女神の雫
これがUPされる頃には『令和』が飛び交っているでしょうか?
新元号と共に、うちの子の更新も安定させるべく頑張ります!
レイモンドの話を食い気味に聴いていたステラが、はふぅと大きな溜め息を吐き出した。その頬は薔薇色に色付いていて、とろりと蕩けた瞳が夢見るようにキラキラと輝いている。段々と乗りに乗ったレイも、一通り話し切って、今は荒い呼吸を整えていた。
(……孤児院の話をしていたはずなのに、何でそんな『一仕事終えました~!』って達成感に満ちたいい顔をしてるのよ……)
私はレイを視界の端に収めてげんなりした。ガックリと落ちそうになる肩を気合で制して表情を作り直す。さぁ、どう切り出せば自然に事を運べるか……。
『星姫』の中でレイモンドが孤児院の子どもたちを労働力にした商会を立ち上げたのは、困窮していく孤児院を何とか救い上げるためだった。男爵家からの援助では根本的な解決にならず、また、ボランティアと銘打つ以上、一つ所を贔屓するわけにはいかない為、義父を頻繁に頼る事も出来ない。大寒波の被害で作物が壊滅、物価が上がり、孤児たちは日ごと飢えていく。衰弱した年長組も動けなくなっていく、つまり働けなくなり収入は益々減る。悪循環を打開したくとも、自分に出来るのは精々食べ物の差し入れくらいで、それだって限度がある以上は焼け石に水状態だった。レイモンドは苦悩し、荒れていく。のうのうと優雅に過ごす貴族連中に苛立ちを覚え始めたその時、ステラに声をかけられるのだ。庶民出のステラはレイモンドの気持ちに寄り添ってくれる。ステラは良き話し相手であり、相談相手になった。
(そうやって二人が仲良くなっていくにつれ、お互いの悩みを相談し合い助け合っていく内に、自分達で商売をやってみようってフラグが立つのよね)
そしてレイモンドとの友好度が高ければその試みが成功、とんとん拍子に商会設立!になるんだけど……。
(ゲームの前提は完全に私が無くしちゃったから、上手く二人を組ませる方法を見つけなくちゃいけないのよね)
う~むと眉間に力が入った、その瞬間―――
「たっだいま~~~~~~!!」
バァン!と勢いよく開け放たれた扉から、ご機嫌なシルビアとわんぱく組達がドヤドヤと押し入ってきた。
「ダン、ほら見て! 大量でしょ?」
にっこにこのシルビアが自慢げに成果を指さす。初夏のこの時期、植物の成長は著しい。入れ食い状態の採集が楽しかったんだね。私は凄いねと褒めながらシルビアの頭を撫でて、泥まみれの手を洗ってくるように促した。
子どもたちは手早く勉強道具を片付け、手際よく採集物を選り分けていく。年長組の指示のもと、自然と組まれたグループが、選り分けられたものを運び出して行った。
「え……草………? みんな、アレをどうするの………?」
テキパキ動く子どもたちに驚いたステラが独り言ちる。
「ハーブっていうんやて」
そこへヨレヨレのハルマが顔を出した。
「なんや仰山名前を教えてもろたけど、全然頭に入らんやったわ……。凄かったで……。右から左から、やれコレはなんだ、効能がどうだとガーガーピーピー……堪らんわ………」
頭を抱えたハルマが力なくその場にへたり込んだのに思わず苦笑が漏れる。くつりと喉が引きつって声が震えないよう力みながらハルマを労った。
「……慣れる」
「うわぁっ!!」
ちゃっかり場に混ざっていたロンに驚いてハルマが飛びのいた。レイが「そうだな~」と間延びした首肯を返す。「どっから湧いて出た!?」胸を押さえながらロンを睨むハルマに、当のロンは無表情のまま首を傾げる。
(図体だけは立派になった大の男がしても全然可愛くないぞ!)
私は心中で盛大に突っ込んだ。
ステラはまだ呆然と広間を見渡している。そんな彼女の隣に近寄ってそっと声をかけた。
「見学、してみる?」
「見学?」
オウム返しのステラが目を瞬く。
「言ったろ? 仕事だよ」
横からどや顔のレイが口を挟んだけど、ステラは目を瞬くばかり。
「孤児院の秘密を一緒に見に行こう」
きょとんとするステラが可愛くてクスクスと漏れた笑いのまま、私はステラに手を差し出した。
「あ~あ……」
残念なものを見る目でレイが呟く。
ステラは何故かリンゴより真っ赤な顔で硬直していた。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
突如ステラと私の間に割って入ったハルマに威嚇されながら、私たちはサリーさんの工房へ移動した。元々あった倉庫を改造した場所で、ここで主に石鹸を作っている。
「サリーさん、作業中にすみません。邪魔にならないように気を付けるので、少しだけ見学させてください」
キョロキョロと忙しないステラを微笑ましく見やりながら、サリーさんが快く了承してくれた。早速ステラが壁際を指さして振り向いた。
「あのツボは何? 何をしているの?」
工房の壁側には沢山の大甕が並んでいる。そこへ子どもたちが丁寧にハーブを沈めていた。
「あそこには新鮮な植物油が入っているんだ。そこへハーブを漬け込んでいるところだよ」
「漬け込む……? 料理に使うの?」
「種類によっては料理用もあるけどね。アレは美容製品にするんだ」
「もしかして、女神の雫!?」
身を乗り出して詰め寄ってきたハルマに私の口端が引き攣った。
「そうよ!」
またしても返事を奪ったのはシルビア。だから何でそんなに自慢げなのよ!
『女神の雫』とはいつの間にかついていた美容品の通称だ。慈悲深い聖女の涙から出来ているなんて噂もある。
「ナターシャ嬢の慈善活動から生まれた製品……ここで作っとったんか」
ハルマが目の色を変えて周囲を見だした。はい。この女神って私をかけてるらしいよ!知らない間に定着してて、私が気付いた時にはもうどうにも出来なかったという不服の通称。勘弁して欲しい……。
「何でナターシャ嬢は商会を起こさへんの?」
「望んでないからだよ」
ここで作られた美容品たちは、年に数度定期的に開催されるバザーでのみ配布している。寄付に対するお礼として渡している為、貴族女性たちは『慈善活動』とこぞってやってくるのだ。王都の貴族間では今や孤児院の製品を持っていることが一種のステータスになっているらしい。
「……何でお前が知ったように答えるんや」
ハルマに睨まれたけれど、肩を竦めるに止めた。だって本人だもの。言わないけど。
「私もナターシャくらいの才能があれば……」
ぽろりと転がった呟きはステラのものだった。そこに翳りと自嘲めいた響きを見つけて私はステラを見つめた。
「何か困りごとか……? 言ってみろよ! 力になれるかもしれないし」
同じように感じたのだろう。レイが励ますようにステラに笑いかけた。その人好きする笑顔にちょっとだけ困り眉になったステラが、微苦笑して数拍……躊躇いがちに口を開いた。
この話数、配信予約をしていたのですが、この配信日より前に久々の短編読み切りをこさえました。
下にリンクがありますので、ご興味ありましたら飛んでみてください。
サクッと読める短さです(苦笑)
先日活動報告にも書きましたが、『うちの子』は2~3日に1本上げられるように鋭意ストック作業中ですので、今後とも気長にお付き合い頂けたら嬉しいです。
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