1】は開花日とも言い、王族が臣民に祝辞述べる国事があり、これをもって新年が始まる。
【星3-30】は終星日とも言い、この日は国民全てが家族で静かに過ごすしきたりだった。
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そして現在は【星3-4の週】の終わり。
兄であるナハディウム・ダンデハイムが寄宿学校を卒業し我が家に帰ってきました。
「兄様!!ご卒業おめでとうございます!お帰りなさいっ!!」
「ただいま、ナターシャ」
私を優しく抱きしめてくれたナハトは御年15歳の立派な青年に成長していた。スラっと伸びた手足、背もグンと高くなり、変声期を越え落ち着いた低すぎない涼やかな声音は歌うように魅力的。社交界デビューした暁にはその甘いマスクで数々のお嬢さん方を虜にする事間違いなしだ。
「……やっぱり学園には進学しないの?」
「ああ。寄宿学校で十分同年代とは接せられたし、…正式に決まってしまったからね。僕も一緒に公務に着く事になったんだ。」
「……開花日に公表されるのでしたっけ?」
「そう。来年からは忙しくなりそうだよ」
兄様が苦笑しながら頭を撫でてくれた。私も何とも言えない笑みが浮かぶ。
―――ラドクリフ・クロムアーデル立太子―――
開花日後はこの吉報で国中が大いに盛り上がる事だろう。
『私はいつまで君のラルフでいられるだろうね…』
ふと脳裏にかつての切なそうに笑うラルフが過った。
「兄様、本年中にまだ登城する?」
「するよ?」
「私も一緒に行っていい……?」
おずおずと切り出せばナハトが目を細めた。
「勿論!ナターシャと居る時間は少しでも長い方が良いからね」
言って差し出された手に己が手を重ねると、兄様は優雅に歩き出した。行き先はサロン。家族団らんが待っている。
近況報告に土産話、尽きる事の無い楽しい話に夢中になった私は、久々に兄様の部屋で一緒に眠りについた。
その日はフワフワと、何だか楽しい夢を見た気がする。
まだ暫く不定期更新が続きますが何卒ご容赦下さいませ。
思った以上に筆者の余裕が無く、執筆って存外のパワーが必要なんだなと実感しております…。
物語的には新章開始です。
更に広がるナターシャの世界をお楽しみください♪




