目指す願いのその先は
レオーネからの帰り際にステラが攫われかけてから数日がたった。
学園は未だ休校中、更に自宅待機を命じられてイースン家内での雑事のみこなして過ごしていた私の下へクロード殿下からの召喚状が届いた。
召喚者はハルマと私。
当日は王城から迎えの馬車と護衛が手配されているらしい。
危険な目にあった後だからか事細かになされた指示を疑問にも思わず、その手厚さに感心しながら迎えたその日。
指定された時間に表へ出ると、厳つい甲冑の団体が馬車を取り囲んで整列していて、その物々しさに私は目を剥いた! 更に、先頭を率いた人物を見つけてハルマと二人口元を引き攣らせる。
「だ、旦那様……」
「親父……」
「さぁ、ステラ。今日はオレも一緒だから安心しなさい」
熊にも負けない大柄筋肉鎧のイースン家当主『リューキ・イースン』が甲冑団体の先頭で、これまたムキムキな巨大黒馬に跨って笑っていた。
隣に立つハルマから目の光が無くなっている。
彼は早々に現実逃避に走ったらしい。
二人してそそくさと馬車に乗りこんだものの、王族にも負けないくらい物々しく護送される豪華な馬車に、街行く人々の注目が大いに集まるのは必然で。
「絶対にカーテン開けるなよ!」
鬼気迫る形相のハルマの指示に二つ返事で賛成し、私は人生二回目のお城の中を、これでもかという厳重な警備の中、止まらぬ冷や汗と緊張を携えてビクビク歩くことになった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
私とハルマを連れた案内の兵士が重厚感のある扉の前で足を止めた。
どこかから取り出したベルを鳴らすと、中から押された扉の僅かな隙間からスルリと王宮侍女が抜け出て、――再び閉ざした扉を背にして――背筋をピンと伸ばす。
感情の見えない侍女に兵士が取り次ぎを頼むと、用件を聞き終えた侍女がそこで漸く私たちと顔を合わせ、ふわりと微笑み腰を落とした。
「イースン伯爵家より、ハルマ様、ステラ様のおとない、確かに承っております。どうぞ中へ、殿下がお待ちでございます」
王宮侍女独特の礼が終わると、流れる所作で案内の兵士が重たそうな扉を開けていく。ゆっくりと手前に開かれる扉は、しっかりとした質量を感じるのに蝶番が軋む音は一切しない。
宮廷独特のやりとりを物珍しく眺めている内に開け放たれた扉の中へ入るよう促された。
(どうしよう! 作法とかならっておけばよかった!!)
一歩先に踏み出したハルマを凝視しながら後ろについていく。
(ハルマは腐っても伯爵子息! きっとこういう時の対応も出来るはず!!)
緊張しながら歩きつつ「あれ?」と首をかしげた。
(……何もない部屋?)
立派な扉の先は何もない小部屋だった。
そこを迷いなく突っ切っていく侍女が突き当りの一回り小ぶりな扉をノックした。
「クロード殿下、ご招待のお客様をお連れしました」
「入れ」
短く飛んできた許可の声音が聞き馴染んだ音だった事に心底ほっとしたけれど……
(クロード殿下は本当に王子様なのね。住む世界が違い過ぎる……)
学園で気安く接されていたから余計に現実との落差を肌身に感じて戸惑った。
今後の距離感をどうしようかと思案し始めた瞬間、
「遅いわよ! 随分待ったわ!」
声を弾ませたシルヴィーに手を取られて目を丸くした。
「……シルヴィーが早く来すぎたんだろう」
シンプルながらも品の良さが判る立派な応接セットから呆れたため息が飛ぶ。
ゆったりとした一人がけのソファーに身を沈めたクロード殿下だった。
厳重に取り次がれてここまでやってきたから、殿下の顔を見止めると慌ててカーテシーをとる。
「あ、あああの! この度は――――」
「急にどうしたの?」
私の挨拶はあっけなく怪訝に眉を顰めたシルヴィーに中断され、殿下の苦笑が漏れ聞こえる。
恥ずかしくて小さくなれば、可哀想な子を見る生温かい目のハルマと視線が合わさった。ムカつくっ!!
頬が膨らむのを我慢してハルマを睨みつけ、ぐいぐいと手を引くシルヴィーに案内されるまま隣り合ってソファーに腰かけた。
対面には既にユーリとレイモンドが座っていて、ハルマはその横に促される。
テーブルの短辺に対したソファに座すクロード殿下の後ろにいつの間にかロンが控え立っていた。
そうしてくるりと全員を見回した殿下が無言で何かしらの合図を手で振れば、速やかにお茶の準備を整えた侍女たちが一礼の後スススっと退室していく。
(……宮女の練度が半端無い件)
何度目かの呆気にとられる私と違って、優雅にカップとソーサーを抱えたシルヴィーがお茶で口を湿らせてじっとクロード殿下を見つめた。私はぼんやりとその動きを目で追う。
シルヴィーの視線を受けた殿下が心得たように頷いて口を開いた。
「捕らえられた騎士クラスの先輩方の処分が決まった」
「それは良いけど、何で、わざわざ、あんな厳重に護送されて来なきゃいけなかったの?」
(あ、あれウチだけじゃなかったんだ……)
同程度の厳重さで輸送されてきたのだろう。
言葉を短く区切る事で不満を前面に押し出したシルヴィーと遠い目をしたレイモンドの表情から察して――何故かユーリは青ざめて震えていた――密かに仲間意識が芽生えた。
「私にも解らぬのだ……。顛末を報告せねばと皆を集めたかったのだが、アレでなければ許可せぬと言われて仕方無く……」
辟易した様子で首を振るクロード殿下へ、最初に切り出された話題により徐々に擡げた疑問が私の口から飛び出した!
「あのっ! それなら犯人も判ったんですか!?」
勢いあまって立ち上がった私に全員の視線が集まった。
この章は長かった……あと少し……




