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蛇は獲物を逃さない

前話同様短くてすみません><

「……そ、それでハルマ様? 本日は何か火急の知らせでもあったのですか?」


 ダラダラダラダラ


 なぜか突然集中した高密度の殺気に息を呑み、貼り付けた笑顔のまま立て直すのに数秒。

 背中から流れる冷や汗はそのままに浅い深呼吸で気を取り直すと、なるだけ自然を装ってハルマに本題を切り出した。

 ハルマはダンデハイムの寄り子であるイースン家の子だ。もしかしたらイースンの名代としてやってきたのかもしれない。


(まぁ、それなら先に影たちが動いてるだろうけど……特に報告もないから大事では無い、はず……?)


 私は出来るだけゆっくりと目の前のティーカップを口元へ運び、その間に思案を続ける。飲み頃になった温かいお茶が喉を下っていく感覚にほっと気を緩めながら、何かあるから家内がこんなに殺気立ってるのかしらと見当をつける。

 チラリと見やったハルマはハッとしてバツの悪そうな表情を浮かべ、俯いてしまった。握り込んだ拳が微かに震えている。


(う~ん……何やら深刻そうではあるのよねぇ)


 入室時のハルマの様子を思い出して眉が下がった。

 困っているのは間違いなさそうだから、出来る事なら助けてあげたいのだけれど……。

 意を決して言葉を紡ごうとしては失敗を重ねているハルマの様子を見守りながら、根気強くその時を待っていると、けたたましい音を立てて応接室の扉が開いた!


「失礼、イースン家のご子息はこちらかな?」


 扉が木端微塵に吹き飛んだんじゃないか!? ってくらいの異常な音とのギャップも激しく、静かに優雅に気品漂わせた兄様が出入り口に立っていた。


「に、兄様っ!!?」


 驚いて振り返った私同様、ハルマも目をまんまるにしてる。


(あ~、ハルマのあの顔……今まで真剣に考えてた言葉も吹っ飛んだわね。全くどうしてくれるのよ兄様!)


 私の胸中など知る由もない兄様が横切るのを気付かれないように睨みつける。堂々と歩を進める兄様はそのまま私の隣に腰掛けた。ずっと目で追っていた私ににっこり笑いかけて正面を向く。その瞳にはしっかりとハルマが映り込んでいた。


「どうも初めまして。ナターシャの兄のナハディウムと申します。イースン卿のご子息のハルマ君で間違いはないかな?」

「え、ええ……はい……」


 困惑のまま返事をしたハルマに兄様が頷く。私も顔にハテナを浮かべて成り行きを見守った。


「君とは初対面だけど、私は随分長い事リューキ師範の下で稽古をつけてもらっていてね。いやぁ驚いたよ。師範がいきなり私の執務室に乗り込んできたんだ」


 兄様の朗らかな声に反して物騒な内容に私とハルマがギョッとする。

 兄様は此処の所王城に泊まり込みで働き通しだった。ええっと……兄様のお城での執務室って確かラルフと同室よね? え!? リューキ小父様アポも無しに王太子の執務室強襲したの!!?


「聞けばハルマ君が家を飛び出して? 我が家に向かったと? 家人も理由がわからないから確かめてきて欲しい? なんて言うじゃないか」


 おおぅ兄様……。文節ごとに語尾上がりとは大層ご立腹のようですね……。そりゃそうか。ここ最近の騒ぎで通常業務が押していると言っていた。そんな時に面倒事を押し付けられたのなら苛立ちも仕方ない。……というか家人も知らない? じゃあハルマは独断でやってきたってこと?


 漸く得られた進展に私は食いつく。兄様の言葉にハルマが苦悶の表情で再び俯いた。


「申し訳ないが、私はこれでも多忙の身でね。君に割く時間も惜しいんだ。手短に訪問理由を教えてくれないか」


 にこやかに圧。

 物腰柔らかなのに圧し掛かる空気圧が半端ない件。

 その圧を一身に浴びせられて否と言える猛者はいないと思う。


 案の定、途端に姿勢を正したハルマがしどろもどろながらに話し出した。完全に蛇に睨まれた蛙です……可哀想……。でもごめんねハルマ。私、荒ぶる兄様には極力触れたくないの!


 ハルマが思い付くままに心情を吐露していく。

 整然とは程遠い語りの為、兄様も全容を掴むために聞きに徹している。しかし聞けば聞くほどに眉間にしわが寄っていくのですが……。に、兄様の限界が近い!

 吹き荒れるダイアモンドダストへのカウントダウンを感じた私が恐怖に慄いていると、漸くハルマの話が尽きた。


「くだらない」

(間髪入れず兄様がドスのきいた呟き吐き捨てた~~~~~!!)


 ビシリと固まる私。

 対面のハルマには届いていないようで、一仕事終えたとばかりにお茶で喉を潤している。


(いや確かに要領を得ない話だったし、結局はハルマの個人的な葛藤? て所で家に来た意味も解らないままだけれど! ハルマ、逃げてーーーーー!!)


 お茶で一息入れたハルマが顔を上げ、私の心の声が届くはずもなく兄様とハルマの視線が合わさる。


「ふむ……。どうやら君は随分と甘やかされているようだね。いくら家督は兄君が継ぐといえ、あまりにもお粗末が過ぎるのではないの? そんな理由で仕事の邪魔をされたなんて詫びの言葉なんかじゃ到底足りないんだけど?」


 足を組み、指を絡め、そこへ顎を乗せ前かがみになった兄様がそれはもう綺麗な笑顔でハルマをすっぱり切り捨てた。

次回の更新は8月16日19時頃の予定です。

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2020/6/26
あの、中年聖女がリターンズでございます!
新作☆中年『トーコ』の美食探訪!その二の巻
今日も元気だビールが美味い!~夏といえばビールでしょ~

+++

こちらも引き続きよろしくです☆

唸れ神那の厨二脳!
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今日も元気だビールが美味い!

宜しければ是非応援してください☆
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