ステラとナターシャの邂逅
ブクマが!もうすぐ800なんですっ嬉しいっっ!!
当分は4ケタを目指して頑張ります!嬉しい!!(語彙力)
緊張で手の平がじんわりと汗ばむのを指を組んで誤魔化しながら私は教室内を見渡した。ゴクリと喉を鳴らしてギュッと組んだ手に力を入れる。ちょっとだけキツく閉じた瞳を直ぐに開いて、最初の一言を音にした。
「初めまして。私はステラ。平民なので家名はありません。」
途端、今まで浮ついていた空気がザラリと変化した。覚悟はしていたので、予想通りの周囲の反応をゆっくり瞬きする事でやり過ごす。一秒がやけに遅く感じるのは思った以上にクラスメイトたちのリアクションがつぶさに観察できたからかな?あっちではひそひそと、別方向からは嘲る様な視線が。注意深く様子を窺っている人もいるみたい。
でも仕方の無い事だと思う。だって、私だってハルマの家に下宿させて貰えるまで『お貴族様』って偏見持ってたし。実際住む世界が違う事も実感したけど、それで私が自身を卑下する必要はないって事も学んだわ。『分相応』つまりはそう言う事なのだ。身分とは貢献度を表す尺度。高くなれば沢山の責任も増す。替えが利かなくなる。その重さを背負っているから貴族は平民より偉くて当然で、でも、もし私がその重さを抱える事が出来るのなら、彼らと同等に歩く事が許される。そして身分相応の責務を十全に全うして生きているのなら、身分問わず一個人として蔑まれる謂れはこれっぽちもない。……私はイースン家で過ごす時間でそう教わった。
(……だから、へっちゃらだもん!)
こちとら長いお屋敷生活で下働きしつつ研鑽を積んで来てるんだ!軟弱なお坊ちゃまたちに負けるはずがない。そう思えば自然と余裕が出来て、余計な力が抜けたら自然と笑えた。うん、大丈夫。
「この学年では私だけだと聞きましたが、私は特待生です。このまたと無い幸運に感謝して、精一杯研鑽する所存ですので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。また至らぬ点がございましたら遠慮なくご指摘くださると嬉しいです」
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そう言ってペコリと頭を下げたステラはとても堂々としていて綺麗だった。
窓から注ぐ陽光を受けて白銀の髪が柔らかく輝いている。始終浮かんだ微笑みは慈母のような包容力すら感じる。でもその瞳には確固たる意志の炎が灯っていて力強く、侵し難い神聖ささえ感じ取れた。
(おお~、これぞヒロインの魅力!)
私はバレない様にグッとこぶしを握り込んだ。どうやらステラは最低限このアウェーで戦えるだけの力を身につけてきたらしい。清々しい彼女の振舞いに知らず口角が上がる。
この学園において『異分子』であるステラは既に『ただ者じゃない』オーラを有している。クラスメイト達もその事を肌で感じたのか、本能的に敵愾心を霧散させていた。彼女が着席した現在はどう取り扱ったらいいのかという困惑したもやもやがあるだけだ。それも残りのクラスメイトの自己紹介が続くうちに薄らいでいった。
「さて、最後に君たちの待ちわびているプロムについてだ」
明日からの諸注意や、必須の説明などが一頻り終わり、担当教諭が仕切り直して顔を上げた。大人しくなっていた空気が一瞬で喜色に満ちて先生が苦笑している。
「皆も承知の通り、この学園に入学した者はこの後のプロムで全員が社交界デビューとなる。王主催の舞踏会という国の行事でもある為不参加は認められない。遅刻する事の無いように。今夜は君たちデビュタントが主役だ。作法に不安のあるものはこの後小ホールで簡単な説明会が行われるから参加すると良い。……まぁ、何事も経験だ。楽しみなさい」
「それでは」と短い挨拶でサッサと退室していった担当教諭をあっけに取られながら見送ると、暫しの沈黙を経て誰ともなく動き出す気配がして、そこで一気に空気が緩んだ。
「クロード殿下はどなたをエスコートされるのですか? もし、パートナーがお決まりでなければ……あの、わたくしと……」
「はぁ!? 何図々しく名乗り出ているの!? 貴女で良いのなら、ワタクシが立候補しますわっ!」
「なんですってぇ!!」
「あ、殿下……では私など如何ですぅ?」
早速肉食なご令嬢たちがく~ちゃんを取り囲んだ。その素早さにクラスの男連中が引いている。クロードが瞠目した僅かな内に勃発しそうなキャットファイトの気配に、く~ちゃんが慌てて勢いよく席を立った。
「ねぇ、ナターシャ。この後なんだけど、ちょっとだけうちに寄ってくれない? お母様が―――」
そしてぐるりと教室を見渡して私に話しかけに来たシルビアを見つけ、
「シルヴィー!」
シルビアの用件が言い終わる前に早足でこちらへとやってきた。……無駄にキラキラした笑顔はラルフを真似してるのかな? 内心焦っているのが隠せてない辺りが兄ちゃんと違って可愛いよね。ほんわかした気分でく~ちゃんを見上げると、私の横まで来ていたシルビアの手をガシっと掴んで持ち上げた。
「シルヴィー! 同じクラスで嬉しいよ! ちょうど今日の舞踏会の打ち合わせをしたかったんだ。私と一緒に来てほしい。さあ、行こう!」
矢継ぎ早に捲し立てて、シルビアを引っ張っていくく~ちゃん。嫌がる素振りのシルビアと助けを求めるチワワの瞳が同時に私を見つめたので、シルビアに言う事を聞くようにジェスチャーを送るとしぶしぶ退室していった。やれやれ。あとでご機嫌取りに行かないとね……。
そして毎度の婚約者という噂で教室内が盛り上がりそうなので、巻き込まれない内に私も席を立つ。静々と扉を潜ったところで、まさかのステラが話しかけてきた!
