サポート令嬢はじめました。
誤字報告、毎度ありがとうございます。
何度見直しても度々やらかしに気付かぬ作者でございます。皆さまの優しさが沁み入ります……(涙)
翌朝。
教室に入って来たふわふわの銀髪を見つけて私は立ち上がった。
「おはよう、ステラ」
席についたばかりの彼女に近づき笑顔で挨拶の先手必勝!
「お、はよう?」
「どうして疑問形なの?」
「ふふふ」と軽い笑いを浮かべていると、私の隣にシルビアが並んだ。それを見止めてステラが身を竦める。
「話はナターシャから聞いたわ。仕方無いから私も仲良くしてあげる」
「へ?」と間抜けな声を上げるステラ。突然のことだからそうなるのも頷けるけど。解っていながら解説せずに私は言葉を繋ぐ。
「友達は多い方が良いでしょう?シルビアはとっても面倒見がいいの。頼りになるのよ!」
そう言えばシルビアが嬉しそうにはにかんだ。やっぱり可愛いわ~この子!
ほのぼのしながらステラに視線を戻す。やっぱりまだ状況についていけないのか頭の上に沢山の疑問符が浮かんでいる。しかしこのまま押し切らせて頂きますよ!多少強引なのは自覚してます。
得意げにつんと顎を斜めに反らしてシルビアが一歩前に進み出た。
「シルヴィーでいいわ。私も貴女のことステラって呼ぶから」
そう言ってステラに手を差し出すシルビア。ステラは目を白黒させながらも条件反射でその手を握り返す。我が意を得たりとシルビアがにんまり笑った。……あ~、嬉しそうにしちゃって。ホントに素直なんだから。つられてニマニマしてしまうではないか。
「じゃあ、私達の親交を深めるためにも今日のお昼は一緒に食べましょ?ね、ステラ!」
有無を言わさず畳みかける私。
「あの……、本気で私と友達になってくれるの?」
「嫌だわ、私冗談でそんな事言わないわ」
戸惑いに揺れるステラを安心させるようにコロコロと笑ってみせる。
「何、あんた、ナターシャと仲良くなるのが不服って言うの!」
「いえ!滅相もないですぅっ!!」
いやいやシルビアさん、それじゃどっかの独裁的なガキ大将ですよ……。でも今は敢えてそのままにしてみる。クラスメイト達にシルビアが率先して動いたと印象付けなければいけない。
「……では、また後でね」
最後にそう告げて私とシルビアは自分の席に戻った。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
約束の昼休み。
私は颯爽とステラを捕まえて、シルビアを連れ立ち中庭の隠れた東屋へと来ていた。
「はい、どうぞ召し上がれ♪」
私は師匠に持ってきてもらったバスケットケースの蓋を開けて見せた。中味は数種類のサンドイッチと焼き菓子。
「私の手作りだから、多少不格好なのは勘弁してね」
苦笑交じりに紅茶を注ぎながら――これはカフェテリアで用意してもらったものだ――私が言えばステラが心底驚いた声をあげた。
「え!? コレ、ナターシャが作ったの!!? 本当に!!??」
「当り前でしょ? ナターシャは何でも出来るのよ!」
何故かシルビアが自慢げに胸を張る。
「貴族のお嬢様でも厨房に立つんだ……。あ、じゃあ、シルヴィーも?」
「何言ってるの? そんな事出来るわけないじゃない」
今度は呆れて嘆息するシルビア。ステラがガクッと体制を崩した。
「普通、令嬢は料理なんかしないものね。ステラの驚きも当然だと思うわ。私の場合は、まぁ……趣味なのよ。手作りが好きなの」
休める事無く手は動かしながら答える。程無く紅茶のカップを配り終えて私も腰かけた。
「食事時はゆっくりしたいものね。……穴場があって良かったわ♪ では、いただきましょう?」
この東屋はゲームの中でステラと攻略キャラたちの密会場所となるイベントポイント。もしやと師匠に調べて貰ったところ、やはり普段から人気の少ない場所らしく――給仕のしっかりしているフリースペースが学園内の要所々々に存在しているので、態々辺鄙な場所で食事をとったりしないのだ――これ幸いとこの場所を選んだ。ここなら人目を気にしないで済む。
「うわ、すんごく美味しい!!」
玉子サンドを頬張ったステラが目を瞠った。ふっふっふ。ソースにちょっとした隠し味が加えてある自信作なのだよ!
