未来への分岐点
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更新が遅れ気味になっておりますが、活動報告及びあとがきで触れさせて頂きました。
気になる方はご一読下さいませ。
目覚めると部屋が仄かに白んでいた。空気中の塵がキラキラと光を反射している。
(―――朝?)
天井を見つめたままゆっくりと何度か瞬いた。
目尻に引き攣れた感覚。…泣いたのだろうか?指先でなぞればざらりと乾いた感触があった。
何だかとても大切な夢を見ていた気がするが、思い出そうとするほどにその輪郭はぼやけて解けていった。私は頭を振り、気持ちを切り替える。
上体を起こせば馴染んだ気配が横に立っていた。
「おはよう、姫さん。具合はどうだ?」
「師匠おはよう。…熱は下がったと思う……」
言えば大きな手の平が私のおでこにあてがわれた。
大きくうんと頷いてソウガが笑う。ただそれだけの事に何故だか凄くホッとした。
「師匠~……喉が渇いたぁ」
柄にもなく甘えて見せればソウガの片眉がちょっと上がり、面白がるように瞳が細くなる。「へいへい」と気の抜ける返事をしつつも水差しからグラスに水を注いでくれた。
差し出されたグラスを空にすると、ぽんと頭をひと撫でされてグラスを回収される。
「もうすぐ侍女たちが来るから、姫さんは大人しく寝ておくんだぞ!」
「はぁい。」
「あと、大丈夫なようなら朝飯の後にエルバスを寄こすから相手してやってくれ。昨日は執務に手が付かなくててんやわんやだったんだぜ…」
「……面目ない。」
私が布団をかぶり直し目元まで引き上げれば、師匠はニッと笑って姿を消した。
―――程なく、寝室をノックする音が響き、当番の侍女たちが入室してくる。
私の一日が今日も始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
朝食後の時間、師匠の言葉通り父様が部屋にやって来た。隣には私の病人食を運んできた母様。
「ナターシャ、起きて大丈夫なのかい?」
「ええ、父様。…ご心配をお掛けして申し訳ありません。」
「気候も朝晩は随分と涼しくなりましたから、それもあるのでしょう。…貴女が熱で寝込むなんてこれまで無かったから驚いて心臓が止まるかと思ったわ!」
「すみません母様。…でも私が一番驚いていますわ。ですがご安心ください。一日養生したら熱は下がりましたから…。」
私は二人の目をしっかりと見つめてにっこりと笑った。
「…油断は禁物よ!ほら、ナターシャ。母様が食べさせてあげるから、今日もゆっくり養生なさい。」
「あ~ん」と匙を寄こす母様にくすぐったさを感じながら、鳥の雛よろしく大口を開けて受け入れた。
「ほら、あなた。ナターシャは私がこうしてしっかりと看病しますから、しっかりお勤めに励んで来てくださいませ!」
ジロリ。母様の鋭い視線が父様に突き刺さる。
(…父様……母様を怒らせるほど、何か粗相をしたのですか……?)
