オープニングは必然に
皆様新年如何お過ごしだったでしょうか?
お待たせいたしました。うちの子第二部開幕でございます!
お休み期間中も覗きに来て下さった方々、ブクマ付けてくれた方々ありがとうございます。
さていよいよ本題の学園編です。今年も楽しんで頂けるよう頑張ります!!
【星】の季節が去り、春がやって来た。
柔らかく降り注ぐ日差しは日に日に熱を帯び、其処彼処で新しい命が芽吹いていく。
装飾を無くしてしまった寂しい木々も、気付けば新緑や鮮やかな花のドレスを纏っている。
何もかもがキラキラと輝きだした【花2】の月。
今年16歳を迎える私、こと『ナターシャ・ダンデハイム』は通称『貴族学園』と呼ばれる『王国立クロスネバー学園』へ入学いたします!
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【花2-1】良く晴れた早朝。気持ちよく目覚めた私は手際よく身支度を済ますといつものルーチンのままに食堂へと向かった。そこにはいつもの様に家族が集まってくる。時間が合う限り食事は家族一緒にとるのがダンデハイム家の家風なのです。
「ナターシャ、入学おめでとう」
朝食を済ませた父様が――食後のコーヒーを片手に――私の方を見ながら目を細めた。
「貴女がもう社交界の仲間入りだなんて……本当に子どもの成長というのは早いものね」
同じく慈愛に満ちた表情で――父様の横に座っている――頬に手を添えた母様が眩しいものを見つめる様に目を眇めた。
「当然、デビュタントのエスコートは僕に任せてくれるんだろう?」
私の向かいに腰掛けている兄様が美々しく微笑んだ。
「ええ、勿論ですわ兄様。こちらこそよろしくお願いしますね」
そして私も家族を見渡して礼を述べながらはにかんだ。嬉しさと気恥ずかしさが織り交じって仄かに頬に朱がさすのが解る。それが一層私の照れを増長させて思わずもじもじしてしまった。
いつもと同じ朝食をとりながらの家族団らんの時間。
ただちょっとだけ違う所があるとすれば、私がドレスでは無く、真新しい制服に袖を通していることと、何だか屋敷中が妙に生温かい空気で満ちていることだろうか。
その原因たる自覚があるため、その空気を追い払うように咳払いして誤魔化した。
「……しかし、入学式はお昼前だろう?嬉しくて気が逸るとしても、登校するには些か早すぎるんじゃないかい?」
それにしても……と何時でも出かけられるとばかりに準備万端の私を見て父様が零した。
確かに思惑あって早めに登校する気ではいるのだけれど、朝食の後でゆっくり支度したとて間に合う時間なのだ。父様が不思議そうにするのも無理はないと思う。私がどうしようかと眉を下げかけた瞬間、母様がクスクスと笑った。
「もう、あなたはちっとも娘の気持ちがわからないのね。……うふふ、ナターシャちゃん、近くにいらっしゃい」
「母様!ありがとうございます!!」
思わぬ助け舟にパッと顔を明るくして両親の後ろに立った。振り返る様にして二人がこちらを見ている。母様が優しく頷いてくれたのに小さく礼をして父様を向いた。
「……父様が出仕される前に制服姿をお披露目しようかと思いまして。この後の支度だと父様のお出掛けに間に合いませんし、帰宅後はデビュタント用のドレスに着替えてしまいますから……。……あの、似合いますか?」
くるりと回転してカーテシーした私に父様が目を丸くした。そして顔が徐々に俯いていき表情が見えなくなると肩がわなわな震え出したのだ!
「え!? …と、父様……」
―――ガタンッッ!!
