表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したサポート令嬢はうちの子たちを幸せにしたい  作者: 神那梅雨
サポート令嬢は天然フラグ製造機
122/190

成長と溜め息

ユーリの舞台裏。

 私の名前はユーリ・サリュフェル。

 サリュフェル子爵家の三男坊。

 私は今、義務教育という名の高く分厚い壁に阻まれて、非常に窮屈な毎日を送っている。


 私は自我が芽生えた頃には既に可愛いものや綺麗なものが大好きで、身につける物や日用品などを好きなもので固めた結果、()()()である事が最も自身を満足させられる環境になることを知って以来、男であるにも関わらず、好んで女の子のような生活を送って来た。

 だからといって男色家というわけではないし、心ごと女性になりたいわけでもない。

 ただ、自分の欲望を全て満たした結果が女の子のような生活になってしまったというだけで。

 これでも最初の頃(幼少時)は酷く悩んだものだ。自分の頭はおかしいのではないかと。この世界(私の生きる場所)は男らしさ、女らしさに二分されていて、中途半端が許されない。兎角貴族社会とは身分とプライドとお家存続が何より重要で、はみ出し者を許さない節がある。異端は排除されるのが普通なのだ。

 幼く、大っぴらに対人の必要が無い時分は面白がって好きにさせてくれていた親族も、子ども同士の交流が始まる頃には何とか私の事を矯正させようと躍起になりだした。

 サリュフェル家は教会関係者を多く輩出している家柄の為、世間体や評判を気にする輩が一定層いるのだ。

 三男坊なんて家督になんの影響も無いお荷物なのに、急に『サリュフェル家の男児として』なんて言い出したのだからいい迷惑である。

 そうして自我と周囲との軋轢で悩んでいた時、私の前に救世主が現れた。


 『ナターシャ・ダンデハイム』の()だという『ダンデ』という少年だ。


 最初は美容品を手掛けるというナターシャ嬢に興味を持っていた。綺麗や可愛いを共有できるのではないかと、是非お近づきになりたいと思った。そうして実際、私は彼女と会う事になるのだが、同時に『ダンデ』という存在を知る事になる。

 ダンデはナターシャ嬢と同じ薔薇色の艶やかな髪を持つ、女の子の様に可憐な顔をした少年だ。

 彼は言った。『自分はナターシャ様の影だ』と。影とは身代わりであり、主を護るために影日向に暗躍する存在である。

 ダンデハイム家は伯爵家の中でも上位に位置する上級貴族。そのご令嬢ともなれば、深窓に隠され世間に触れさせまいと身代わりが用意されてもおかしくない。何故なら、彼等上級貴族が敷地外を出歩く場合、側仕えだ護衛だ、それに付随する専属の下働きだと随伴する人数が途方もなく、途轍もなく目立つ。それに比例するだけの危険があり、個人に価値があるということなのだけれど。

 ……シルヴィーがおかしいのよ。あの子、この国でも上位に君臨する公爵令嬢だっていうのに、ほいほい身軽に下町を出歩けるって。見えない所にどれだけの権力が渦巻いているのかと思うと頭が痛い。

 ……因みにクロード殿下がお忍びで来るときはほとんど騎士団長クラスの人間が護衛についてくる。側仕えも無く自由に動けるシルヴィーはやはり非常識だ。


 話を戻そう。


 ダンデは男の子でありながら、ナターシャの影だと言った。つまり、彼はナターシャの身代わりとしてドレスを纏い、令嬢として矢面に立つということだ。でも普段の彼はとても利発で活発で、護衛に相応しき強さをもっている少年だ。普通なら仕事とはいえ女装して女の子として振る舞うなんて考えられないだろう。

 でもダンデに忌避感は無かった。

 私はそこに微かな仲間意識を感じて喜んだ。

 そして仲良くなろうと行動した先で私の転機が訪れる。ダンデを救世主と思わずにいられない幸運が待っていた。


 ダンデを追って辿り着いた『木漏れ日の丘』という下町の施設で、お忍びの貴族子息たちに出会ったのだ。その中にいたのがシルヴィー――シルビア・ネルベネス――という公爵令嬢で、その内クロード第二王子殿下とも懇意になれた。それが切っ掛けで、国からの密命が我が家へ下されたのだ。


『お忍びでふらつく公爵令嬢の盾として傍に侍ろ』


 要約するとそういう内容の命令だった。趣味で女装している私はうってつけだったのだ。お陰で私は大手を振って好きな事に没頭できるようになった。大義名分がある以上親族は文句を言えなくなったし、子爵位を賜る中位貴族の我が家が国の上層と繋がりを持てた事を大層褒められた。