思わず半笑いで父様を見やると、「う」とか「いや…」なんて口ごもっている父様。でもこうやって気にかけてくれるその気持ちが嬉しくて自然とニヤついてしまった。
「父様、私は本当に大丈夫ですから。…ありがとうございます。」
笑みかければ不承不承に父様が頷いた。
「くれぐれも安静にしているように。もし抜け出すような事があれば、隠密部隊総動員するからね!」
「そんな事しませんし、そんな事に師匠たちを使わないでくださいっ!!!」
まだごねそうな父様は最終的に壮絶な笑顔の母様に追い出された。……帰宅した父様が無事であるよう祈るばかりだ。
「うふふ、ナターシャが素直に甘えてくれるなら、たまには風邪も良いものね♪」
「…母様。私はいつも母様を頼りにしてますよ?」
「そうね。…でも、そうじゃないのよ!」
優しく微笑んだ母様は、私の頬に軽く口づけを落し、軽く抱きしめた後立ち上がった。
「さ、お父様がちゃあんと出仕出来るように、ナターシャは大人しくしているのよ?…お転婆もほどほどにしないと、母様が社交場に連れ回しますからね!」
ツンと人差し指でおでこを突かれる。…母様のマナー特訓……恐ろし過ぎてブンブンと縦に首を振る。それにしたりと笑って母様は退室していった。間際に、
「お昼過ぎにまた様子を見に来るわ。今日一日は安静にしているのよ?」
と再三の釘を刺して。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
太陽が中天に差し掛かった頃、ハンナが私の元へやってきた。
ティーセットを乗せたワゴンを押し、後方にナキアが待機していることから、教育の最中なのだろう。やや緊張した面持ちで給仕していく。若干のぎこちなさで差し出された紅茶の味はとても洗練されていて驚いた。思わず目を見張ると、侍女二人があからさまにホッとした。
「驚いたわ!…こんなに早く馴染んでくれるなんて……」
「ええ、屋敷付きに出来ないのが勿体無い程、彼女は努力してくれていますわ」
ナキアが太鼓判を押してくれた。ハンナは俯いていたたまれなさ気に縮こまっている。
「この調子なら研修も早く終われそうね。」
「…少しでも早くお嬢様のお役に立てるよう努力いたします」
深々とハンナが頭を下げる。そのまま「少しよろしいでしょうか…」と呟いたので、視線でナキアを下がらせてから許可を出した。
「どうしたの?」
「いえ……息子のミケルがダンデ君にどうしても渡したいと手紙を認めまして。」
「ミケルが私に?」
「はい。直接お見舞いに行きたいと騒ぐもので、手紙を送る形で納めました。……お渡ししてもよろしいですか?」
「勿論!受け取るわっ!!」
手渡された手紙――ただ四つ折りにされただけの白紙――をいそいそと広げた。
―――――
ダンにいちゃんへ
ぼくをたすけてくれてありがとう
ねつをだしたとききました ママもねつをだすといつもくるしそうです
ダンにいちゃんがくるしいのはかなしいです
ぼくがなおせればいいのにとおもいました
そうしたらママがつらいときもだいじょうぶになります
だからぼくはおいしゃさまになろうとおもいます
げんきになったらまたいっぱいいろいろおしえてください
ミケル
―――――
目尻が下がった。心がポカポカ暖かい。
「ねぇ、ハンナはこれ読んだの?」
「はい。分不相応な夢ではございますが、母として息子の気持ちを嬉しく思います。」
慈母の笑顔でハンナが言う。
復讐の手段としてではなく、当初の『母を助けたい』という優しい気持ちのままミケルは将来の夢を思い描いた。その気持ちを大切にして欲しい。
「分不相応なんかじゃない。ミケルが望む限り、私は彼の夢の応援をするわ!」
「勿体無いお言葉です」
困り笑いのハンナには申し訳ないが、私は本気だ。
これでミケルへの大義名分が出来た。
ミケルにはこれからしっかりと学習してもらって、貴族学園に特待生として入れるだけの素地を作らなければならないのだから。
(ベイン男爵にお会いしなければ。…あと、オーウェン騎士団長にも。)
少しずつ晴れ間の見えてきた未来に心浮きたつ。
私は今後の予定を頭に思い浮かべながらも母様の顔を思い出し、いそいそと布団に潜り込んだのだった。
読者様、いつも応援ありがとうございます!
活動報告に少し述べさせて頂きましたが、筆者、秋口は仕事が忙しく、
夏の更新頻度を保つことが出来ません。
終わりまで駆け抜けるべく、暫く無理の無い連載ペースで更新していきます。
更新時間のバラつき、感想返信の遅れなど、読者様にはご不便をおかけしますが何卒ご理解いただけますと幸いです。
遅くとも2~3日に一話はUPするつもりですので、気長に更新確認して頂けたらと……。
よろしくお願いいたします!!




