目指す願いのその先は③
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「まぁアーシェの事は考えてもわからん。ともかく、ここからが肝要だ」
逸れた話を戻して殿下が咳払いすると、ステラの背筋が自然と伸びて、キリと引き締まった顔の殿下へと注目する。
「今回の件は、噂話に踊らされたアッパーゼルが在りもしない女神の雫を横取りしようとレオーネに手を出し処罰を受けた。息子の暴走に気付けなかったラッセル子爵は謝罪の意を込め、唆された生徒の家門に賠償金を支払い、罪を犯した者たちを引き取る事で誠意を示した。息子ともども厳しい監視下において面倒をみるそうだ。この対応により、捨て置かれる筈だった子息たちからは忠誠を、周囲からは誠実で慈悲深い商会長だとの評価を得たらしい。……これが表向きの顛末となるので皆もそのつもりでいてくれ」
「どういう事?」
要領を得なかったらしいシルヴィーが首を傾げた。
私も内心で同意しながら殿下の続きを待つ。
ずっと頭を下げたままだったユーリがガバっと顔を上げた。
「……アーシェがユーリとステラを醜聞から護ってくれたんだ」
この顛末が広がれば周知されるのはレオーネとアッパーゼルとのいざこざだけで、ユーリやステラの個人的な被害が伝わる事は無い。
「ラッセル側からの逆恨みを回避するために、美談を持ちかけて周囲の視線も誘導したようだな。更にラッセル商会は裏組織からも騎士団からも睨まれる事になるので、今後後ろ暗い事も派手には出来なくなる。大手のラッセル商会は世間体の為にせっせと善良な企業となるだろう」
有用な流通は国益に繋がる。
ナターシャはそうやって国とラッセル子爵に恩を売って、事件をもみ消したらしい。
「全てはユーリとステラのためだ」
重ねられた言葉の意味に心臓を鷲掴みされた。
貴族社会で醜聞が広がるという事は貴族にとって致命傷だ。今後の活動において何をするにも足を引っ張る材料にされる。
ユーリの女装が齎した不祥事――しかも恋情に纏わるもの――やステラが無頼漢に誘拐されかけたなんてバレたが最後、面白可笑しく無責任な噂となって二人の尊厳を傷つけ、二度と表舞台へ上がれなくなっただろう。
『ナターシャは凄い』
シルヴィーの口癖を思い出して隣を窺った。
が、普段は誇らしそうに胸を張っているであろう流れなのに、何だが難しそうな顔で考え込んでいる。
一抹の不安が過って声をかけようとしたがユーリに阻まれた。
「ナターシャが……ボクのために……」
潤んだ瞳で妖艶さに拍車がかかったその顔を感激に紅潮させてうっとりと嘆息している姿は目の毒でしか無い。正面から直視してしまった私の思考がイケメン閃光をくらって停止した。
「「女神だ……」」
同じくハルマとレイモンドが別視点からの衝撃に惚けていたが私は気付かなかった。
★☆★☆★☆★☆★☆
クロードの話を聞きながらシルビアは苛立っていた。
ナターシャがコソコソと動き回るのは常日頃の事だが、今回の接触不可はどうにも違和感が拭えない。
ユーリの様子がおかしい事に関係している気がする。
「ねぇ、ユーリ。ナターシャとの事で何か隠してることがあるでしょ?」
ビキリとユーリが固まった。やはりと胡乱な眼になっていく。
「……ナターシャに内緒にして欲しい事はある、かなぁ……」
シルビアとの付き合いの長さから追及を逃れられないと悟ったユーリがへどもどと答えたが、埒が明かないと耳打ちを合図して皆から少し離れた。
言いだしたら聞かないと知っているユーリは力無くそれに従いシルビアの傍らまで来ると、とてもとても言い難そうに何度も躊躇いながら、それでも漸く白状された言葉に―――シルビアが噴火した!
「ダンデにちゅーしたってあんたどういうことよーーーーーーーーー!!!!!!!!」
がっくんがっくんとユーリの首が捥げそうなほど激しく揺すぶりながら発狂したシルビアに全員が眼を剥いた!!
「いや……だって……あんまり、にも……嬉しくって……ついぃ……」
思い出しにやけをしつつユーリが揺れる間に言い訳している。
「私だってまだなのにーーーーーーーーー!!!!!!」
「いやまてシルヴィー!! そこじゃないだろっ!!!!!」
憤るシルビアにクロードの待ったがかかる。
「男同士で……」
「嬉しくてつい……」
ユーリの発言にレイモンドとハルマが抱き合って慄き、
「何それうらやま……ん゛んっ! けしからないわ!! シルヴィー、制裁よっ!!」
怒髪天に暴れるシルヴィーにステラが助長したことで手がつけられなくなった。
詳細が知りたいのに話が進められないクロードがオロオロと仲裁に入り、ロンは我関せずに皆を眺めている。最早ユーリは虫の息だ。
―――そんな混沌とした室内を見守っていたナターシャの肩にポンと大きな手の平が置かれた。
「さぁ姫さん、いい機会だ。こっちもちゃあんと話し合いをしようか?」
澄ました微笑みのソウガにナターシャは強制連行されたのだった。




