藪を突いたら飛び出した
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ステラへのあれこれが片付き、漸く一息つけるようになった夕暮れ。ダンデハイム家の自室でのんびりとお茶を頂く私の下に侍女が風雲急を告げた。
(ハルマが訪ねてきたぁ!?)
思わず飛び出しそうになった素っ頓狂な声をむぐっと呑みこみ取り繕いながら、私は優雅に了承して微笑む。訪問者と面会する事を伝えるとサッと侍女たちが支度に動いた。それに抵抗せずゆったりと身を委ねた態度に反して私の脳内は騒々しい。
(え? え? どういう事!? そんな兆候なかったわよね!!? 用件に全く見当がつかないんだけど、どうしたらいいの!!!??)
これまで極力ナターシャとハルマが接触しないように振舞ってきた分、予測がつかなくて混乱する頭をどうにか振りきって私は応接室へと赴いた。うっかり生唾を呑み下す音が小さく鳴ったけれど素知らぬ顔で侍女が応接室の扉をノックするのを見つめて、私の到着を告げた侍女は静かに扉を開いた。
使用人たちが揃って恭しく道を譲り、私の視界が開ける。
(ええい、ままよ!)
見えた応接セットへ焦点を結び、意を決して踏み出すとオートでお嬢様モードが発動した。最早手慣れたもので、うっすらと微笑が浮かぶのを感じながら楚々と入室した先にいたハルマと視線がぶつかる。
私の眼に映った少年はいつもの自信は何処へやら。何とも寄る辺なく頼りなく覇気のない姿に一瞬で警戒心が吹っ飛び、内心苦笑してしまった。むくむくと老婆心が込み上げる。
(あ~も~、こんな顔されたら構うしかないじゃない……)
虚空に言い訳を放ち、気持ち新たにハルマと向き合った。挨拶の為に立ちあがったハルマときちんと目を合わせて微笑み、流れるように礼をとる。
「ようこそお出でくださいました、イースン様。さ、どうぞおかけ直しください。ご用向きをお伺いしますわ」
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肖像画の君が滑らかに動き微笑む。
学園ではどこか希薄で捉えられない想い人が、今は間違いなく自分だけを見つめている事に気づいてハルマの血が沸騰した。掌が汗ばむ……いや、冷や汗だろうか?
憧れの君との対面という想像以上の衝撃に目を白黒させていると、ほんの少し眉尻を下げた彼の君がそっと近づいてきてハルマの手を引いた。
サラリとした令嬢の感触に先程の手の湿りを思い出して恥ずかしさに引っ込めたいのに、ガチガチに固まったハルマの身体は思考とスッパリ分断されてしまったようでピクリとも動かない。
為すがままソファに座らされて姫君の体温が離れる。それが残念なのか名残惜しいのか、むしろホッと息をつけたような自分でもこれと決められない坩堝の中視線だけで気配を追うと、対面に腰かけようとしていた彼女と目が合った。ふふっと可憐に笑まれる。
(ふふ、ってなんじゃそれ、天使か! いや女神やったわ)
自宅だからだろう。ナターシャ嬢はドレスというよりワンピースに近いシンプルな装いで、装飾の少なさにより彼女の美貌が一層引きたっている。
瑞々しい可憐な唇が二三開閉すると瞬く間に芳しいお茶と上品な菓子が並べられ、用意に動いた使用人たちへごく当たり前に礼を述べる様は板についていて、言われた側も恐縮するでもなく主従で微笑みあっているのだから、これがここでの日常なのだと大いに知れた。
イースンの屋敷も使用人たちとの仲は良好だが、格上に対する敬意が非常に濃い土地柄故に規律にのっとった緊張感が拭えない。
だからこそまるで異世界に来たような優しい空間に頬が緩んだ。
「イースン様、そんなに見つめられると穴が開いてしまいます……」
目を伏せ頬に手を添え恥じらう乙女。
(せやせや、これこそオレの求めていたもんや!)
眼前に理想の世界を見つけてハルマの気が少しばかり持ち上がると、見計らっていたかのようにナターシャ嬢が口を開いた。
「こうしてきちんと向き合うのは初めてかも知れませんね。同じ学園だというのに不思議な気分ですわ。改めまして、ナターシャとお呼び下さいませ、イースン様」
ふわりと解けるほろほろの砂糖菓子みたいな笑みと共にナターシャ嬢が軽く会釈する姿に見惚れて意識が飛びかけるも、すんでで我に返ったハルマは衝動のまま身を乗り出した。
「光栄です、ナターシャ嬢。でしたら是非、オ…私の事もハルマとお呼び下さいっ!!!!」
ズズイっと前のめりになったハルマにほんの少し驚いたナターシャがくすくすと笑いこぼしながら「よろしくおねがいします、ハルマ様」と自分を呼んだ。
ただそれだけの事なのに心臓がきゅっと高まる。腹から込み上げる衝動。歓喜にうち震えるとはこういうことではないのかと目を輝かせたハルマは思う。
それを影から見ていたソウガは面白くないと鼻を鳴らした。
イースンは代々ダンデハイムに仕える家系だ。その血が否応なく主家に反応する。
直系で血の濃いイースンの末子が案の定、主家直系の姫さんに秒で陥落するのは予定調和。しかし、若さゆえか忠誠心を捉え違えている気配を察してしまった。
勿論気付いたのはソウガだけではない。
姫様大事のこの屋敷中が応接室へと意識を集中させているなどハルマは知る由もなく。
自身の方へと瞬時に集中した大量の殺気を捉えたナターシャは、用件を切り出そうとした息をヒュッと呑みこんだのだった。
次の更新は11日の18時予定です!
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