知らぬが仏
すみません(><;)今回も短いのですが、キリが良かったのでそのままにしました。
その分続きを少し早めにあげられたら良いなと思っております…。予定は未定。
ブクマ&評価ありがとうございます!!更新の活力です!!!これからもよろしくお願い致します☆
王都の東に位置するダンデハイム領。
伯爵家ながら公爵家よりも広大な領地は、建国時よりダンデハイム一族が管理していた。
しかしながらあまりの大きさに領主のみでは目が行き届かず、領地を東西南北に分け、古くからダンデハイムに仕える分家にそれぞれ管理を任せていた。
領地全ての長であるダンデハイム伯爵家は、領地西側にある領都を拠点に領地全体のまとめ役を担う。
北のケルティッシュ男爵家。領土の最北には北の隣国とを隔てる険しい山脈が聳え、麓にも広大な森が広がっている。昔から樵が多く住み、民は林業で生計を立てていた。
東のイースン伯爵家。北から続いて東端に広がる細長い森が東の隣国との国境になっているこの地は、建国時から王国領土を隣国より護る重要な関所であった。イースン伯爵家はダンデハイム分家筋の中でも『武』に秀でた一族である。
この国が建国して間もない頃は動乱の時代であった。東の隣国からの侵略を退けた当時のダンデハイム家三男が騎士爵を奉職されたのに始まり、度重なる武功によって最終的に伯爵位を授けられたという稀有な経歴を持つ。ダンデハイム家隠密部隊はこの伯爵家によって養成されていた。
南のサジウル男爵家。南端にはぐるりと海が広がり、入り組んだ入江が多く存在する天然の要塞めいた港町だ。その内比較的幅の広い場所を船着き場とし、整備して大きな港となった現在は、他国との貿易の玄関口として機能していた。この港町から領都までは大きな街道が整備されており、――それは荷を積んだ馬車が軽々四台は通れる幅の一本道で――流通も活発な為、領都のバザールには毎日のように物珍しい商品が並んでいた。――東からも陸路で商隊は訪れるが、港を経由した方が早いため最近では専ら海路の利用が主だ。
いずれにしても流通の全ては領都を経由せねばならず、故にダンデハイム領は非常に栄えた領地であった。
生計を立てられるだけの産業があるだけ恵まれているはずなのだが、北の当代ケルティッシュ男爵は非常に面白くなかった。元をたどれば同じ祖であるにも関わらず、東では家格で劣り、南はこの世の春の様に栄えている。それなのに峻険な山脈を北端に持つ我が北の地は、常に影が差しているようで陰気臭くて仕方がない。土着の民が無愛想な樵ばかりというのもそれに輪をかけていた。
その思い込みからだろう。ケルティッシュ男爵は幼少の時分から華やかなものにとても憧れた。
長男であった為家督を継いでからは権力の行使に歯止めが効かなくなり、浪費三昧で贅沢に溺れていた。
しかし財産は有限だ。暴食で食潰せばすぐに底をついてしまう。
男爵は手始めに妹を、最近力をつけてきた成り上がりの豪商へ嫁に出した。
この豪商は裏でアコギな商売をすることでのし上がってきた人物であった。だが、羽振りが全ての男爵にとってそんな事は些末事である。
豪商は更なる事業拡大により王都へと拠点を移していった。
そして王都で暮らす妹から、ある日こんな手紙が届いたのだ。
『王家が殿下二人の婚約者選定を始めたという噂が実しやかに囁かれている。実際、ダンデハイムの息女もその候補に入っているとの話だ』
男爵は衝撃を受けた。そして夢見てしまった。
自分の娘が王子の妃となり、殿下の義父として最上の贅沢を手にした自分を。
「本家の息女が候補になるならば、分家である己の娘もダンデハイムの娘として当然婚約者候補に相応しいはずだ」と謎の超理論で王子に取り入ろうと画策しだした。
そうして年に二回開かれる王家主催のパーティーに何とか参加したケルティッシュ男爵は、王子兄弟の内、より幼く操りやすそうなクロードに狙いを定め、挨拶の取り巻きに紛れてクロードに近づき囁いた。
「婚約者として最有力はダンデハイムの娘。彼の娘なら間違いないだろう」
(そして自分の娘を妃に。私はしがない男爵の衣を捨て、最高の老後を手にするのだ!!)
彼は知らない。この囁きにより、曲解したクロードが彼のパーティーで暴走したことを。
彼は知らない。この囁きが誰とも知れない人の口を渡り、尾鰭背びれついでに羽まで生えて飛び立った結果、水面下で婚約者候補権争奪の泥仕合が繰り広げられた事を。
彼は知らない。焦った貴族連中の差し金で、年端もいかない王子たちにハニートラップを仕掛けようとする輩が後を絶たず、王子たちが一時的にダンデハイム領に匿われていたことを。
彼は知らない。可愛い弟が危ない目にあう元凶となった人物に、兄であるラドクリフ殿下が絶対零度の怒りを覚えていたことを。
―――彼は知らない。
ミケルの母、ハンナの死の原因となるのが、領都ケルティッシュ邸に住まう己であるということを…。
そう。ケルティッシュ男爵は何も知らないまま。
うちの子の悲痛な未来をデリートすべく、今全ての準備を整えた少女が、勇み足で男爵領都邸に現れたのだった。
エスコートにナハトとラルフを従え、目がチカチカする成金ホールへと進んで行く。
(さあ、楽しいダンスを始めましょう!私と踊ってくださいましね、ケルティッシュ男爵…)
暗躍するご令嬢の戦いのゴングは静かに、誰に聞かれることも無いまま鳴らされたのだった。