お行儀悪く鳴り響いた椅子の音。困惑に伸ばしかけた私の手が父様に辿り着くより早く、勢いよく席を立った父様に私は抱きしめられていた。
「私のために!! ああ、私の可愛いナターシャ!! お前が世界一可愛いに決まっている。私は果報者だ」
ぎゅうぎゅうと力いっぱい抱きしめられて苦しいけれど、そこに確かな愛情を感じて笑みが溢れた。
「もうあなたっ! そんなにしては折角の晴れ着が皺になってしまいましてよ!」
困り笑いの母様が幼子に言い聞かせるようにして父様を引きはがした。これから出仕だというのに父様は号泣している。「仕方のないひとね」とひとつ嘆息した母様が私を見上げて笑った。
「まったく。……ナターシャちゃん、ここは大丈夫だから支度に戻りなさいな。早めに登校すると昨日言っていたでしょう?」
「母様、ありがとうございます!」
「うふふ、いいのよ。貴女のデビュタントは私もエルバスと見に行くつもりだから楽しみにしているわ」
「はい、社交界の華の一角を担う母様の手腕を拝める機会を私も楽しみにしています」
「いやぁね、今日の主役は貴女達新入生でしょう。今日の私はただの保護者」
「そうだよ。それにしてもファーストダンスの栄誉を賜れるのだから、ナターシャの兄で僕は本当に幸せだよ」
いつの間にか横へ来ていた兄様が私の手を取った。それに呆れてひらひらと手を振り退出のジェスチャーをした母様。したりと笑んだ兄様が恭しく私をエスコートしだしたので、リードされるまま食堂を後にした。
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短い嘶きと共に止まった馬車から少女が降り立った瞬間、タイミング良く鳴り響く時刻を告げる教会の鐘。澄んだ音色を背景にして風に揺れる銀髪を手で押さえながら、その少女は仰いだ空の眩しさに気持ちよさそうに目を眇めた。
(うわーうわー!! オープニングスチルそのままっ!! やっぱりこのロケーション角度で間違いなかったわっ!!)
私の視界に映るのはすっかり淑女となったステラ。思春期特有の真新な魅力を全身に湛えた彼女はまさに主人公然としたオーラがある。一人興奮しながらくふふと不気味な笑いを漏らしていると、すぐ横で呆れた気配を隠さない師匠が盛大に嘆息した。
「で、何で姫さんはこの晴れの日にこんな植え込みの中でしゃがみ続けてんの?」
「し~っ! 師匠、声が大きい!! 今大事なところだから静かにして」
小声で叱責すれば「へ~へ~」とソウガが肩をすくめる気配がした。私は構わずステラを観察する。
そう、私が早めに登校した理由、それは物語の始まりを確認する為だった。
ゲームはステラが学園に入学する所から始まる。冒頭の記憶を手繰り、スチルのカメラワークを思い出し、ここぞというロケーションを探し出して張っていたのだ。私はその成果ににんまりほくそ笑む。
「ステラ、いつまでそんなとこに突っ立っとんねや。オレが降りられへんから早よどいてぇな」
「むぅ! 人が折角浸ってたのに邪魔しないでよね、ハルマっ!!」
そんな私の感動はにぎにぎしい二人の声であっという間に破られた。そしてハッとする。
(……そうだ。忘れていたわけじゃないんだけど、これはゲームじゃないんだよね)
ステラはプレイヤーでは無いのだ。ステラとしての人生を今日まで生きてきている。そして、そうなる為にハルマが――正確にはステラの後ろ盾となって教養を身に付けさせる後見人が――必要だった。
(本来なら最初は独りなはずのステラは既にハルマと一定以上の親密度を得ている。あ~、今こそステイタス表示が見れたらと思っちゃうなぁ……)
喧々轟々と仲良くじゃれ合うステラとハルマを見ながらそんな感想を抱いた。
私は今まで出来るだけうちの子たちのバッドエンドへ繋がるフラグをへし折って来たけど、ステラに関しては未だブラックボックスの容量が大きい。
だって私が知ってるステラはプレイヤーなのだから。
この世界の常識に乗っ取って、ステラが貴族学園へ入学できるようにお膳立ては出来たけれども、彼女についてはこれから探り探りいくしかない。極端な話、うちの子たちの誰とも恋しない可能性だってあるのだ。
(でも、私はサポート令嬢だから)
―――ステラがどんな道を選ぼうとも、皆がハッピーエンドへ向かえる様に全力を注ぐだけ。
「師匠、移動するわ!」
すっくと立ち上がりソウガを見上げれば何故か苦笑された。コトリと首を傾げた私に
「姫さん、何だか楽しそうだな」
わしゃわしゃと頭を撫でられた。
「そうね、ワクワクで武者震いしそう!」
挑む様に笑えば師匠が満足そうに目を細めた。
「ま、何かよくわからんが、俺は姫さんに仕えるだけだ」
私の頭上でポンポンと手の平を弾ませて離れたソウガの手を合図に私は歩き出した。さぁ、新しいストーリーの始まりだ!
まるで打ち切りのような締めですが続きますよ?w




