王子様とお茶会②
「時にナハト、近々ダンデハイム伯爵について領地視察に行くらしいね」
「…よく知ってるなそんな事」
「それ、私とクロードも一緒に行くから。」
「何だって!?」
「あ、ナターシャも一緒だからね。」
「何でラルフが仕切ってるのよ…
しかもクロードはこの場に居ないのに、勝手に決めちゃっていいの?」
「弟は私のお願いを無下には出来ないから問題ない。」
「ラルフがお腹の中まで真っ黒だということが良く分かったわ。」
この人は良くも悪くも王族だ。自分の清濁全て武器に出来る、その土壌が既にある。…そして5歳のクロードにはそれがまだ無い。危うい、そう思った。
「…お城を離れなきゃいけない何かがあるのね。…主にクロード側に。
はぁ…。仕様が無い、仕事ですもの。お役目はしっかり全うします。」
「理解が早くて助かる。でも、深入りしちゃダメだよ?」
「我が身が可愛いのでそんな迂闊な事はしません!!」
「大変結構」
キラキラ王子スマイル。この人アレだ。表が光り過ぎてるから闇が濃いんだな、うん。
「さっきから思ってたんだけど……。
――何でラルフと話す方が親し気に聞こえるんだい、ナターシャ?」
何故か兄様がジト目で見てきた。
「気のせいですよ、兄様。殿下の命令で敬語が使えないのですから仕方ないではありませんか!」
「…今となっては他人行儀に聞こえて仕方ないな。…僕たち、兄妹なのに」
(そ、そんな捨てられた子犬の目で見ないで兄様~~!)
「……うっ……………わかったわ、兄様。これで良い?」
「ふふ、もっと早くこうすれば良かったよ。」
よく分からない理由で拗ねないでくださいな…。
あ、よく分からないと言えば、もう一つ確認したいことがあったけ。
「ねぇ、ラルフ。…何でクロードは私の事『私達の婚約者候補』って言ってたの?」
「ああ、それねぇ。
…今回の幼馴染設定は父と側近たちの間で決められた事で、経緯などの詳細は箝口令が敷かれている。でもそれまでに沢山の子息令嬢を調べていたからねぇ―――王の目となって動けそうな私達の目付け役を選出するために。
…それを邪推した外野の貴族たちが噂を流し始めた。
『王家は遂に王子たちの婚約者選定に入ったらしい』ってね。
そこへ君の誕生パーティーへの招待状が届いた。
慌てた弟に取り入りたい誰かが入れ知恵したのさ。」
「ナターシャが婚約者候補だって?」
「そう、正しくは『殿下方の婚約者候補に違いない』だね。…弟は私を取られると思ったのだと思うよ。」
「凄い好かれ様ね、ラルフ。」
「弟はね、私を何でも出来る英雄か何かだと信じているんだよ。…馬鹿可愛いだろ?」
ここで初めてラルフから『お兄ちゃんの顔』が覗いた。
(な~んだ、年相応の顔も出来るんじゃん。素直じゃ無いなぁ…。)
ラルフは何だかんだクロードを大事に思っているのだろう。それが分かるからクロードも懐く。仲良し兄弟のようだ。うん。益々BLは阻止せねば。通常モードで入りかねない雰囲気だぞ…。あれ?でもそれで彼らが幸せになれればありなのか??
「…ナターシャ嬢、何か良からぬ事を考えていないかい?」
「――っヒッッ!!な、何でもありませんわ、殿下!!!!」
「ふ~ん…。まぁいいよ。
さて、他に質問はあるかい?…無ければそろそろ弟を呼ぼうか。」
「え!?クロード殿下をですか??」
「勿論。私たちは仲良しの幼馴染だからね」
「うぅ…早速試練ですか。善処します。」
「ラルフ、最初に言っとくが、俺はナターシャに何かあったら容赦なくクロードを殴るよ?」
兄様、そんな綺麗な笑顔で物騒な事言わないでください…。
「ハハハ!!好きにしたらいいよ。」
(良いんかい!!!!)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「兄上、お呼びだと聞きましたが…」
数刻後、ラルフのサロンにクロードがやって来た。
「な!?お、お、おまえはこの前のブスっ!!!?」
「はぁい、クロード!ブスとは随分なご挨拶ね~」
「締めるぞ、小殿下☆」
「兄様は落ち着いて?」
「…ふんっ、大人しいおんなだと思ったが、とんだあばずれのようだな!!
