猪突、迷走
ブクマ&評価くださった方、ありがとうございます(T△T)
引き続きハルマ視点です!
オレは今まで家族に滅多打ちにされて育ってきたから、挫折も知る柔軟な心身を育んできたと思うとった。でもそんなんガキの戯言でしかなかったんやてようやっと気付いた。
ほんのちょっとの油断、慢心。
それが取り返しのつかない状況を生むんやと身を以て思い知ったのは、今の今まで一緒におったステラが目の前でかどわかされた時。
しかも一番に気付いたのが自分じゃないっちゅう状況、何もかもに出遅れた後でという何とも情けない状態になってからやった。
確かにオレは有頂天だったんかも知れん。
学園で襲撃された時、いの一番に異変に気づき対処する事が出来たし、――未だ家族には勝てんけど――周囲には十分すぎるほどオレの力は通用することが解ったし。
オレってやっぱり格好ええんとちゃう? なんて自画自賛しながら、オレが近くに居ればステラを護る事なんか朝飯前くらい大きくなっとった。
その結果がこのザマや!
あいつの周りが危ない事もババア共から散々聞いとったし、実際危険な目に合うたのも学園での騒ぎで一緒に体験した。そしてオレは思うたわけや『何やこんなもんか。大げさに言いすぎやろ』ってな。
あかん事に、実際襲撃に対処出来てしもたもんで一層思い込んだわけや。『オレ一人で十分に賄える』と高を括ってしもた。
そんなオレの気の緩みが何を齎したかって言えば、まざまざとステラを連れ去られ、怯え泣くステラをオレじゃない野郎が介抱しているという現実と、そんなステラを救いだしたのがあの――ステラが妙に気にしとる――ダンデだという事実やった。
オレがアホ面晒してる間にステラが襲われ、突如慌ただしくなった他家の様子にようやっと状況を把握し、現場へ駆け付けた時にはもう事態は終わっとった。オレの知らんとこで、全部。
イースン家の馬車が飛び出したベイン家の馬車に追いつくと、弱々しく震えながら涙の痕を残したステラがレイモンドに縋りついていた。下心なんか見えん心底気遣った風のレイモンドはそんなステラを優しく抱きとめて背中を撫でさすっている。
それを見止めた瞬間、全身の血が沸騰した。そして心中が叫んだ!「そこはオレの場所や!!」って。ほんで驚いてしもた。自分の叫びに、オレ自身が戸惑ったんや。
そうこうしとる内にオレに気付いたレイモンドが事の次第を説明してくれて、実際にステラを救出したのが颯爽と現れたダンデやと知った。
オレは頭を巨大な鈍器で殴られたかと思うた。
それこそ、オレの望む立ち位置だったはずや。
大した信念も無くステラの守護者を気取っとったオレは、自負の尽くを奪い取られて目の前が真っ暗になった。
(少なくとも、震えるステラをまっ先に保護するのはいつだって自分やと思うとった……)
非情な現実にオレは奥歯を噛みしめて拳を握る。
起こった事は戻せないし、終わった事には口も手も出せない。だから後悔をぐっと呑みこんで反省し次へ活かさなければ。
ともすれば叫び出したい衝動へ瞬時に蓋をしたのはそんな思考だった。
(ここへきて日頃の鍛錬の成果を感じるなんてな……)
思わず自嘲が零れる。―――もはや守護者などという大言壮語を吐く気は失せていた。
ならばせめてステラの一番の理解者であろうと何とか気分を奮い立たせた数日後、最後の砦すら木っ端微塵に吹き飛ばされるなんて誰が思うたやろか。
「……アーシェがユーリとステラを醜聞から護ってくれたんだ」
オレがステラを慮っているつもりでその実、自己中心的に自分の心を取り戻すのに必死になっている間に、真実、丸ごとステラを護ったのはダンデハイムのご令嬢であるナターシャ姫だったのだ。
話を聞いた時、オレはその配慮と心根の素晴らしさにナターシャ嬢に惚れ直した。何て素敵な姫君だろうかと陶酔したほどだ。
けれど時間がたち冷静さが返ってくると、頭が冷えるどころかオレの顔色は青ざめていく。
オレはステラを護ろうと確かに思うとった。
でも思い返してみればオレはいつだって自分の事しか考えてへんかった。オレが護ったんはオレだけ。
(一番大事なステラの心を護ったんは全部他人やんか!)
降りかかる火の粉を払い、火の種を未然に消化し、転ばぬよう手を差し伸べ、時に成長を見守る。それが出来て初めて守護者を名乗る資格が得られるのではないか。
命令されて、お膳立てされた上で出来るつもりになっていた未熟な自分に気づいてしまったらもうどうしようもなかった。
(オレが信じとったんは何やったんや!!!!!!)
衝動的に家を飛び出し辿り着いたのはダンデハイムのお屋敷前。
息も整わぬまま、約束も無しに、オレは重厚なノッカーを打ち鳴らした。
―――何て事は無い。
原点回帰することで信念を取り戻したかっただけだ。
あの最初に感じた震え高ぶる気持ち。護るべきものを手にした陶酔感。真摯に相手を恋う強い感情。
(それらを齎してくれたオレの姫に会いたい……)
そうしたらきっとオレはオレを取り戻せる。
藁にも縋る思いやったとはいえ、あまりに無作法に駆け付けたオレでも邪険に扱わず、屋敷の人間は楚々と応接間まで案内してくれた。
丁度良い硬さのソファに身を預けると――本来ならひとこごちつくのだろうが――段々と緊張が増していく。
……やがて開いた扉から現れたのは待ち人―――麗しのナターシャ・ダンデハイムがこちらを向いて眩しい頬笑みを浮かべた。
書いていて、この子も結構な脳筋だったんだなって思いました(笑)




