ハルマのベクトル →
お待たせしました><;
なんちゃって方言が大量投下されております。広い心とニュアンスで読んで頂けたらと……(;^ω^)
オレの名前はハルマ。ハルマ・イースン。
イースン家の末子で、上には年の離れた兄貴とおっかない姉貴が二人おる。
更にその上に君臨する最恐のおかんと筋肉馬鹿力な親父に支配された我が家は所謂名門と言われる部類の由緒ある家柄で、古くから『武』に特化しとった。
何せ建国から成る武門一族という筋金入りや。蓄積された歴史技術はぜぇんぶ武略に関する事ばかり。しかもその家風は廃れることなく脈々と受け継がれとる。
そんな背景なもんやから、『力が総て』を地でいく我が家において最弱のオレの人権は無いに等しい。
日々課される鍛錬――という名の拷問――に耐えながら、下剋上を夢見て幾たびも目上の者に挑んでは返り討ちにあう内にオレは悟った。―――家族内の上下関係が覆ることは無いと。
努力なら文字通り血反吐吐くくらいしとる。
でもな、よく考えてみ? オレより長く生きとるババアどもはその分だけオレより長く研鑽を積んどるわけや。オレかてイースン直系の端くれ、才能だってある。せやけど同様の素質なら、そりゃあより鍛錬した方が強いのは道理。そして絶望的な事にその差は絶対に縮まらんときた。唯一の希望を見出すなら老いかと思うが、うちの精鋭と呼ばれとるじじいどもを見とるとそれも怪しいと思とる。
そんなわけで、暗雲しか見えない未来にオレは割と早々不貞腐れた。せやかて負けを認めるのは悔しいから鍛錬はちゃんと続けた。燻った気持ちを発散させるのに身体を動かすのは丁度良かったのもある。まぁ反抗心がなくなることはなかったけど。
そんなある日、オレは親父の執務室――という名の訓練部屋――で大事に隠された肖像画を見つけた。決して奴の弱みを探しとったとかではないねんけど、すわ浮気かとウキウキしながらその絵を手に取ったわけや。
―――広げた紙面には大層可憐なお姫さんがおった。
うちの勝気ガチムチ鋭利な女どもとは全く別次元に住んどるとしか思えんくらい、儚げ優し気華奢な少女が微笑んでいた。年の頃はオレと同じくらいだと思う。でもオレの身近にこんなお姫さんなんかいぃひん。
目を皿にして食い入るように見つめた後、オレは帰ってきた親父を強襲した。
結果は惨敗やったけど、努力賞としてこのお姫さんの事を教えて貰うた。
姫さんの名前はナターシャ・ダンデハイム。
イースン家が仕える寄り親であるダンデハイム家のご令嬢。つまりはオレが護るべきお姫様っちゅうこっちゃ。
オレはうっかり夢想する。
「きゃあ!」
突如現れた暴漢にか弱い悲鳴をあげる姫君、颯爽と現れたオレが背に庇う。そしてあっちゅう間に暴漢どもを一捻り。
「ご無事ですか?」
「なんて頼もしいお方でしょう!……結婚して?」
(―――なんちゃってなんちゃって!!)
都合の良い想像に転げまわりながらオレは借りた肖像画――ケチな親父は譲ってくれんかった――にうっとり魅入る。
未だ自領から出たことのないオレは、初めて『可憐』という修飾語が似合う女性を見たと言っても過言では無く、つまりそんくらいの衝撃を受けていた。―――初恋だった。
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それから程なくして、ひょろっとした坊ちゃんがうちを訪ねてきた。
ダンデハイムからの使者やと使用人にきいて駆け付けたのに期待外れの結果から思わず零れた悪態のせいで親父にぶっとばされた。
大人たちの密談に強引に居座って話を聞いていたが、この坊ちゃん――ダンデというらしい――はどうやらナターシャ姫と相当近い所におるらしい。クソ、羨ましい! 腹立ちまぎれに何度もちょっかいをかけたが、こいつ、やりおる……。同年代からは負けなしだったオレがあっさりいなされてしもうた。
それからこいつと過ごした数日間、オレは何度も奇襲をかけては躱され、その都度増えていく課題という何処かイースンの血筋を感じるやり方にぐったりとしてまうのだが、そんな話はさておき。
初めての他領、初めての外交、道中の楽しい話と興奮冷めやらぬ中引き合わされたのがステラだった。
下層貧民からナターシャによって引き上げられた少女、それがステラやった。
正確には数奇な縁でナターシャを引き当てたのがステラと言うべきか? ともかく、突けば折れてしまいそうなこの女の子は意外にも相当な根性の持ち主やった。
我が家に来た当初は見た目相応のひ弱さで倒れるわ熱出すわとてんやわんややったけど、だんだんと暮らしにも慣れて肩の力が抜けるようになると笑顔が目立つようになった。
彼女の目標は貴族学園への入学。そしてオレも同時期に同じ学園へと通う事となる。となれば、オレはこのひたむきな女の子に格好悪い所は見せられんし、何れナターシャ姫と逢った時に、如何にオレが格好良い男であるかを証言してもらわなあかん。
だからオレはステラの見えない所で鍛錬するようになった。お目付け役のオレがステラに負けるなんて言語道断。
勉強もマナーも――腕力は除外して――サラッとこなすのがイイ男っちゅうもんやろ? いけすかんけどあのダンデみたくさりげなさが大事なんやと思う。
そうやって二人、イースン式スパルタ教育で必死に研鑽を積んできた。ステラは言わば戦友や。
一応身分差の線を引かれていたものの、オレとステラの距離感は家族とほぼ同じ。
いつしかオレはステラの事を目の離せん妹のように感じるようになっとった。
―――感情豊かで、努力家で、面食いが玉に瑕なか弱い女の子。
きっとこれが普通の女の子なのだろう。
そして普通の女の子というものは――自領の豪傑女どもとは違って――こんなにも頼りない生き物なのだろう。
……そんな庇護欲も相俟って、やがて迎えたクロスネバー学園への入学式を前におかんからステラの面倒を頼まれたオレは珍しく反発もせずに頷いたのだった。
ハルマはイースン領の人々に豪快に育てられています。
基本脳筋一族なので、反抗期も可愛いものと一蹴されかえって構われるという暑苦しさw
政治にはとんと疎いのですが、軍略といった武系の脳働きはめっぽう良い特化型一族です。
仲間想い。仲間=(は)家族!
ハルマも何だかんだその気風をしっかりと継承している模様です。




