表舞台は影に踊らされる
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「「はぁああぁぁぁああぁあぁ~~~」」
何度目になるか分からない盛大な溜め息が二人分、木漏れ日の丘に響き渡った。
「一体全体なんだというんじゃ、辛気臭い」
どんよりと机に突っ伏した二人の子どもにむかってマルベックが呆れ声を放つ。早くから勢い込んで自習室へとやってきた二人……レイモンドとステラは、何やら楽し気にあ~だこ~だと話し合っていたのだが、ある時点を境にずっと先の調子なのである。その嘆きの多さに根負けしたマルベックはとうとう声をかけてしまった。
「……ああ、……マル爺か……」
覇気のないレイモンドが僅かに鎌首をもたげた。その沼のようなどんよりとした瞳にマル爺が半歩後ずさる。
「さ、さっきまで意気揚々と話し合っていたではないか。二人とも、何をそんなに落ち込んでいるのか、この爺に聞かせてくれぬかのう?」
宥めるように優しく笑むと、ステラがのろのろと上体を起こした。向かいのレイと視線を合わせると軽く肯く。のろのろとレイモンドが頬杖をついて、軽く嘆息した。
「なんていうかさ、こ~、現実は厳しいなって……」
心情を形にすべく語り出した若人にマル爺の目が細まる。言葉を探すレイを急かすことなく、静かに続きを待っていると、彼の気持ちを共有するステラがその先を引き取った。
「……改めて、ナターシャは凄いなって思ったんです」
マル爺の片眉が上がる。
「……実は私たち、二人で商売を始めることになったんです。その為に孤児院のみんなに手伝ってもらおうって、そこまでは順調だったんです」
「バザーのお陰でチビたちも売り子とか慣れてきたし、人手もリンデンベルで調達すれば一石二鳥だとおもったんだよ。でもさ……」
「あ~したい、こ~したい、こうなったらいいなって希望や期待を話してるうちは良かったんですけど、いざ具体的に詰めようとした途端」
「最初の段で躓いた……」
ステラとレイが交互に話しながら、徐々に肩を落とす。マル爺は自慢の白髭を撫でつけながら二人の傍に座った。
「ふぅむ。何に躓いたんじゃね?」
「………………~~~~~お金」
言い難そうにたっぷりと間をあけてレイが零した。
「金?」
導入も着地点も未だ要領を得ない二人の話にマル爺は根気よくつきあう。零れ出たキーワードを落とさないよう丁寧に拾い上げ、彼らの思考を導いていくところは正に年の功といえよう。
「はい。私たち、自分の自由になるお金が欲しくて……」
「親とか家とかにお膳立てされたものじゃなくて、自分の力で稼いだ、さ……。それで思い出したんだよ。バザーで配ってるハーブ製品は貴族への需要もあるし、売れるんじゃないかって。でもさ、手作りと売り物は違うだろ? 入れ物とか箱とか質の良い油とかさ、工夫しなきゃ商品にならないだろうし、一応貴族の俺が露天ひらくわけにもいかない。じゃあ店借りるのかって思うけど、元金とかどうすんだって……」
「それを保護者に協力してもらうと本末転倒に思える……と、悩んでおるんじゃな?」
漸く二人の思考を読み取れたマル爺が確認するために最後をしめれば、若者たちは力なく肯いた。
何ともまぁ青春とでもいうべき青臭さにマル爺の口元が綻ぶ。まだ枝葉を伸ばす事を知らない伸び盛りの若木たちに何と言ったものかと、暫し黙考しつつ髭を撫で伸ばしていたそこへ―――
「そんな君たちの悩みを僕が解消してあげる!」
バーーーンと両手で扉を開け放って現れたユーリが不敵に笑って佇んでいた。
「「ユーリ!?」」
「ふふ、ビックリした? ああ、悪いけど話は聞かせてもらったよ。で、二人とも、マル爺は商会の協力者だからそんな回りくどい話しなくて大丈夫。困ったことがあったらいっぱい相談しちゃいなよ!」
「「えっ!?」」
「で、次ね。商会を運営するための店舗が決まりました。何とメインストリートの突き当りという好立地♪ 二人には至急商会名を決めてもらわないとだから、悩むならそっちに頭使ってよね」
「「えええっ!?」」
さっきまでの苦悩はなんだったのか。怒涛のように押し寄せる情報に溺れかけながら、レイが何とか口を挟んだ。
「ゆ、ユーリ……そもそも何でお前がそんなに詳しい情報を持ってんだ!?」
「え? だって僕、商会の営業部長に任命されたから♡ 因みに会計はミケルだよ」
「はああああああ!?」
「えええええええ!?」
まだ話に上っただけで詳しい打ち合わせも無く、起動すらしていない商会のはずなのに、商会のツートップの与り知らぬところで企画は着々と進んでいるらしい。
愕然とする商会長(仮)副会長(仮)を前に、「でも部長ってなんだろうね?」とユーリが暢気に微笑んだ。
短め続きですみません……;;




