ロマネスク
ブクマ&評価ありがとうございます!!(≧▽≦)ノシ
ブクマ4桁がみえてきた……だと……(ゴクリ)
――――ジジジジジジジジジジジ……
特徴的な電磁音とカタカタカッタとたまにテンポの乱れるほぼ規則的な金属音。足元は消音の為の重厚な天鵞絨の絨毯。薄暗く、ともすれば黴臭い埃の匂い立ちそうな、どこか古めかしいこじんまりとした映画館に来るのを、もう不思議にも思わない。
ふと気が付くと、瞬きの間に私はこの上映室の中。中々にクッションのきいた椅子に座って、正面のスクリーンを眺めている。そこに移されるのはいつだって『うちの子』たちに関することだ。
今はステラが映っている……はずだ。何故断定できないのか?それは彼女の顔上半分が暈されていて、いまいち目の表情などが判らないから。
でも仕方ないのだ。だってステラは主人公。プレイヤーが自己投影や感情移入をしやすくするための仕様なのだから。
パッパッパと移ろいでいくシーンには、ステラと対象となるうちの子たちがそれぞれのイベントを遂行している。
泣いて、叫んで、助けて、助けられ、慰め、怒り、叱咤し、呆れ、寄り添い、手を取り合って―――
―――最後に笑い合う。
そのステラの行動のどれもが、大まかに括れば『攻略対象』への献身だ。そこにステラという意思はない。彼を慰め、導き、好みを暴き、彼の色に自身を染める。そうして出来上がった『誰かの為のステラ』は幸せそうにはにかんでいる。
望んだ誰かと寄り添い、肩を並べて―――……
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「私は貴族の娘。その事に誇りを持っているけれど、同時に不自由さにも辟易しているの。深窓の令嬢だなんて聞こえはいいかも知れないけれど、窮屈なものよ。アレもダメこれもダメ、儀礼に作法に雁字搦めなの。だから、ノーサルで貴女を見つけた時運命だと思った。常識を打ち壊そうと努力する貴女に私の夢を重ねた……」
ステラに放った言葉に嘘はなかった。
ここに繋がるのかと思ったのだ。
どこの誰かも判らないステラをどうやって探そうか、本当に貴族学園に入学してくるのかとヤキモキしていた幼少期。彼女は私の手の届くところに居た。そう、ダンデハイム領に。
元々ダンデとして出歩くようになったのも、出来るだけ自由に振る舞える為のアバターが必要だっただけで、男の子の格好をしたのもドレスやワンピースじゃ動き回れないからという理由だった。――だって、この世の中、女性がズボンをはく事など、乗馬服くらいしかないのだ。あとは少数で騎士や兵士などもあるが、どの道特殊な制服であることに変わりはない。――
だから、ミケルの時には変装していたし、結果それが私とステラを直接繋ぐための布石になっていたなんて、これを運命と言わず何と呼ぶのか。
でも、私にはステラの『内面』に確信が持てなかった。だってそんな設定ないのだから。それで離れた場所から彼女を観察することにしたのだ。
私の知る人々に囲まれて彼女がどう過ごすのか、どう育つのか。彼女の在りようが知りたかった。
結果、ステラはとても主人公らしい女の子だと判明した。
ここぞという肝が据わっていて努力家。明るく気さくでミーハーな所もある。そんな等身大の女の子。
ステラという人格の輪郭が鮮明になるにつけ、彼女への愛しさが増していった。
この世に生きている彼女は『うちの子』たちを幸せにするためのツールじゃない。ステラもれっきとした私の子どもなんだと。
だからこそ、私はステラに夢を重ねる。
彼女が辿るはずだったかもしれない『if』の世界を投影して考える。
『自分の将来』という夢を抱いた少女に、その為に不自由な現状を打開するべく不利な中で奮闘する彼女に、望む道のお手伝いがしたいと。ステラの選んだ幸せにとても興味があった。
「だから、ね? ステラ。どうか応援させて頂戴? 貴女の夢の先を私も一緒に見てみたいの」
そこで終わりじゃない。
めでたしめでたしの先のお話。
その先の世界を生きていく『うちの子』ひとりひとりが、自分の意思で掴み取った幸せの先を一緒に眺めて笑い合いたいから……。
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孤児院の作業場へ戻ると、何とも言えない表情のメンズたちが迎えてくれた。
「おい……」
腹の底から響く低い呻きをあげたのはハルマ。私も聞きたい。どうしてこうなった?
今、私の左にシルビア、右にステラが私の腕に絡まった状態で立っている。というか、これでここまで歩いて来た。話も纏まって「戻ろう」となった瞬間、シルビアが私と腕を組んだのにステラが負けじと対抗した結果だった。
「随分と仲良うなったみたいで……」
青筋の浮いた笑顔で凄むハルマ。
「何でダンデばっかりモテるんだよ……」
いじけて呟いたレイ。レイモンド、安心して?これは同性のじゃれ合いだから全然意味が違うのよ!
「当然だよ。だってダン兄ちゃんはレイよりカッコイイもん」
こらこらミケル。微妙なフォローをするんじゃない。そしてロンも無言で肯くんじゃない!
……うちの子たちが草食過ぎて、おばちゃんちょっと心配です。女子たちのパワフルさをちょっとは見習ってほしい。
「ねぇ、ダンデ? 商会って詳しくはどうするの?」
親し気に腕を引くステラにシルビアが反応した。
「ダン、私もやりたいわ」
「う~ん……。今回シルビアはちょっと勝手が悪いかな。ごめんね?」
ふくれっ面になったシルビアの頬っぺたをつついて遊ぶ。う~ん至福!
「それにシルビアにはく~ちゃんの事を任せたいから」
こそっとシルビアにだけ聞こえるように耳打ちすると「まったくしょうがないわね~」とシルビアが大仰に首を振った。嬉しそうに頬がヒクヒクしている。可愛い。
「サリーさん、少しだけお時間いいですか?」
作業場に声を響かせれば、キリの良い所まで終わらせたサリーさんがこちらへ来てくれた。
「ダンデ君、どうしたの?」
「はい。相談したい案件ができました。詳しくは彼らの試験が終わってからお話しますので、その頃に時間を作っていただけませんか?」
「勿論構わないわよ。レイ、学園はいつから休みなの?」
サリーさんに嬉々として答えるレイに優しく相槌を打って、サリーさんが日付を打診してきた。
夏休み最初の日だ。私は皆の意見を聞いて了承する。
「随分と余裕みたいやけど、お前はどうなん?実際……」
「僕は皆と学校も違うし、大したことはないよ」
「ふ~ん」と興味無さそうにハルマが頷く。
ステラの目がキラリと鋭く光った。




