お粗末な襲撃②
誤字報告、ブクマ&評価、感想、ありがとうございます!ありがとうございます!!(感涙)
突然の召喚令に泡を食って参内したラッセン子爵は冷や汗を隠せないまま取次に案内された応接室で畏まっていた。目まぐるしく脳内をかけめぐるあれこれは後ろ暗いやり取りの数々だ。大きく育った商会を維持する為には奇麗事だけではなりゆかない。それなりに際どい経験も一度や二度では無い為、正直思い当たる節が多すぎた。どれが露見したかで対処も変わってくる。兎に角あらゆる対応を思い浮かべながら戦々恐々していると断罪の時がやってきたようだ。応接室の扉がゆっくりと開かれた。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
―――第二王子殿下が在学生たちに襲撃された。
大勢の目撃者により大混乱に陥ったクロスネバー学園は、詳細が判明するまで休校と相成った。その場で緘口令が敷かれ、警備兵が指示を出し登校中の生徒達の帰宅が促される中、当事者達は厳重な警護の下、学園長室へと集められていた。
「申し開きがあれば聴こうか」
学園始まって以来の未曾有の事態に、渋面を深く刻んだ学園長が重々しく問いかけた。
捕らえられたのは3年騎士クラスの下級貴族子息たちが12人。何れも素行不良や成績不振が目立っていた者たちである。さもありなんという顔ぶれに頭痛が隠せない。
彼等は一斉に自己弁護を始めた。
そのほとんどが自分より下位の者への指導が目的だっただけで、決して第二王子殿下を標的にしたものでは無いというものだった。
だから大きな罪には問えない筈だと――誰の入れ知恵かは知らぬが――声高に主張しているが、将来騎士爵を得ようという者たちが寄ってたかってか弱い子女を襲ったのだという自覚が無いのだろうか。
騎士道にも紳士の風上にもおけない輩どもに情状酌量の余地がない事は明白だ。
全員が口を揃えて同じことしか口にしないので某かの関与も察せられた。その何某かに怯える色が見える彼らにこの場でこれ以上の自白もでないだろう。
やってきた騎士団の前で12名の退学書類を作成し、身柄共々引き渡した。
そうしてそのまま場を提供する。
残された第二王子殿下、ロン・オーウェン、レイモンド・ベイン、ユーリ・サリュフェル、シルビア・ネルベネス、ハルマ・イースン、そして渦中のステラ嬢の前に騎士団長ジェイル・オーウェンが静かに向き合っていた。
「さて、被害者の君たちにもいくつか質問させて欲しい」
息子であるロン・オーウェンが殊更姿勢を正した。
「―――では、登校中突然襲撃されたのだな?」
「はい、父上。奴らは用があるのはそこの庶民だけだと言いながら集団で切りかかってきました」
「ですがこちらはあの先輩方と面識はありません。動機は全く判りませんが、無理やり命令されて実行したのが見てとれました。全然腰の入っていない襲撃でしたから」
ユーリ・サリュフェルが所見を述べ、防衛したハルマ・イースンが同意する。
「私のお友達の身に危険が及んだのです。あの外部の狼藉者もきっちりと取り押さえていただけるのでしょうね?」
強面の騎士団長に少しも怯まず、シルビア・ネルベネスが毅然と非難するその堂に入った姿勢に学園長は思わず舌を巻いた。未来の王子妃に相応しい威厳が既に備わっている。
「うむ。背後関係が解らない以上、警戒は必要だろう。当面ステラ嬢たちには王城から護衛騎士たちを派遣して欲しい。今回多くの学生たちも不安を抱えているだろう。学園長、どうか学園にも警備を強化するため暫く護衛騎士たちの立ち入りを許可して貰えないだろうか」
シルビア嬢の隣で冷静に対処するクロード王子にも好感を持った。この国の未来は明るいだろう。
二つ返事で王子の提案を了承し、学園側としても是非お願いしたいと騎士団長へ頭を下げる。
そうして詳細をあれこれ詰めると必要な書類の作成に取り掛かった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「止めないで師匠っっ!! 速攻であのキツネ野郎を凹すぅぅぅ!!!!」
「待て待て待て待て、落ち着け姫さんっ! まだ駄目だっ!! 解ってるだろう!?」
ズルズルズル……とソウガを引きずりながら私は荒ぶっていた。
だってうちの子たちが襲われたのだ! 黙ってなんていられないじゃないっ!!
「嬢ちゃんたちなら歯牙にもかけない程度なのは見て納得してたろ? 何のために泳がせたアレの後を追ってるのか思い出せって!」
「わかってる! わかってるけど解りたくない時もあるの~~~~~~~!!!」
「どーどーどー」
隠れてそんなやりとりをしながらも見失う事無く襲撃犯を尾行し続けていた所、ホシは密会場所と思しき建物に周囲を気にしながら入って行った。




