領主のお仕事②
本日でまるっと一か月連続投稿を達成しました!わ~ぱちぱちぱち!!
自転車操業でヒーヒー言っておりますが、読んでくださる方がいるという現実を力に
もう少し頑張って生きたいと思いますっ!!
ブクマ&評価、多謝です!!
深夜。
家人が寝静まった頃を見計らって、こっそり私室のランプに火を灯す。
「姫さん、眠れねぇの?」
すかさず現れた師匠に苦笑い。…そうでした。常にない事をすれば出てきますよね、このお方が。
「ごめんなさい、休息の邪魔して…。ちょっと兄様の課題を私も読みたくなっちゃって。」
「ああ、なるほどな。…ちょっと待ってろ」
言って師匠の姿が消える。毎度思うが、未だにどこに潜んでるか分かんないんだよねこの人。そしてどっから出入りしているのか…。謎。…いつか絶対影のルートも教えて貰わなければ。などと益体の無い事を考えていると、
「はいよ、姫さん。これだろ?」
あっという間に戻ってきた師匠がサイドテーブルに資料束を置いた。
(…どうやってその量を抱えてきた!!?)
声には出さない。謎はいずれ自分の手で明かして見せる!!
「…ありがとう。」
寝室から出て侍女たちが起きてきたら厄介なので、サイドテーブル近くに腰掛け、パッパッと速読していく。ああ、久し振りのこの感じ。カチリと脳が仕事モードに切り替わる。…一頻り目を通し、目頭を抓む様に揉み解しながら盛大な溜息が落ちた。
「ふぁ~!…なるほどねぇ!!」
私が知っているのはうちの子たちの生い立ちとイベント情報、簡単な世界の概略。サブキャラの断片情報くらいで、そこに至った細かい経緯は分からないことの方が多い。ましてモブなど風景の一部なのだから、そこに息づく個人の生活など取り上げていたらとてもじゃないけどゲームになんか出来ない。
だから私は『ミケルの母が貴族に酷使され死んだ』ことは知っていても『働き先の貴族』は知らなかった。
偶然でも初めてダンデとしてミケルと遊んでいた時にハンナと話せたのは恰好の機会だった。『ケルティッシュ男爵』という名前を知る事が出来たから。
王都帰還後、私は父様に領の管理体制について質問した。その中でケルティッシュ男爵にも触れてみる。そしてバザールや領都での個人的な感想を報告した。
父様は何か思う事があったのだろう。
そうして出来上がったのがこのうず高く積まれた書類。
内容は領内における不正の記録だ。どう見積もっても、北の収支だけ金額がおかしい。特にこの数年での差異は著しいものだった。
後半は民に対する横暴の証言記録。
権力を笠に着て、周辺の街や自領でやりたい放題のようだった。それは家臣にも伝播する。随分とお行儀の悪い配下を抱えているようだねぇ。
そもそも私が今回父様にお願いしていたのは、ミケルとハンナを私の元に引き抜きたいという打診だった。個人的にケルティッシュ男爵を調べた結果、使用人たちの扱いがブラック企業も真っ青だったからだ。しかも、妹が降嫁した先の商人がケルティッシュ男爵の後ろ盾を得て、北の市場を不当に買い占めた。その噂が領都にも届き、目を付けられまいと領民は怯えていたのだ。
たった一家とその関係者のお馬鹿な振舞いのお陰で、領での貴族のイメージが悪くなったという。許すまじ、ケルティッシュ男爵!!!
と、この程度だった私の先を領主様は爆走していたようです。
「父様は何でずっと放っておいたの?」
「…あっこの前領主から仕えてる家令のじいさんがすげ~やり手でさ。代替わりしてからず~っと、何とか主人を諫めようと手を尽くしてたんだ。実際その時はまだ男爵の自領の民に対する振る舞いも貴族には有り体でさ、厳重注意程度で済んでた。ほんでこれまでエルバスに上がってくる報告も数字上おかしな部分は無かった。視察の時にも目立った部分は無かったしな。…でもさ、じいさん齢で死んじまった。三年前の話だ。」
「それで、男爵を諫める人間がいなくなった……」
「ああ。自分とこの財産を好き放題使い続けた。たった一年で使い潰すとかマジスゲーよ。でも無い金は突然降って湧いたりしない。贅沢もやめられない。だから――」
「領民から不当に搾取し始めた」
「そゆこと」
聞けば聞くほど頭の痛い。馬鹿以下だろこの男爵は。
父様はこの数年証拠集めに勤しんでいたらしい。
新たに北を任せる人物の選定も必要だった。父様は領民の被害に歯を食いしばって耐え準備をしてきた。
(…しかも金蔓の為に嫁がせた妹の夫である成金商人に巧く利用されていて、本人気付かぬうちに中々エグイ罪状まで付いちゃってるよ。これはもう破滅待ったなしだな。)
今回は逃げられようもなく『クロ』の証拠しかないから父様も兄様に振ったと。――成人前の子どもにやられるとか屈辱でしょうよ、狙ったな父様。
そして私が気にしていたミケル親子との繋がりにも気付いた上で、更にあの計画にちょうど良いとでも思ったのだろう。
「…お膳立て、か。御見それしました、父様!」
私がベッドに仰向けに倒れると、ソウガが誇らしげに笑った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日。
領都から一番近い北の街に視察に出かけた。
人々に覇気は無く、その眼は虚ろ。
自分たちの食い扶持すら搾取され、民は瘦せ衰え、働く気力も湧かず力なく座り込む日々。
商店に並ぶ日用品には馬鹿高い値札が下がっている。こんなの買えるわけないじゃん!