 それにダンデを中心とした人間関係は私にとってとても居心地のいい環境だった。

 自分を偽らなくていい場所。素の自分を受け入れてくれる仲間。

 かけがえのない宝を手に入れて過ごした幼少期はあっという間に過ぎていった。


 そして今。


 第二次成長期を迎えた私はグッと背も伸び、声も多少低まり、すっかり青年めいた風貌になってしまった。美人なのは間違いないが、()()()が似合わない。

 更に、サリュフェル家子息として貴族学園に入学した私はドレスを着る事が許されない。

 じりじりと不満が蓄積していた。


 何となく可愛くない自分を仲間に見せたくなくて距離を取っていた入学式。

 その後のデビュタント会場でも顔を合わせないようにしていたのに、あっさりと野生児という名のシルヴィーに見つかってしまう。

 自分だけが変に意識していただけで、容姿なんて気にしない相変わらずな仲間に内心で安堵したけれど、もやもやを消化しきれない私はさっさと仲間の輪から逃げ出した。


 暫く会場内をさすらっていると、一人のご令嬢が目に留まった。

 肩程の長さのふわふわとした銀髪を持つ素朴な美少女、名をステラ。特待生という殆ど使用されない特別枠で貴族学園に入学した庶民の娘。入学前からその存在だけは有名だったから、お披露目で彼女を認識した者は多いと思う。序列順に呼ばれるお披露目で最後に名を呼ばれ、家名のない人間なんて彼女一人しかいないのだから。

 そんな彼女が誰かを探す様に視線を彷徨わせながら広いフロアを小走りに駆けるのを見つけて、何となくその視線を追ったのだ。そして該当する人物を見つけて驚きに目を見開く―――ダンデだ!

 少し前まで近くで話した友を見間違うはずが無い。ダンデを追いかけるステラをコッソリつけて成り行きを見守り確信した。

 ステラはダンデと面識があるらしい。

 窮屈な日常を紛らわす事件の芽生えを感じて自然と口角が上がるのが分かった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 入学初日から数日、サリュフェル家の情報網を駆使して――うちは教会関係に強く、割と市井の情報が得られやすいのだ――ステラとダンデハイム家に何某かの繋がりがあるという予測がついた。

 更に、ナターシャ嬢と同クラスになったステラは急激にナターシャとの距離を詰めているように見える。

 ナターシャ嬢の傍にはシルヴィーもクロード殿下もいるし、早急にステラという存在を見極めなくてはならない。

 そんな時、ラッフェル嬢から夜会の誘いを貰った。

 夜会といえば華々しいドレス!早くも可愛い欠乏症の私は出席の返事を出し、とっておきのドレスで着飾って出掛けようとしたところを家族に取り押さえられた。……似合ってるんだから好きにさせてよ。

 「隠密行動ならまだしも、サリュフェル家子息として招かれてる夜会で女装はしてくれるな」だって。

 結局令息らしい盛装に着替えさせられた私は、父上に夜会での情報収集を任じられた。ついでに口調も封じられた……。


 群がってくるご令嬢たちから適当に噂話なんかを回収していると――本当は流行の衣装やお菓子の話題で盛り上がりたいのに――ポツンと佇み顔を顰めた女の子を見つけた。ステラ嬢だ。

 ステラは不安げに顔を上げると、キョロキョロと誰かを探す様に視線を彷徨わせ始めた。

 それがデビュタントの夜と重なって見えて、思わず会場を見回す。そこに緋色を探してしまった事に苦笑を漏らした。ラッフェル家の家格では上位貴族は招けない。

 ――この会場内で一番高位なのはイースン家の末息子だろうか。イースンは辺境伯でありながら、ダンデハイムの寄り子という特殊な家だ。通常上位貴族に分類されるはずだが、どういうわけか中位の伯爵家であると公言している変わった一族である。まぁだからこそ、この中位貴族の集まりに招待できたのだろうけれど――


「君、デビュタントの時もそうして一人でキョロキョロしてたでしょう?」


 気付けば声をかけていた。

 このお嬢さんが仲間たちの害悪とならないか、私は見極めなければならない。これは立派な情報収集だ。


「私はユーリ。サリュフェル家の者です。さて、特待生のお嬢様、貴女の事も教えていただけますでしょうか?」


(さあ、私にダンデとの関係を教えて頂戴?)


 目の前のステラに自分の顔が武器になるとはっきり目に見えて、己の優位性に笑みが深まった。

ユーリの事情と大人たちの思惑。

ユーリは着実に暗躍スキルを手に入れてる模様。


因みにシルビアの護衛はちゃんといます。隠密みたいに隠れてはいませんが、覆面的な感じで周囲にちらばっています。そしてナターシャやマル爺がクロシロの報告を各親に提供しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2020/6/26
あの、中年聖女がリターンズでございます!
新作☆中年『トーコ』の美食探訪!その二の巻
今日も元気だビールが美味い!~夏といえばビールでしょ~

+++

こちらも引き続きよろしくです☆

唸れ神那の厨二脳!
『親友(とも)を訪ねて異世界へ~ReBirth Day~』
巻き込まれ女子大生の異世界奮闘記
『Re:トライ ~指名依頼は異世界で~』
中年『トーコ』の美食探訪!
今日も元気だビールが美味い!

宜しければ是非応援してください☆
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