「ねぇ、貴女、ナターシャ・ダンデハイム?」
「え、ええ……。早速名前を憶えて頂けたなんて光栄ですわステラ様」
邪魔にならないよう廊下の端に移動しながら、瞬時に動揺を隠して当たり障りなく微笑んだ。そんな私にステラがジロジロと顔を近づけてくる。
「あ、……あの?」
堪らず眉を下げると、ハッとしたステラが飛びのいて頭を下げた。
「ご、ごめんなさいっ!つい……」
「いえ、構いませんわ。でも、私に何か御用ですか?」
猫被り全開で淑やかに笑めば、ポッとステラの頬が色付いた。何か言いたげにもじもじしだしたので、焦らず彼女の出方を待っていると、
「おーーーーい、ステラ! 何してん?」
ステラの背後からハルマが湧いた。
「丁度良かった、迎えに来たとこだったんやけど探す手間が省けたで。ほら、早よ帰らんとババアに怒られ―――」
ハルマはステラしか見えてなかったようで、自分が来た理由をペラペラと話しかけている途中、ふとステラの向かいの私に気付き不自然にビシと固まった。
(ハルマも随分久し振りだけど、大きくなったわねぇ)
挙動不審のハルマに構わず、私はこれ幸いと彼を観察しだした。
身長はく~ちゃんよりちょっと低いくらいかな? 折角のサラサラした紫紺の髪を整髪料で無造作にハネさせ、前に会った時と変わらず襟足だけ伸ばしている。髪色と同じ紫紺の瞳は今大きく見開かれて、私を凝視している。中途半端に開いた口が何とも間抜けで、折角のイケメンが台無し……――そこまで考えた瞬間、私の記憶が呼び起こされた。
――――――………
―――……
『ああ、めっちゃカワイイやろ!!』
『だって総領主のご令嬢なんやろ?同じ伯爵家いうても家格は段違いであっちが上やん。それにこんなに別嬪さんやねんで?ヒメっちゅう呼び名が相応しいやん!』
『ダンデ君、王都へ帰ったらナターシャちゃんに伝えて頂戴。『ウチにお嫁に来るなら大歓迎よ』って』
『オカン、たまにはええこと言うなぁ!』
―――……
――――――………
不味い。そういえばこの子、私に変な思い入れがあったわね……。
笑顔の裏で引き攣るのをおくびにも出さずに私は逃げの一手を取った。
「ステラ様、何やらお忙しいご様子ですので、私は失礼させて頂きますわ」
軽く礼をとって優しくステラの手を取る。
「また後程、……別の機会にゆっくりとお話致しましょう?」
母様直伝の優雅な微笑みを残してその場を立ち去った。ゆったりとしたように見えるけど早歩きだ。そして最初の角を曲がって二人から見えなくなると、師匠のナビゲートを受けて姿を隠した。
程なくしてバタバタと二人が駆けて行くのを物陰から見送ってほっと息をつく。
「姫さん、モテモテ~♪」
「ウルサイ!」
ぐにっと師匠のほっぺたを手の平で押しやる。
もう! 私は変に目立ちたくないのっ!!
ここから【ステラ視点】の箇所が増えます。
分かり辛かったらごめんなさい(><;)




