表舞台の側面でも影は横切る
未更新中もブクマつけて下さった読者様、ありがとうございますっ(感涙)
そして、評価で応援してくださる皆様にも、尚も遊びに来て下さる読者様にも、神那は感謝でいっぱいです(T▽T)
クロスネバー学園。
16~18歳の貴族子弟が通う王国立の貴族学園。
卒業者はある種の特権が得られるため、嫡子でない貴族子爵令嬢の義務教育の場となっている。
その『ある種の特権』を得るために特権階級以外へ用意された狭き門が特待生制度。
将来の中枢を担う優秀な人材を広く獲得する為に国が設けた苦肉の策でもあった。
ミケルは今年で14歳。あと二年待てば皆の通うクロスネバー学園に入る事が出来ると聞き、マル爺と共に猛勉強の日々を過ごしている。
(世界には僕の知らない事が沢山あるんだなぁ……)
毎日毎日、聴くこと視るもの、知らないことや新しい発見に溢れていて退屈する暇がない。
レオーネもその一つだった。
レオーネはレイとステラが始めた美容品のお店で城下町の大通りの中にある。木漏れ日の丘からは馬車で30分、歩きで1時間くらい。
商品は木漏れ日の丘と隣接しているリンデンベル孤児院で生産されており、毎日品出しの為に年嵩の子どもたちが街の店舗と行き来していた。
レオーネは学生が経営しているという特殊なお店故に、営業時間が極めて短い。
日中の学業を終えた兄姉たちが到着してから開店し――なので日によってまちまち――夕暮れ頃には閉店する。これは経営者たちが夕餉に間に合う時間に帰宅しなければならないかららしい。
満足に開いているのは安息日とレイかステラの休講日くらいで、そのような状態でも割りかし繁盛しているのは庶民向けの衛生品――石鹸や洗剤といった消耗品――を取り扱っているのと、終業帰宅の隙間時間に気軽に立ち寄れる立地が功を奏しているからだとマル爺が言っていた。
そんな短い営業時間の中での日会計――収支計算がミケルに任された仕事だった。
「計算の勉強に丁度良いじゃろ。解らない事は翌朝に質問しなさい」
マル爺にそう決められてから言われた通りに計算仕事に励んでいる。
自然と日報の業務内容はステラが、売上備品管理はミケルが書き込むようになり、顔を突き合わせる回数も増えてステラと話す時間も増えた。
「私はね、子どもの時死にそうだったところをナターシャに助けて貰ったことがあるの」
いつだったか、丁度店じまいを始めるかという時間、日報処理の為に机を同じくしたステラが会話の延長で零したことがあった。
確か、特待生制度の話を持ちかけた時だ。
「その時はナターシャだとは知らなかったんだけどね。……私は助かった後、家族や村人たちに聞いて回ったわ。『私も皆を助ける仕事がしたい、どうしたらいいの』って。私の人生を変えるくらい衝撃的な出来事だったんだもん、おかしくないでしょう?……でもね、私の周囲はそうじゃなかった」
昔を思い出すように遠い目をしたステラが苦々しく笑う。
「そういうことは偉い人たち、それこそお貴族様がやる事でお前には無理だって言うの。それなら、そのお貴族様にはどうやったらなれるんだって聞けば、誰も取り合ってくれなくなったわ」
無理だ、住む世界が違う、もっと現実を見なさい。散々適当にあしらわれて、ならば勉学に秀でれば良いのかと行商人や復興支援でやってきた騎士たちを捕まえて教えを請えば「女のくせに」と邪魔してくる――と。
「大体、私が納得できるだけの具体的な説明なんて誰一人してくれなかったのよ?ダメだ、迷惑をかけるんじゃない、そんな事しか言われなくて、私の決意の邪魔しかしないの。それで頭にきちゃって」
そこで言葉を切ったステラがつ、と凪いだ瞳を見せた。次いで柔らかく微笑む。
「そんなぐちゃぐちゃに荒れている時にね、天使様に遇ったのよ」
ふふ、と声を零すステラにどんな顔をすればいいかわからず眉が下がるのが解った。
「ごめん、ミケル。そんな困った顔しないで? まぁ、兎に角、あの日魔法の手紙をもらった私は一念発起したわけ。ここにいたって何にも変えられる事なんかない、自分が動かないと駄目なんだわ――ってね」
そうして辿り着いた先、提示されたのが貴族学園への特待生入学だったという。
「……あのまま村で普通に生活していたら知らなかったこと、いっぱい覚えたわ。でも知識だけじゃダメなんだって。その知識を正しく活用する為には、それに相応しい場でなければ真価を発揮出来ない。だからクロスネバーへ入るんだって教えられたの」
僕より少し先を行く先達の真摯な言葉が降ってくる。
「ねぇミケル。権力を得るというのは生半なことじゃないって私、思い知った。それが私たちみたいな平民であるなら猶更反発されるし、され続ける。異端だから。それに抗うには強い気持ちしかないんだってのも気付いた。適当なそれっぽい言い訳並べたって還ってくるのは原点だもの。だから聴くわ」
合わさった視線から微細も動く事を許されずに息も止まりそうな静けさで。
「ミケルは将来、どうしたい? あなたが頑張って勉強するのはなんで?」
―――受け止めた言葉はずっしりと重たかった。
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あの日以来、ミケルはずっと考えている。
自分は何者になりたいのか、どうして勉強したいと思ったのか。
一番に込み上げるのは『楽しいから』だし、ずっと一緒に仲良く育ってきたダンデやレイモンドたちと同じように生きたい、仲間外れになりたくないという気持ちもある。
医者になりたいと思った。
お嬢様の家の執事になりたいと思った。
その時々に浮かび上がった気持ちの根源はどれも一緒だったはずなのに、肝心な部分が思い出せなくて首を捻るばかりだ。
そんな風だから、未だにステラへ明確な答えを返せないでいた。
「ああ、良かったミケル、お帰り!」
木漏れ日の丘で御者を代行してくれている料理人のファンスさんに連れられてレオーネから帰宅すると、厩近くで待ち構えていた元女中のエリーさんがホッと胸を撫で下ろした。
エリーさんはこの木漏れ日寮――ミケルの住む集合住宅――へ住み着いて数年後、ファンスさんと結婚して夫婦になっている。
同じく料理人のウォルトさんがファンスさんから買い物荷物を受け取りながら難しい顔をした。
「いや、パレットのやつがな……」
言いながら振り返ると、庭師のパレットさんがそこまでやってきていてコクリと頷く。
「……何かあったのか?」
自然とファンスさんの声が尖り、大人たちは困惑の表情で見つめあっていた。
うちの子関係ない宣伝失礼します(汗)
え~、ここ数日更新滞っている間に久々短編を拵えました。
何と、約二年ぶりの続編『今日も元気だビールが美味い!』
前作の知識が無くとも雰囲気でサクッと読めて、皆でわちゃわちゃしてるだけの
ノーストレス飯テロ系チートもの(なんじゃそりゃ)ですので、隙間時間にチラ見して
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