目指す願いのその先は②
「あのっ! それなら犯人も判ったんですか!?」
勢いあまって立ち上がった私に全員の視線が集まった。
「ああ、証言も一致しているし、証拠も得ている」
クロード殿下が淡々と言ってチラリとユーリを見やる。
青い顔でその視線を受け止めたユーリが小さく頷き、殿下は思案気に顎に手をあてて、
「その前に、順を追って説明しようと思う……」
自らの思考もその場で整頓するかのようにゆったりと、軽く嘆息してから語り始めた。
「やはりここから話す方がいいだろう。――騎士クラスの先輩方の処分が決まった」
じれったくて早く結論を知りたいけど、上位者の発言を遮ってはいけないとグッと我慢。
「先輩方はクロスネバーから除籍、貴族籍の剥奪と各家から勘当された」
「随分と軽い処罰なんですね」
ハルマが剣呑に言い返したので殿下の後ろのロンが殺気立つ。それを片手を上げていなしながら殿下は続けた。
「ああ。近くに居たので巻き込まれる恐れがあったものの、私を直接狙った襲撃では無かった事と、君によって即座に鎮圧されたのを大勢が目撃していた部分が大きい」
冷静にハルマを見返しながら殿下が言う。
「しかし剣を手にしていた事、学園を混乱に陥れたことからの退学処分。更に騎士爵を得る人間が間違った力の使い方をした訳だが、これは許される事では無い。騎士の矜持を傷つけられたと、騎士団からの嘆願があり父上が奏上を受諾した。それによって先輩方は騎士爵を得る権利を剥奪され、不名誉な人間を家門には置けないと勘当されたのだ」
貴族学園に通う子息令嬢の過半数は家督を継げない者たちだ。
復学の芽も無く、貴族社会からも追放されては彼らは生きるのにも苦労するだろう。私には充分な処罰だと思えた。
「そんな先輩方をラッセル商会の会頭が引き取った。護衛として雇い入れるそうだ」
納得したところに殿下から冷水を浴びせられて目を見開いた。
「どういう事だよっ!!」
「ごめんなさいっっ!!!!!」
噛みついたレイモンドと同時にユーリが立ちあがって頭を下げた。
殿下以外がきょとんとユーリの方を向く。
「ボクのせいなんだ……」
震えるユーリが呟くと、その続きを殿下が引き取った。
「先輩方を誘導したのはアッパーゼルという学園生だ」
頭を下げたまま立ち尽くすユーリから殿下へ再び視線が集まる。
「アッパーゼル・ラッセル。ラッセル商会の跡取りで社交クラスに在籍する3年生だった」
「過去形って事は先輩も処分されたんですか……?」
私の問いに殿下は神妙に肯いた。
「本人も認めたそうだが、アッパーゼルはユーリに懸想していたそうだ。……本当に女性だと思い込んでいたらしい。自分の想い人が自身の領域で同業に携わっている事を知って、レオーネに激しく嫉妬したそうだ。始めはレイをライバル視してベイン男爵に圧力をかけようとしたらしいが、余りの男爵の身綺麗さに手が出なかったとか。それでもっと楽な標的に目を付けた……」
「それがステラっちゅうことか」
感情を取り繕えなかったハルマが吐き捨てた言葉に身が竦んだ。
そうとも知らず、私は迂闊にも先輩に接触していたのかと。
「……正確にはレオーネの手足だ」
そういえば学園での騒動があったあの日、レイモンドが不審人物の話をしていたではないか。
ミケルは騎士様たちが見回りに来てくれると喜んでいた。
ならば、事情を知る誰かが手配してくれたということよね?
「もしかして、シルヴィーが……?」
レオーネに通じていて、孤児院とも懇意にしている彼女が助けてくれたのだろうかとおずおず尋ねたけれど、
「ナターシャよ!」
ふくれっ面で返されてしまった。
「そう、全てはアーシェの手の内だったようだ」
今度こそ盛大な溜息を吐いて殿下の眉が情けなく下がった。
「レオーネの周囲がキナ臭い事をアーシェはとっくに解っていたらしい。だから早々と護衛を手配したり、ラッセル商会を見張らせていたりと見守っていたそうなのだ」
(そうよ、私を助けてくれたのはダンデだった!)
ここで漸くナターシャの姿がない違和感に気付いた。
「そんな重要人がどうしてこの場にいないのですか?」
殿下の後ろからロンが問いかけている。
……というかロンは知らないんだ?
「会えないのよっ!!」
苛立たしげに癇癪手前のシルヴィーが地団太を踏んだ。
「女神と会えない……?」
不思議に首を傾げる私とは違う理由で聞き返した――絶望する――レイモンドの言葉に、殿下の眉尻がさらに下がった。
「そうなのだ。アーシェが出てこないのはいつもの事だが、ならばダンデをと召喚状を出したのだが断られた」
(王族からの召喚状を突っぱねるって……)
ハルマとレイの顎がはずれそうになってるけど私もおんなじ気持だ。
ユーリなんか頭を下げたまま目が泳いでいる。
「まぁアーシェの事は考えてもわからん。ともかく、ここからが肝要だ」
逸れた話を戻して殿下が咳払いすると、自然と背筋が伸びた。
自分の話を陰で盗み聞くという苦行w




