悪だくみが似合うよね
大変ご無沙汰しております!神那生きてます!!
色めく周囲のご婦人方のギラついた視線など完全スルーで、向かいに座る私の手に自分の指を絡ませたラルフが艶然と笑んでいる。今回は何を考えているのかと零れそうになる溜め息を何とか呑み込むと、ふ、とラルフと視線が重なった。途端、ラルフの瞳の色が熱を帯び、視線に質量があるかのようにねっとりとした重さを増した。つつ……と絡まるラルフの親指が私の手の甲の端を擽り、私の背筋に盛大な鳥肌が立っ――――
「お迎えに上がりました」
背後からラドクリフの後ろ首――皮膚一枚の所――へ短剣を突き付けたナハディウムがいた。
私は驚いて目を見開き、ラルフが低く降参のポーズを取る。刃物を絶妙な死角へと隠して微笑む兄様は、周囲には美麗な従者としか映っていないだろう。突如増えた美青年に周囲のご婦人方がほうっと惚けていくのがわかった。何それ兄様、私にもその技教えて欲しい!
「チッ……折角良い所だったのに」
「そんな瞬間は微塵もありませんでしたが?」
にこやかに対峙する二人の表情と音声が一致しない件。
面倒事の気配を察知した私は即座にこの変な空気をまるっとまとめて捨てた。
「兄様、迎えとはどういうことですの?」
秘儀、完全スルー。
目の前のやりとりに我関せずのお嬢様専用スキル。マジ重宝。
「ああ、準備が整ったんだ。遅くなってごめんね。さ、行こうか」
言い終わるより早く私を促して立ち上がらせたナハトが自然な動きで腰を抱き寄せて店を出る。去り際、入口にある会計場で「騒がせたね」と店員にチップを握らせ微笑む余裕ですよ。ドアの開閉に合わせて響いた可愛らしいベルの音に数秒遅れて飛び出してきたラルフの慌てようと対比すると、どっちが主人かわからないね。
「兄様、質問に答えてないわ」
「おい」
「目的地に着いたら全部まとめて答えてあげるよ」
「おい!」
「目的地?」
「ああ、すぐそこなんだけど、きっとナターシャも気に入ると思うよ?」
「お い !! 無 視 す る な !!」
和やかに兄妹トークを続けていた私たちをベリっと引きはがす者がいた。……いえ、勿論ラルフなんですけれども。
「寄るな下衆が」
わぁお、ナハトから今日一辛辣な視線と声音が飛び出しました。本気の殺気ですよこれ、ヤバいヤバい!!
「ま、まぁまぁ兄様落ち着いて。ラルフの悪ふざけはいつものことじゃない!」
「ああ、流石私のナターシャ!私の事を良く分かってくれてい――」
「――時と場所は選んで欲しいけどね?」
ラルフの被せてニッコリと音が出るように笑めば、数秒笑顔のまま固まったラルフが解凍後するりと私を抱き寄せた。
「それは時と場所を選べば構わないってこと?」
耳元で甘くザラリと囁かれ吐息のくすぐったさに耳を手で押さえるのと……ラルフが兄様に殴り飛ばされたのはほぼ同時だった。――合掌。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「さ、着いたよ」
案内されたのは、メインストリートの入口にあるカフェから少し奥まった突き当り、丁度路地がL字に曲がる角に立たずむ年季の入った建物だった。……あれ?此処って糸屋さんじゃなかったっけ?
ナハトが眼前の大扉を開けて、思考する私の背中を軽く押し中へと促す。少し埃臭い家内はがらんどうだった。いや、棚とか家具は残っているけれど、中身がない。薄暗い店内は暫く人が居なかった事を伝えてくる。
「ここの店主夫妻は結構な老齢でね。店を畳んで隣町の身内の所へ隠居するって事で売りに出されてたんだ」
徐に話し始めたナハトに振り向き、疑問符がいっぱい浮かぶ頭で続きを待つ。聞く姿勢の私に兄様は口を開いた。
「だから丁度良いなって思って買っちゃった☆」
「はいぃぃい!?」
「わ た し が な !!」
混乱する私へ復活のラルフが追い打ちをかけてきた。意味が解らない。私は今何の話を持ち掛けられているんだろう!?
「丁度、欲しかったんだろう?空き物件」
ニッとラルフが口端を上げた。私は息を呑む。……まだ誰にも言ってないはずなのに。
「楽しそうな気配がしているのに、私だけ蚊帳の外は寂しいだろう? ね、ナターシャ。私も一枚噛ませておくれ?」
不敵に笑うラドクリフ。そうだった。この子は天下無敵の私の兄様を従えた、この国の優秀な跡取り息子だったっけ。
「……はぁ。嫌だって言ってもこうやって割り込んできちゃうんでしょう?」
「ふふ、流石ナターシャ。私の事をよく解っているね♪」
「はいはい。……もう。だったら後悔したくなるくらいこき使ってあげるわ!」
「そうこなくちゃね」と嬉しそうに笑うラルフを見て私に否やは無い。だって、久々に見る素の笑顔だったから。嘆息一つで勘弁してあげるわよ。正直助かるしね!
視線を兄様に戻せば、はしゃぐラルフを何とも言えない顔で眺めてた。……素直じゃないよね兄様も。
クスッと自然に笑みが溢れる。じわじわとこみ上げる嬉しさが私の心臓を擽って、スルッと感謝が漏れ出た。
「ありがとう、二人とも大好き!」
知らず破顔した私に、兄sは何故かすんっと色を無くしたのだった。……解せぬ。
エタ疑惑の当作を見放さず待っていてくださった読者様、ホントもう、地に額をこすりつけて土下座MAXでございます。
皆様の優しさで神那は生きております><
ありがとうございます!!




