ステラ meets ミケル
ブクマ&評価、ありがとうございますっ!!
お陰さまで、再びチラチラと日間ランキングに顔を出している模様です(≧▽≦)
誤字報告もありがとうございます。とても助かっております。
今回もまた短いのですが、キリが良いので投稿しちゃいます。
更新間隔も文字数もバラつきが目立ってすみません……
ステラのターン!!
自分の事を覚えているかと思い切って問いかけて返された、ダンデの麗しい微笑みを受けて私の時間が停止した。……学園に入学してからというもの、周囲の顔面水準が高すぎて意識が飛ぶ癖がつきそうだ。全然慣れないし、私の心臓が追い付いていかない。惚けたり、鼓動が早鐘を鳴らすくらいなら状況を楽しむ余裕もあるけれど、王太子殿下といい、ダンデといい、微笑み一つで心臓がひとつ大きく脈打ち、息が止まるのだから、冗談抜きに私はいつか美形に殺されるかもしれない。……そんな死因は嫌だなぁ。
暫く硬直しているとハルマに腕を引かれ、皆と連れだって建物の中に入っていった。両開きの立派な扉の先はエントランスホールになっていて、その奥扉から講堂らしき広間に繋がっているようだ。明かりとりの窓ガラスは大きく数も多くて講堂内はお陽様で満ちている。とても気持ちの良い空間だ。それを証明するかのように利用者も多い。大人から子供まで沢山の人々が思い思いに過ごしていた。
(本当に庶民のための施設なんだ……)
庶民なのは間違いないが、生活水準も職種もバラバラで――身なりや振舞いに差が出るので分かるのだ――、幼い頃出入りしていた村の集会所ともまた違った雰囲気の室内に目を瞠っていると、私の腕を引っ張ってズンズン進んでいたハルマが立ち止まった。ぶつからない様に私も慌てて足を止める。
「おやおや今日はまた大所帯じゃのう」
離れた所から好々爺と分かる声が聞こえたけれど、目の前にはハルマの背中があって、声の主がどこにいるのかわからない。キョロキョロと辺りを見回しているとお陽様を一身に受けた輝く少年が目に飛び込んできた。
「あっ!?」
ふわふわの薄桃色の髪を揺らしながら柔和な笑顔を湛えて大きく手を振り、こちらへ駆けてくる赤目の少年に過去の情景が重なって、驚きに飛び出た感嘆が存外に大きく響いた事に尚驚いて、私は「はぷっ」と息を呑みこみ両手で口に蓋をした。
「ダン兄ちゃ~ん!」
ニコニコと喜びを身体いっぱいに纏って少年が駆け寄ってくる。どうやら彼はダンデと仲が良いようだ。
(え、え!? どんな偶然!!? こんな奇跡ってあるものなのっ!!??)
記憶の中で何度も反芻した天使様とそっくりの、記憶よりも大人びた天使様が私のすぐ傍までやってきて立ち止まる。
「ダン兄ちゃん久し振り! 今日はゆっくり遊べるの?」
慕わしげにダンデへ語りかける天使様そっくりの少年をついまじまじと見つめてしまう。そんな私の視線に気付いた少年がこちらを向いた。
「ダン兄ちゃんたちの新しい友達?」
ハルマと私を眺め見た少年がダンデに向かって小首を傾げる。その小動物めいた仕草にきゅんとした。ほわわわっと花が舞うようなふわふわした気持ちに包まれていると、再びこちらを向いた少年がニコリと音がしそうな笑みを溢した。
「初めまして、僕はミケル。お兄ちゃん、お姉ちゃん、僕とも仲良くしてね」
眩しい!屈託ない純粋な好意の眩しさに目が眩む。その間にさっさとハルマが自己紹介を済ませ、残念なものを見る目で私を小突いた。
「おい、さっさと挨拶せぇ」
「う、うるさいわね、分かってるわよ! ……ふぇ!?」
条件反射でハルマを軽く睨めつけ、愛想笑いで取り繕ってミケルに挨拶しようと振り向いたら鼻先にミケルの顔があった。「おい!」っと咄嗟にハルマが私の両肩を後ろに引っ張ってくれたので激突は免れたが、それくらい至近距離で見つめられている。ミケルは不思議そうに「ん~?」「あれ~?」と首を捻っていた。
「あの……」
困惑に溜まりかねて呟けばミケルがハッとして距離をとった。気まずそうに照れ笑いしながら頬を指先で掻いて私に軽く謝罪した後、「昔会ったお姉ちゃんに似てるなと思ったんだ」と言った。
「うそ……、ホントに……天使様……?」
二人共に見憶えがあるのならば、これは間違いなく奇跡の邂逅ではないか!?
震える声でミケルに問えば、コテリとミケルが首を傾げる。「天使ぃ?」とハルマの素っ頓狂な声がするがそれどころではない。私はミケルの返事も待たずにガシッと彼の両手を挟み込むように掴んだ。
「ずっとずっと、お礼を言いたかったの!! ありがとうっ!!! 全部全部、天使様のお陰なのっっ!!!」
声に出せば塞き止めていた気持ちがどっと溢れて、喉の奥がツンと熱くなり、高ぶる勢いのままに私は泣いていた。「え? え?」と突然泣き出した私に驚いて、助けを求めて視線を彷徨わせるミケルが涙でぼやけている。困らせてしまっていることを申し訳無いと思いつつも、一度噴き出した感情を抑えられる気がしない。嗚咽交じりに浅い呼吸を繰り返しながら、周囲をおろおろさせたまま私はひとしきり泣き通した。