聞けば例の豪商が、北の収入源である木材はタダ同然で買いたたき、自分の所の商品を高額設定して各店舗に販売するよう強要しているのだとか。
もう感情的になる気力もない人々が淡々と惰性で答えてくれた。それでも生きねばならないから。だが限界はそこまで来ている。それだけは明らかだった。
私は帰るとすぐさま兄様に現状報告へ向かった。
配給部隊を編成し、暫く北に物資を運んで貰う事にする。治安維持の為に領の衛兵も数隊常駐して貰えるよう手配した。
「こっちも準備出来たよ、ナターシャ。この書類は北のケルティッシュ男爵の不祥事の記録さ。男爵にはその位を退いてもらわねばならない。
…さっき父上からの連絡を受けた。北の管理には男爵の甥を付けるそうだ。先に亡くなった家令の娘婿になっていたらしい。家令亡き後夫婦揃って東の隣国へ飛ばされてたんだって。」
「それでどうするの?」
「さっきユージンが連れ戻しに旅立ったよ。今回父上の文官である彼が一緒に来ていたのは、この課題のサポートをする為だったんだって。ナターシャが戻る少し前に漸く一通り纏められてユージンの合格を貰ったら、父上からの手紙を渡されたよ。」
兄様が力なく笑う。
それと一緒にケルティッシュ男爵からお茶会の招待状が届いているらしい。どこから聞きつけたのか、ラドクリフ殿下も是非にと書いてあった。
「彼の男爵は娘をどうしても私たち王子の嫁にしたいらしいね。両方に節操なく縁談アピールしてくるものだからいい加減鬱陶しかったんだよ。」
あ、それで着いてきたのねラルフ。私はてっきりく~ちゃんが私の誕生パーティーに乗り込んできた元凶に、私が突撃する予定を見越して物見遊山に来たのだと思ってたよ。
「私がナターシャと親しくなるきっかけをくれた事には感謝しているけどね。…それで弟が危険な目にあったのとは話が別だよ」
あ、知ってましたか。ですよね~。
とってもにこやかにラルフが教えてくれましたが、私がナハトの野犬イベントに躍起になっていたあの時期、王宮の王子たちの寝所には毎夜見知らぬ令嬢が侍ってきていたらしいよ。10歳と5歳の少年に。何それ超ホラー!!
あ、私そんな事も知らずラルフに添い寝とかしちゃったけど!?トラウマスイッチ押したりしなかった!!?配慮がから廻ってごめんなさい!!!
え?それは全然構わない?むしろいつでも来て良い??何でだ。…解せぬ。
「馬鹿王子の話は耳に入れなくていいよナターシャ。
父上の指示でね。そのお茶会をぶち壊してこいとの仰せだから、派手に毟り取ろうか?そうしたら、北の領民の援助の足しになるよね☆」
…どこのヤ〇ザですか兄様。冷笑が様になり過ぎです!!
―――――というわけで。
やって来ましたケルティッシュ男爵邸。
この日出入りのあった人間は後程厳重な調査対象になります。ご愁傷様。
捕縛の衛兵は配置済み、令状も発行済み、切り札はまもなく到着予定。
最後の晩餐ならぬ最後のお茶会です。
精々楽しんで頂きましょう!
私は左にラルフ、右に兄様それぞれの腕に手を添えて、皆で仲良く男爵邸に突入。
その後の顛末は語るまでも無いよね…?
エルバスパパは伊達に宰相補佐じゃないよねって話。