私の兄上にとりいろうったってそうはいかないぞ!!!」
「あんた…、それちゃんと意味わかって言ってるの?」
子どもって変な言葉ばっかりすぐに覚えるのよねぇ。世界の法則なのかしら?…幼児にあれこれとか犯罪だからね?ラルフもまだ10歳だけどさ。
「クロード、噛み付くのはやめなさい。彼らは私の…そしてお前の友人だ。
ナハディウムとは面識があるだろう?ナターシャ嬢は彼の妹君だよ。お前と同年だ。仲良くしなさい。」
「兄上!!だまされてはいけません!!このブスは私たちにこんやく者としてとりいろうとしているのです!!!」
「…クロード。誰に何を言われたかは知らないけれど、そいつと私、どっちを信じるのかな?」
おおぅ…キラキラ王子がブリザードを放っている…。ダイアモンドダストだ、ガタブル。
「……あ、兄上です。」
(き、恐怖政治??)
「教育的指導だよ、ナターシャ」
( 心 を 読 ま れ た だ と !? )
私は絶対にラルフを敵に回すまいと心に誓った。
「茶会デビューで私とナハトが誼を結んだからね。弟妹たちが同じ年だと分かったからお前たちも引き合わせようとなったんだよ。だから彼女の誕生パーティーの誘いを受けたのに…。」
チロリ、ラルフがクロードに視線でため息をつく。器用だなぁ…。
「…う、~~っしかし、兄上!!」
「理由はどうあれ、お前はか弱い令嬢に手をあげたんだ。
今度こそちゃんと謝りなさい。」
「くっ!…………す、……すまなかった」
尻すぼみでボソッと言い放ちましたよ。不満たらたらだなおい。…はぁ、手の焼ける子ねぇ。早速お仕事しましょうか。
「ねぇ、クロード。」
「お、お前ぶれいだそっ!!」
「うるさい、今そんな事どうでもいい。
貴方ねぇ、自分のやったこと分かってないでしょう?
大 好 き な 兄 上 の 邪 魔 を し た の よ ? 」
「え?……!?」
一音ずつ含めるように告げればクロードが怯んだ。よし、これで聞く耳持つかな?
「ラルフはね、私たち兄妹と仲良しアピールしたかったのに貴方はそれをぶち壊した。それって、貴方とラルフの意見は違うってことよ。分かりやすく言うと、『貴方はラルフが嫌い』と見做された。」
「な、何でそうなるんだ!!」
「貴方が王子様だから。」
「意味がわからない!!」
「それだけ王族の言動には責任が生じるの。
あんたがバカな振る舞いをしたおかげで、ラルフに害をなそうとする輩が小躍りしてるわよ。
あんたを担ぎ出してラルフを陥れようってね。
い~い?『あんたのせいで、大好きな兄上が危ない目に遭うの!』」
「そ、そんな……」
よしよし、お勉強タイムですよ。そのまま頭を使いなさい少年よ。
「言っとくけど、私はナハト兄様のおまけ。しかもまだ貴方たちの婚約者なんかじゃない。
別によく知らない私の事を嫌ったって構わないけど、公式の場での振る舞いくらい上手になさいな。大好きな兄上の力になりたいのなら、ね。」
「あ、兄上……私は……そんな………」
狼狽えるクロードにそっと優しい手が差しのべられた。
…勿論、漁夫の利万歳の腹黒王子である。
「解ってくれたのなら良いんだ、クロード。
これからも私の事を助けてくれるかい?」
これでもかってくらいキラキラ眩しいよ。こうやって弟を懐柔してきたんだな、今まで。
「もちろんです兄上!!私は、ずっと兄上のみかたです!!」
わぁい☆飴と鞭だぞぉう!私が鞭ですかそうですか。
ラルフに洗のぅ(げふんげふん)されたクロードが、真摯な顔つきで兄様に向き合った。続いて頭を下げる。
「…ナハディウム殿。
先日はいわいの席で、ナターシャ嬢にたいへんな失礼をした。すまない。」
「ナハトで良いですよ、クロード殿下。
…これから俺はラルフの近くに侍るから宜しくね」
「兄上があいしょうを許したのなら、私も呼び捨ててもらってかまわない。
―――っおいっ!!…ぶ、ブスって言ってわるかった!!」
「ナターシャよ、クロード。因みに敬語使うなってラルフの命令だから文句いわないでね。
私は主に貴方の友人として傍にいるから。
あ、貴方を突飛ばした『シルビア』って子も同じ立場よ。
これから末永くよろしくね☆」
「…あげないよ?」
「ナハト、大人げないぞ?」
こうして王子たちとの交流が始まった。
心休まる気が全くしないけれど、まぁ、何とかなるでしょう。…きっと。……多分。
と、とりあえずは領地視察が無事に終わるように頑張ろう。うん。




