お粗末な襲撃
お待たせしました!うちの子再開です^^;
前半シルビア視点
後半ステラ視点
「騎士クラスか」
こちらに迫る生徒達の襟元に同色のブローチを見とめてクロードが呟いた。
「暢気に言ってる場合か!」
涙目のレイモンドがクロードに突っかかる。同時にロンは主を背に庇い一歩前に進み出た。視線はまっすぐに狼藉者を捉えている。
「先輩方、これがどういう事か解っての行動なんですよねぇ?」
少し声を張り上げたハルマが相手を威嚇しながらステラを背後に隠す。シルビアはじっと周囲の様子を窺っていた。ユーリが身体を緊張させながらシルビアに寄り添う。
「う、うるさいっ!! 俺達の用があるのはそこの庶民だけだっ!!! それなら文句ないだろっっ!!!!」
足は止めずに襲撃者たちの先頭にいる男が叫ぶ。それで「はいそうですね」という者があるのだろうかとシルビアは内心で首を傾げた。固唾を呑んだ衆目がステラに集まる。遠くで誰かが警備兵を呼ぶ声が聞こえる。そうこうしている内にも一歩も動いていない我々と相手方との距離は縮まっていて改心する気が無いのが判り、――ロンが短く許可を求めてクロードが頷き返すのを視界の端に捉えながら――シルビアは軽く嘆息した。まったく、つまらないの。
「尚更悪いっちゅうの」
襲撃の手が緩まらない事に舌打ちしてハルマが数歩前に躍り出た。目を見開いたステラがその背を追うように伸ばした腕を捕まえてシルビアは自分の方へと引き寄せる。そのままユーリに押し付けてニヤリと笑った。
(お手並み拝見といこうじゃない)
軽く助走をつけたハルマの身が一瞬沈む。するとあっという間に先頭の生徒の前まで移動して素早く相手の手首を蹴り上げた。
「ぐぁ!」
握られていた短剣が宙に回転していく。手首を庇って足を止めた男に遅れてカランと短剣が地面に転がり、その音に気取られた隙に剣の持ち主が地に倒れ伏した。
(ふ~ん、なかなかやるみたいね)
面白くなってきた。敵の力量があまりにもヘボ過ぎて萎えていた心が観戦に沸き立って来る。
切り込み隊長が秒で沈んだのに後続が一瞬怯んだけれど、その瞳に切羽詰まった色を宿して雄たけびを上げながら再度突進してきた。ハルマはそれを危なげなく捌いていく。がら空きの胴体に掌底を打ちこみ、足払いで転倒させ手首を腕で払い上げて……。どんどんと相手を無力化させていきあっという間に全員が動けなくなった。ハルマが入念に転がった短剣を遠くに蹴り飛ばしていきパンパンと手を叩き合わせる。
「……イースンなめんな」
酷く冷たい声で睥睨したところで歓声が沸いた!
固唾を呑んで見守っていたギャラリーが圧倒的結末に興奮の声を上げる。それに気をよくしたハルマの緊張がフッと緩んだ瞬間、シルビアたちの後方から下種びた声がかかった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
用があるのは庶民だけ。それが私――ステラ――を差している事は明白だった。
全く身に覚えのない敵意に身が竦む。そんな私を庇って自ら危険に飛び込んでいったハルマの無事が確定したのと、私を護るための行動だったと理解した途端、私の心臓が大きく鼓動した。安心したのか、泣きたいのか、恥ずかしいのか、嬉しいのか、ぎゅんぎゅんと感情がめまぐるしく入り変わって大混乱だ!
「油断したなっっ!!」
一人感情を持て余していたそんな時、人垣を目隠しにして飛び出した別動隊が震える少女たち――傍目にはそう見えるだろう――の一角に狙いを定めて襲いかかってきた。血相を変えて振り向いたハルマもクロード殿下を庇っていたロンの助けも間に合わない。ただ驚愕するしかできない私と襲いくる男との視線が衝突すると、その眼が下卑た形に歪んだ。やはり狙いは私みたい……。
一番近くにいたユーリが決死の表情で私を庇うように立ちふさがったのに更に驚いて反射で引き止めた刹那、目の前の男が横方向へ吹っ飛ばされていった。
「へぁ………!!!??」
ぽっか~~んと間抜けた私の耳に勝気な声が届く。
「もうちょっと骨のある相手はいないの?」
そこには柄の長い扇子をぱしぱしと手の平に打ちつけながら不満に唇を尖らせたシルビアがいた。
「……シルヴィー、その物騒な扇子はなぁに?」
ヒクっと口角を引きつらせたユーリがおそるおそるシルビアの扇子を指さし、私は――心中で激しく頷きながら同意しつつ――その指先を見つめる。こちらを向いたシルビアはパッと得意気に笑みながら胸を張って見せた。
「ふふん♪ 帯剣はどうしても許してもらえなかったから、特注で作ってもらったの、良いでしょう!」
言いながら嬉しそうに仕様を語り出した。何でも通常は普通の扇子として持ち歩けて、有事の際にはあのように持ち手の部分を引き伸ばして武器として使用できるらしい。軽量かつ耐久性に優れた金属が仕込まれているとか―――ってどうでもいいわ!
「……そんな物騒なものをフルスイングしたのか」
酷く疲れ果てた顔でクロード殿下がやってくると、「逃がすなっ!」という鋭い声が響いてきた。漸く警備兵が到着したようだ。
「あの男だけ外部の者でしたけれど、誰の差し金かしらね」
厳しい視線で逃げた相手の方を睨みながらユーリが呟いた。
「ステラ! 無事かっ!!?」
ガバっとハルマが割り込んできて私の肩を掴んだ。至近距離で見つめられてさっきの葛藤を思い出す。ボンと破裂した私に気づかないハルマにガクガクと揺さぶられて堪らず突き飛ばした。
「だ、大丈夫だから!」
「ならええけど……?」
涙目で息を荒げながら何とか言葉にした私を訝しみながらも安堵した様でハルマが微かに笑んだ。今まで見たことのない表情に息が詰まる。するとユーリがするりと腕を絡ませてきた。
「おや~? おやおや~?」
ニマニマニマ。それはそれは愉しそうに私の顔を覗き込んでくる。愉悦に輝くその瞳が気に入らなくて私はグイッとユーリを押し離した。
「捕縛、完了しました」
倒れていた襲撃者たちをお縄にした警備兵の一人がクロード殿下へ報告し傅く。鷹揚に頷いた殿下が次々と指示を出し先輩方は連れられて行った。
「詳しい話を聞かねばな……」
難しい顔で見送っていたクロード殿下が遠くを見つめながらぽつりと溢した。




