感情の発露~ほんとうのこころ~
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「ダンっていつもこんなことしてるの?」と呆れるユーリを抱えてひょいひょいっと家宅侵入を果たした私は、ターゲットを見つけてほくそ笑んだ。
私がアッパーゼルの誰何に答えるより早く彼がユーリに夢中になったので、一先ず成り行きを見守っていたのだけれど……
「違う! 全ては貴女を助けるためだ!!」
唐突に膝立ちになったアッパーゼル先輩の主張。
え? どゆこと??
敬虔な信徒宜しくユーリを見上げる先輩の姿に絶句しつつまじまじと観察してしまう。
ここ暫くの間レオーネと関係者たちへちょっかいを掛けようとしていたならず者達を手配していたのはアッパーゼルだった。始めは大手商会の新参潰しかと警戒してラッセル周辺を盛大に洗い出したのだけれど、出てくる情報は別件でのグレー案件ばかりで――致命傷になるような決定打は見つからないところが流石の手腕だよね!――ラッセル商会とレオーネの関わりは見受けられなかった。
手を回せばすぐに先輩が焙りだされたわけだが、あまりのお粗末さに逆に罠かと疑っちゃったよ!
先輩がユーリに執着していることは知っていた。
レオーネにユーリが出入りしだしてからは半ばストーカーと化していたけど、私物を盗んだり怪しい異物を送りつけたりというような迷惑行為には及んでいなかったので見逃していたのよ。まぁユーリ自身が自衛心強い子なので周囲の情報は常に集めさせてるからね。本人が把握してるならいっかと放置していたのだが……。
商売敵の情報を集めさせようとするのは解る。
仲の良いうちの子たちに嫉妬して恋敵になりそうなメンズたちに敵愾心を抱くのも……まぁ、解る。
なのにどうして繋がりの薄いステラを標的にしたのか。それだけはいくら調べても解らなかった。
彼は選民思想が強いようなのでその辺かしらと予測はしても、気に入らない無関係の庶民なんかほっとけばいいのだ。彼の私生活をステラが荒らしたわけでもあるまいに。
直近で捕らえたならず者から聞き出したあれこれにより今日先輩と落ち合う段取りだと知り、ならばとユーリに協力してもらう事にした。ついでにはっきりと引導渡して下さいな!
「私を助ける?」
コトリと首を傾げたユーリに激しくアッパーゼルが頷き返す。
「私は貴女が本当の姿でいられる手伝いがしたいのです」
「本当の……姿……?」
はっきりとユーリの綺麗なお顔が渋面に歪んだのに気づかず先輩は語り出した。
「隠さずとも良いのです! きっと深い事情があっての事だと私は解っております。ずっと耐えてこられた貴女は女神の雫の力で表舞台への再帰を図っておられる……そうでしょう?」
はいもいいえもなく、一切の表情を消した無の瞳でユーリは傅くアッパーゼルを見下ろしている。幻想を映している先輩の目にはその沈黙が「是」と聴こえたようだ。
「ですから、私が貴女の望みを叶えて差し上げましょう。一番近くで!」
言ってやった! と満足気に誇らしげに姫の愛を乞う騎士が一方的な情をぐいぐいと押し付けていく。それに対するユーリは力み過ぎて蒼白だ。
「……先の、質問に……答えていません……」
はくはくと喘いでようよう紡いだユーリの様を図星を突いたと捉えたのだろう。自身が優位に立っている実感を得て先輩の目尻がニンマリと歪む。勝利を確信した猫なで声で続けた。
「嗚呼……そんな辛そうな顔をしないで。決して好意であの庶民に手を出したのではないのですから――」
嫉妬した恋人を宥めるように優しく優しくアッパーゼルが語った真実に私は絶句する事になる。
「我が家は商家です。商売人は情報が命。貴女を万全の体勢で私の下へ迎え入れる為には準備が必要だった。その為にあの庶民を使いたかっただけなのですよ。レオーネの中枢にいて有用な情報を得ている庶民なんて打ってつけでしょう? 認めたくないがレイモンドはあれで男爵子息ですから末席でも貴族です。消えては面倒も多いでしょうが、その点庶民なら安心だ。……地縁でイースン家の厄介になっているようだが所詮は下働き。しかもアレの後見は辺境の男爵家だろう? 黙らせるのは容易いさ」
最後俯きがちに小さくぼそりと嘲って、パッと明るい表情を貼り付けたアッパーゼルがユーリを窺う。尚も小刻みに震えるユーリを安心させるべく甘くゆったりとした仕草で先輩がその手に触れようと動いて―――
パンッ!
小気味よい破裂音を響かせて先輩の手を弾いた。……私が。
「……情報が命?……アレで?……庶民なら消えてもいい?……ハッ、何それ笑える……」
ゆらり、身体から湯気が立ち上ってるんじゃないかってくらい腸が煮えくりかえってますが何か?その薄汚い手でうちの子に触んじゃないっつーの!!
「……貴方、その情報とやらによっぽどの根拠と自信を得ているんですね?」
兄様、力をお貸しください! 一番のお手本を脳裏に浮かべて私は凄絶に笑む。
(とんでも論理でうちの子泣かしたのも、我が領の臣下たちコケにしたのも、ユーリをちゃんと見てない大事にする気が感じられないのも、孤児院にちゃちゃ入れようとしたのも、関係ない学友たち唆して誘導したのも、何よりうちの子達を危険に晒した事……ぜんぶぜんぶ許さんっっ!!!!!)
人間、感情が爆発して突き抜けると逆に頭が冴えるのかも知れない。嘗てない速さで私の思考が回る。
さぁ、目の前のこの男をどう料理してやろうか? フフフフと暗黒の笑いが零れた私を、背にかばっていたユーリが強く引き寄せた。
サブタイトルにもルビが振れれば良いのに……




