表舞台は影に踊らされる②
明けましておめでとうございましたw
皆さま本年もうちの子たちを宜しくお願い致します!
それらは闇に紛れていた。
粛々と依頼を遂行するためだった。
依頼人は思わせぶりな視線を向けて去ってしまったけれどそんな事はどうでもいい。支払われた分の仕事はこなさなければいけない。
銀髪の美少女が踵を返して路地を出ようと動き出した瞬間を見止めて、暗がりの奥からその様子を窺っていた黒ずくめの三人の男――その内リーダーに当たる者――が一人を黙視した。合図を受け取った男が速やかに移動し、日の当たる大通りへと戻ろうとしていた少女へと今正に腕を伸ばした刹那―――
「ちょっと、お触り禁止だよ」
軽やかな声が降ってきて行動を起こしていた男は上へと吹き飛んだ!
「なっ!!? 何者だっ!!!??」
吹き飛んだ仲間の身体が無言のまま地面で短く跳ねる。
誰何した者の声が終わらぬ内にボグっと鈍い音が聞こえ「グフッ」と仲間の断末魔が闇に吸い込まれた。
暗闇には慣れているのに、視認できない何かにじわり恐怖が滲む。
残されたリーダーは懸命に現状把握するべく警戒を最大限に研ぎ澄ましたのだが、どこからともなく繰り出された手刀を受けてあっけなく沈没した。
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あっという間に闇に静寂が戻る。
その間たったの数秒。
背後で起こったひと悶着に気づくこと無くステラがレオーネの中へと消えるその背中を見送って、私は漸く詰めていた息を吐き出した。
「ふ~、やれやれ。行きすぎた子にはおしおきが必要かなぁ」
かいても無い額の汗を腕で拭う。
「姫さん、あっちでも獲物が引っかかったみたいだぜ」
この先を思案しかけた所で、隣から声が沸いてきた。
闇の中からごく自然に隣に立っていた長身の男を見上げる。
「ふぅん。漸く忙しくなってきた? 師匠、その獲物って―――」
「もち捕らえて一纏めにしてあるぞ~」
「語尾伸ばさない! もぉ、……了解。とりあえずこいつらも一緒にしちゃってくれる?」
「あいよ~」
師匠のゆる~い是と共にサッと三人分の気配が増え忽然と消える。
残った一人がソウガでない事に気づいて私は声をかけた。
「およ、珍しい。どしたのユージンさん?」
暗がりから姿を表した家人がサッと礼を取る。
「姫様、どこまで進めますか?」
「あ~……そだね。う~ん……、後手に回って難癖付けられても困るから、先に頭叩いとこうか?」
「承知しました」
ニヒルな笑みを浮かべたユージンが折り目正しく目礼してサッと消え去った……んだけど。去り際に残したあまりにも板についた悪役めいた笑みに一抹の不安が過り、
「手加減はしてよ~?」
思わず虚空へ向けてなさけなく懇願してしまった。
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翌朝。
鼻歌交じりに機嫌よく登校したアッパーゼルは眼前にイースン伯爵子息と連れだって歩くステラを発見して一気に気分が急降下した。
(どいつもこいつも役立たずばかりだ)
心中でしこたま悪態を吐きギリと奥歯を噛んだ。
――同時刻正門前。
野生の勘で悪意を察知したシルビアはハッと辺りを見回した。
すると、見憶えのあるような無いような――やっぱり無いなと結論付けた――男子生徒が発信源だとつきとめ静かに観察を始める。一昔前であれば気に喰わなければ即行突進していた猪娘も、周りの教育の賜物か多少の視野の広さを手にいれたようだ。
(雑魚ね。つまんないの)
前言撤回。
彼女の中では強いかどうかが一番のポイントらしい。――線の細い見目にそぐわず相変わらずの脳筋令嬢だった――結論と共にすぐさま興味を失ったシルビアは視界の端に探し人を見つけてきれいさっぱり悪意の元を忘れ去る。勝手に割れる人並みの中央を悠々と歩いて目的地にたどり着いた。
「おはようユーリ。昨日は問題無く?」
「あらおはようシルヴィー。当然でしょう? 心配なら当人に聞いてみなさいよ」
「確認しただけよ。礼状は昨日の内に受け取ったもん。……ご苦労様」
シルビアがツンと顎を上げれば「はいはいどうも~」とユーリが苦笑する。
そこへ難しい顔をしたレイモンドが合流してきた。少し後ろにクロードたちも見えるので二人を見つけて抜け出してきたらしい。レイの珍しい表情にシルビアとユーリは顔を見合わせ瞬きした。
「昨日、孤児院のチビ共が木漏れ日の丘の周りで怪しい大人に声掛けられたって……」
開口一番の内容に二人は驚く。
「え!? 大変じゃない! 大丈夫だったの?」
「ああ、あそこは顔馴染みのじいちゃんばあちゃんたちも多いし、昨日は庭師のおっちゃんがすぐに追い払ってくれたらしいから。ただ……」
「ただ?」
思案顔のまま言葉を探すレイモンドの語尾を引き取ってシルビアが息を呑む。ユーリも真剣にレイの言葉の続きを待った。
「……チビ共が言うには、そいつらはレオーネを探っていたようなんだと」
「もうそんなに影響が出てるの!?」
驚嘆するユーリ、シルビアは剣呑な空気を纏った。
「おはようみんな! ……どうしたの?」
明るく挨拶しながらやってきたステラが張り詰めた空気にちょっと怯むと同時にすぐ後ろに付いていたハルマに引き寄せられ抱きとめられた。
「ぅえ!? 何っ!!? ハ、ハルマっ!!??」
ステラが羞恥と驚きであげた非難と周りの女子生徒からの複数の悲鳴が重なって更に驚く。それがハルマの奇行が原因の黄色い嫉妬ではなく恐怖を帯びた声色だったからだ。
―――うちの子たちの一団に向かって十人程の男子生徒達が震える手で短剣を握りしめ突進していた。