和やかに三人で食事を摂っていると、こちらに近づいてくる人の気配を感じた。げ、このタイミングでこの二人が来ちゃうんだ……。どうしようかなぁ……。まぁ、成行きに任せてみるか。
「アーシェ! 探した。シルヴィーも。……こんな所にいたのか」
やって来たのはく~ちゃん。隣にはロンが侍っている。
この東屋は中庭の奥まった所にある背の高い垣根の更に奥にひっそりと佇んでいる。こんなトコまで来たというなら方々を探しまわっていたのだろうか?……いや、案外取り巻きから隠れられる場所を探していたのかもしれない。
「あらクロ、どうしたの?」
「折角だから一緒に昼食でもと思ったんだが一足遅かったようだな……」
く~ちゃんが東屋の中に入ってきながら肩を落とす。そうして漸くステラの存在に気づいて固まった。
「あわわわわわわわ」
ステラも突然現れたクロードを見止めてバイブレーションのように震え出す。ちょっと面白いな、この構図。真顔でそんな事を思って思考をかき消した。さて、どうなるかな?
「ロンもこっち来なさいよ!」
シルビアが気さくにロンを呼べば、無言で頷いたロンが大人しく東屋に立ち入る。幸い10人くらいは余裕で入れる大きさの東屋なので窮屈さは無い。しっかりとく~ちゃんの隣にロンは並んで、主の様子をまじまじと観察し始めた。
私はどっかで見ているであろう師匠に合図を送ると即座に新しいティーセットが用意され、私はしれっと交換を果たす。
カップの二個増えたティーセットの乗ったトレイを東屋中央のテーブルに置きながら、私は皆に笑いかけた。
「とりあえず二人も座って、お茶にしましょう? 沢山作って来たから、良ければ二人も召し上がってね」
新しく紅茶をカップに注ぎながら私は男子二人を輪に取り込んだ。
「つ、作って来た……!? これはもしや、アーシェの手製なのか!?」
「そ、そうだけど……」
何をそんなに戦慄いてるのく~ちゃん? 毒なんか入ってないぞ!
「美味い」
さっさとハムサンドを頬張ったロンがポロリと零した。
「なっ!? お前なにを先に食べてるんだ!」
「……毒見です」
く~ちゃんがロンに掴みかかってガクガクと揺すぶる。……何をやっているのか。若干の呆れで嘆息しつつ、こほんと軽く咳払いをして仕切り直した。
「紹介しますね。ご存じかもしれませんが、こちらクロード殿下。お隣が従者見習いのロン・オーウェン様。彼はこの国の近衛師団団長のご子息なの」
余所いきの気配を纏い直したく~ちゃんにペコリと軽く会釈するロン。ステラは……絶句している模様。
「それで、こちらはステラ様。特待生でいらっしゃるのよ、凄いわよね!」
「ステラ嬢……。確か、同じクラスだったな?」
「ひゃい!そ、そうでございますっ!!」
かっちこちだなステラよ……。
「クロ、私達とステラは友達になったのよ!」
無邪気に報告するシルビアにく~ちゃんが目を細めた。「ふぅん」と息を零しながら私をチラ見する。何よ、その視線は。私は構わずにっこりと肯いて見せた。
「成程。……ならば私もステラ嬢の友に立候補させてもらおうか。お前も付き合え、ロン」
「承知しました。ステラ嬢、俺も宜しく頼む」
慇懃無礼に頭を下げたロン。く~ちゃんはステラの様子を窺っている。
「ふぇっ!? 私と!? ……殿下が!!?? と、トモダチっっ!!!???」
「彼女たちの友ならば、私にとっても友だ。……駄目だろうか?」
チワワの上目遣い!あざといっ!!
「そ、そそそそそんなっ!! 滅相もないです! 光栄です!! えっ、私死ぬのかな……!?」
「ははっ、ステラ嬢は面白いんだな」
屈託なく年相応の笑顔を見せたクロードにステラの表情が惚けた。……メインヒーローの微笑みは会心の一撃となった模様。ご愁傷様です。
私は微笑を湛えたまま成り行きを見守りつつ、意外なく~ちゃんの才能に心の中で感心したのだった。




